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第十二話 春季魔法実践演習


 夏季休暇までの大きなイベントは、春季魔法実践演習と学内総合競技大会である。このゲームは、攻略対象者に年上の先輩キャラが多い都合なのか、全学年合同の学内イベントが多かった。この二つの催しもその例にもれず、学園の一年生から三年生までが参加する大型イベントだ。もちろん、どちらもそれなりの事件が起こる。


 まず、春季魔法実践演習だ。その時点で一番好感度の高い攻略対象者が魔力暴走を起こす。他の魔力を中和する性質がある光の魔力を持ったヒロインがそれを止めることで、その相手からの好感度が上昇するイベントだった。

 ちなみに、一定の条件下ではヒロイン自身が魔力暴走を起こす。アレクシスか教授が止めてくれるが、後者の場合はどの攻略対象の好感度も動かない。


 魔力暴走というのは、文字通り魔力の暴走である。未熟な魔力制御と激しい感情の起伏が原因と言われている。魔力暴走を起こした者は、自身の魔力が尽きるまで手当たり次第に使える魔法を連発するので、人によっては大惨事になる。

 イベントの成功――魔力暴走を止めるには、ヒロインの魔法ステータスを一定以上まで育てた上で、ミニゲームをクリアする必要がある。基準以下だと即失敗だ。必要ステータスは相手によって異なり、相手の魔力が高いほど必要ステータスも高かった。

 このイベントはそこそこ難しいだけあって、好感度の上げ幅が大きい。さらに成功するか否かで細かいイベントの数が変わるため、失敗すると大損なのだ。


 このイベントで魔力暴走を起こした時に一番被害が大きいのは、カミルという攻略対象者である。

 カミル・レイトン――魔術の名門レイトン伯爵家の出身で、莫大な魔力量と技術を持ち、学園創始以来の魔術の天才と言われている。入学時点ですでに教師をも凌ぎかねない魔法の実力を持っていた。飛び級入学であるため、実はヒロインより一歳下という実質的な「年下枠」である。

 カミルは銀髪に薄紫の瞳の、中性的な儚げイケメンだ。表情の変化も感情の起伏も少ない、どこか影のある少年だった。

 カミルの魔力暴走イベントに失敗すると、なんと学園が半壊する。ご丁寧に半壊した校舎のスチルまで用意されていた。当然カミルは謹慎処分を喰らい、イベントが二、三個飛ぶ。カミルは序盤に好感度を上げづらいので、大打撃である。なお、成功すれば演習場がちょっと壊れるくらいで済む。成功しても他の攻略対象者の失敗時と同等とは、さすがは天才と言ったところか。


 この春季魔法実践演習の魔力暴走イベントに、フェリシアは関わっていた。

 魔力暴走とは、未熟な魔力制御と激しい感情の起伏が原因と言われている。()()()()()()()()()()()()()()()()()()を持ち、()()()()()()()()()カミルが、なぜ魔力暴走を起こしたのか。その答えが、フェリシアの関与である。

 ゲームのフェリシアは、この春季魔法実践演習に、魔力暴走を人為的に誘発する呪具を持ち込んでいたのだ。魔力操作に慣れないヒロインに魔力暴走を起こさせ、恥をかかせようという計画だった。

 フェリシアが持ち込んだ呪具は、本来はカミルのような実力の人間に効くような代物ではなかった。しかし、ここでヒロインの光の魔力が悪い方向で作用してしまう。光の魔力は、他の魔力を中和して威力を弱めることもできるが、逆に他の魔力と共鳴させて威力を強めることもできるのだ。ヒロインの光の魔力の影響で呪具の威力が上がり、カミルの魔力暴走が引き起こされたという訳だ。

 一定条件下のカミルルートでは、それを知ったヒロインがカミルに罪悪感を抱いてぎくしゃくするイベントがあるのだが……まあ、そんなことはどうでもいい。クレイにとって重要なのは、この事件にゲームのフェリシアが関与しているという一点だった。


 今のフェリシアがこのような事件を起こすとは万に一つも思えないのだが、この件に関してクレイはすでに手を打っていた。ゲームのフェリシアは、この事件で使った呪具を闇マーケット経由で手に入れていたのだ。そして闇マーケットは――二年前の一斉摘発で、未だ壊滅状態である。

 たとえ何かの間違いで今のフェリシアが魔力暴走事件を計画したとしても――むしろそれこそ呪具の存在を疑いたくなるのだが――事件が起こるはずがなかった。


 案の定、春季魔法実践演習の時期が過ぎても、魔力暴走事件やら演習場の修理やらといった噂は聞こえてこない。()にも確認させたが、何事もなく終了したようだった。

 数日後に届いたフェリシアの手紙には、新入生のカミル・レイトン君が大活躍していたと書いてあった。新入生では断トツの高得点で、全体でもアレクシス殿下に次いで二位に食い込む成績だったという。フェリシア自身の成績は全体五位とあった。カミルの魔法に感心するような文章があって、クレイは楽しそうで何よりだと小さく笑った。

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