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銀の錬金術師と静寂の盾  作者: ゆでたーま


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4/20

4話

学園入学から二週間。新入生たちを振るいにかける最初の関門「選抜クラス分け試験」の日がやってきた。

 この試験の結果次第で、今後の支給品や研究費、果ては卒業後の進路までが左右される。

「……アルス、本当に大丈夫なの? 私と同じチームになったことで、あなたまで狙われてるみたいだけど」

 演習場の待機室で、エリナが不安げに僕を見た。彼女の腰には、僕が錬成した銀の長剣『静寂』が差されている。

 今回の試験ルールは、三人一組のチームによる「旗取り戦」だ。しかし、僕とエリナのチームには三人目が現れなかった。本来なら自動的に割り振られるはずの欠員が、誰かの手回しによって「空位」にされたのだ。

「心配するな。数は力だが、質と『準備』はそれを凌駕する」

 僕は作業着のポケットに詰め込んだ、自作の錬金薬液や金属片の感触を確かめる。

 演習開始の鐘が鳴り、僕たちは広大な森のフィールドへと送り出された。

「いたぞ! 落ちこぼれと、生意気な公爵令嬢だ!」

 開始早々、僕たちの前に立ちはだかったのは、十人以上の生徒からなる「連合」だった。本来、チーム同士は敵対するはずだが、彼らは事前に手を組み、目障りな僕たちを最初に排除しようと画策していたらしい。

 中心にいるのは、入学初日に僕を嘲笑った貴族の子息、カイゼルだ。

「おいおい、二人きりか? 随分と舐められたものだな。エリナ様、貴女がその無能な平民を見捨ててこちらに来るなら、悪いようにはしないが?」

「断るわ。私はアルスを信じているもの。……それに、あなたたちじゃ私の相手にはならないわよ?」

 エリナが『静寂』の柄に手をかける。その瞬間、彼女から放たれる威圧感に、取り巻きの生徒たちが一歩後ずさった。だが、カイゼルは卑屈な笑みを浮かべたまま動かない。

「……だろうと思ったよ。だから、少し『仕掛け』をさせてもらった」

 カイゼルが合図を送ると、周囲の木々に隠れていた生徒たちが一斉に魔導杖を掲げた。

 発動したのは、大規模な『重力拘束グラビティ・バインド』。

 本来、学生レベルで使える魔法ではない。おそらく、高価な使い捨ての魔導具を大量に持ち込んだのだろう。

「くっ……体が、重い……!」

 エリナが膝をつく。彼女の膨大な魔力をもってしても、多人数による重層的な拘束魔法を無力化するには数秒の時間がかかる。その「数秒」が、戦場では致命的だ。

「さあ、終わりだ! 全員、一斉に放て!」

 カイゼルの号令とともに、炎、氷、雷の攻撃魔法が、身動きの取れない僕たちへと殺到する。

 エリナが絶望に瞳を揺らした。

「アルス、逃げて……!」

「逃げる必要はない。……言っただろ、準備はしてあると」

 僕は地面に手を突いた。

 この森の土壌には、事前に僕が「ある加工」を施した極小の金属粉を散布しておいたのだ。

(……配置完了。全回路、接続。——『等価交換:防壁転換』)

 僕の魔力値12が、導火線の火となって回路を駆け抜ける。

 次の瞬間、僕たちの周囲に展開されていた「重力魔法」のエネルギーが、物理的な構造へと強制的に変換された。

 キンッ! と高い音が響き、僕たちを囲むようにして「透明な水晶のドーム」が出現した。

 降り注ぐ魔法の嵐は、そのドームの表面を滑るように弾かれ、周囲の森を焼き払うだけで僕たちには傷一つ付けられない。

「な、なんだと!? 重力魔法を……物質に変換したのか!?」

「魔法とはエネルギーの奔流だ。そのベクトルを少しだけ捻じ曲げて、安定した分子構造として固定してやった。……君たちの魔力が高いおかげで、随分と頑丈な盾ができたよ。感謝する」

 僕は冷ややかに言い放ち、エリナの手を取った。

 拘束から解き放たれた彼女は、驚愕に目を見開いていたが、すぐに不敵な笑みを浮かべた。

「……アルス、やっぱりあなたは最高だわ!」

 彼女が『静寂』を抜き放つ。

 銀の刃が、ドームを内側から「僕が設定した出口」だけを切り裂いて通り抜けた。

「次は、こっちの番ね」

 それは、もはや戦闘ではなかった。

 『静寂』によって制御されたエリナの一撃は、森の木々ごと敵連合をなぎ倒した。あまりの威力に、カイゼルたちは悲鳴を上げる暇もなく、転移の救助結界が作動して強制脱落していった。

 静寂が戻った森の中で、エリナは剣を鞘に収めると、僕に抱きついてきた。

「見た!? 今の私の踏み込み! 剣が全然ぶれなかったわ!」

「……ああ、よくやった。だが、抱きつくのはやめろ。暑苦しい」

「照れちゃって! さあ、次はあっちのチームを狩りに行きましょう!」

 魔力値12。

 正面から戦えば一秒も持たない。けれど、戦場の理屈を書き換えれば、神童たちさえも掌の上で踊らせることができる。

 僕たちは残りの試験時間を、圧倒的な効率で旗を回収し、ぶっちぎりの一位で終えることとなった。

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