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贖いのユグドラシル  作者: 熊猫パンダ
第一章 幼少期

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6/12

6 契約という大罪

金属音が絶え間なく鳴り続く。刃と爪が交錯し、火花を撒き散らす中、カラシンが紙一重の間合いでホロイの猛攻を受け流している。


「ふっ...!!くっ!!...わかってても気を抜いたら遅れるっす...!」


「グるぁァ!!」


空振った一撃が地を抉る。ホロイの腕は鉄槌の如く振り下ろされ、切り裂かれた空気が地面を割く衝撃波となった。


カラシンの【嘘を見破る】力の真名は、【真実の審判(フォルセティ)】。

その力を魔力で惜しみなく増幅させることで、相手が戦闘中行う判断に伴うわずかなフェイントや迷い()を絶えず読み取る事が出来る。

それを応用して相手の次の行動を先読みすることで、カラシンは他に劣る身体能力をカバーしているのだ。


しかしこの強力な力はその強さと特性上魔力消費が膨大で、現在のカラシンの魔力では約1分で魔力切れを起こして倒れてしまう。


普段なら魔法のタイミングを合わせてオンオフすることで無駄な魔力消費を抑えていたが、ホロイの絶え間の無い攻撃を防ぐ為に常にフル稼働させなければならなかった。

斬り合いが始まってから既に30秒以上が経過している。



残った魔力は多くとも半分以下。

魔力は5分の1、約20%を切ると目眩が起きる。

15%を切ると吐き気、10%を切ると視界がぼやけ始め、5%で直立が困難になり、0%で意識は闇に沈む。


体調不良により残り魔力を管理するしかないが、ここまで緊迫した斬り合いの最中、今自分が体感する目眩が魔力切れによるものなのか酸欠によるものなのかわからない。


...というかそもそも魔法による先読みを止めた瞬間自分の首が飛ぶだろう。対するホロイはただの身体能力で魔法を使用している自分と互角以上にやり合っている上、連撃の速度が落ちる気配がまるで無い。


ただの"暴走"では無く、自我を削り落とし、人間を削ぎ落としながら"本来の姿"へと戻ろうとしている、生物としての圧倒的な力の差。


控えめに言っても、勝機ゼロ。


「...ちっ、才能ってキライっす...!」


どうしようか。

この状況を打開するには...


ジブンの魔力はもう残りギリギリ。


あの二人もいままでずっと力を使っているから魔力切れが危ういだろうし...


あとはリシテアさん。


いや、ダメだ。あの人の力は危険すぎる。

勘定に入れる訳には行かない。...けど...!!


「もっと応援を連れてくるんだったっすね...お前ら!ジブンを信じて残りの魔力全て攻撃に突っ込め!!」


カラシンの覚悟を悟り、二人はそれに応える。

無音の狂鳴がホロイの脳内を掻き鳴らす。念話の力を変則的に強化し、相手の脳内へ直接音を流し込む攻撃魔法。防御不能、回避不能。


「ぎゃあアぁッッ!!」


魔法の影響でホロイが聴いている音がカラシンにも流れ込んでくる。


想像を絶する苦痛と共にパンッと破裂音がなり、カラシンの鼓膜が弾け耳から血が流れる。


動きが止まる。千載一遇のチャンスーーー。



「はぁぁぁっ!!...あ...れ?」



数歩の距離。跳べば一瞬で届く筈だ。その長さがどうにも不可能な遠さに感じる。


視界が歪む。腕が重い。剣を持っていられない。立てない。身体が崩れ落ちていく。


「...魔力切れ...すか...」


カラシンが地面に膝を着くまでの刹那の一瞬を化物(ホロイ)が見逃すはずはなかった。



「ホロイ!!やめろぉぉーーーっっ!!!」



リシテアの泣き声にも近い絶叫はホロイに届くことは無かった。


鈍い音が鳴り、気絶したカラシンと騎士2人の胸に風穴が空く。


「ぐ...っ....」


心臓を突き破られながらも目の前で倒れゆくカラシンを二人は見ていたが、二人は信じた相手に裏切られた気持ちにはなっていなかった。寧ろ、自分たちが裏切らずに済んで良かったと、どこか安堵していた。



三人が同時に倒れる。その瞬間、山が静寂に包まれる。

戦闘を開始してから既に2分半が経過していた。

ここまで倒れずに居られたのが奇跡だった。


「...ぎィ、ガぁ...ガぁぁァァッ!!!」


手に持つ三つの臓を食い散らかし、勝利を確信した獣のように咆哮するホロイ。

その声はこの世に存在しては行けない程に醜かった。


「ぐルるる...」





残るは、一人。

獲物を狙うようにリシテアに目をやるホロイ。


目の前で自分が愛した子供が起こした罪。深い絶望と共に、リシテアの脳裏につい昨日までは当たり前に存在したはずの幸せな日常を思い出す。


「...ホロイ...」


リシテアはそっと立ち上がる。右手の拳を握りしめ、左足を一歩、踏み出した。


「どうやっても...もう、戻れないなら...!」


「げぁ」


口が耳まで裂けた醜悪な笑顔を見せ、跳躍する。視界から消えた。




~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~




数時間前。


「...お前はこの契約とやらを私にさせるために話したんじゃないのか?...大丈夫だ、教えてくれ」


「...わかったっす。それじゃこれ、食べてください」


カラシンがリシテアが手渡したのは、"陰のない林檎"。表面に一切の陰影が無く、まるで遠くの景色から林檎だけを切り取って張り付けたような、見るものに明らかな不自然さを感じさせる果実。


「これは...?」


「世界樹の実っす」


「世界樹...」


ユグドラシルや竜樹とも呼ばれる大樹。どんなに遠くにいようがあの木の葉はいつ空を覆うように、視界に映り込んでくる。

そんな所から落ちてきた木の実。


リシテアが林檎を齧る。


「...にがぁ」


「...味は期待しないでくださいっす、あと、たまに妙な声が聞こえたり触られる感覚あったりするんすけど、絶対反応しちゃダメっすよ」


「声...?」


目を閉じて集中するが、特に何も聞こえない。沈黙。何も聞こえないーーと、思ったその瞬間。


「そうっす、聞こえて来たら教えてください」


背後からカラシンの声がした。


「わかっ...」


反射的に返事しかけた所を目の前にいるカラシンにギリギリ口を塞がれた。


「っ...!応えちゃ駄目っす」


「...」


リシテアの耳に、遠くで何かが舌打ちしたような音が聞こえた気がした。


「今のは...?」


「...ね?"()()()()()でしょ?...最初は幻覚作用のある毒がこの実に含まれてるんじゃないかと言われてたんですが、どうにも毒が見つからないこととか皆妙な体験をしてることが5()()()()()()分かったことから、呪術に近い何かがあると考えられてるっす」


「5回かかったって?」


「・・・5人犠牲になったともいえるかもっすね」


「な...っ!!」


「生死どころか、どこに行ったのかさえ未だ見つかってないっす。噂じゃ世界樹に向かった、とかナントカ。とにかくその犠牲のお陰であの実を食べちゃいけないことが分かりました。でも、その『"悪魔"に応えなかったらどうなるのか?』知識欲狂の物好きがいたんす。その人の名前はイネス。僕のパワハラ上司っす」


「イネス...それでその人は?」


「見事呪毒の回避に成功。と思いきや一度死にました」


「はあっ!?」


一度、と態々言うということはその次があるということ。


「...リシテアさん、案外リアクションいいすね」


「黙って続けろ」


脛にローキック。


「うぎっ!黙ったら続けれないっすよ...冗談冗談!!...なんとイネスさんは蘇り、歴史上2人目の契約者になったっす。ま、これはまた別の話っす」


「色々含みのある言い方すぎるが...つまりは林檎を食べた後、一度死んだときに悪魔とやらと契約しているのか?」


「んー、まあそんな感じっすね。ただし、契約の時、力の代償はよーく考えてくださいっす!相手は人間の味方でもなければ敵でもありません、情や思いやりなんてなく、気まぐれに何かを持って行きますよ。」


「は...?」



突如視界が揺らぐ。

目の前のカラシンが水面のように揺らいでは波打ち、長く引き伸ばされていく。


「おとと、ほい。」


咄嗟に倒れ込んだ自分を抱えて横に寝かせてくれたらしい。完全に方向感覚を失ったが、体を支えられているのを感じた。


「イネスさんは見事呪毒に回避したかと思われたんすけど、本当はこの果実の毒は現在のどんな治療法も敵わない即死毒でした。でも、これまでイネスさんとジブンらを含めた一定数の人間が人知を超える力を手にして蘇ってきたんす。でもーーー」







「...」


「...お前は?」


真っ白で、真っ暗な空間。空間?絵画?立体で平方で、限り無く具体的で抽象的な民主的で社会的で改革的で保守的で積極的で叙情的で写実的で世界的な、鮮明で曖昧なーー砂の花園。


凡ゆる情報が投げ込まれ、右から左へ流れること無く脳内を掻き回す。この世の全てが聞こえ、見え、感じる故に、何も理解できない。


それは、怠惰の後悔。

それは、色欲の蒼白。

それは、憤怒の再生。

それは、傲慢の代償。

それは、強欲の贖罪。

それは、暴食の満足。

それは、嫉妬の祝福。


ナニヲノゾム?


「...また、前のように、ただ、昨日までのように。また二人で夕飯を...」




「蛯イ諷「縲∝ォ牙ヲャ縲∵?」








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