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銀の錬金術師と静寂の盾  作者: ゆでたーま


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20/20

20話

月面の静寂が、黄金と銀の衝突音によって粉砕された。

 数千体におよぶ「複製された12番」たちが、一斉にアルスとエリナへと襲いかかる。彼らは同一の演算速度を持ち、寸分の狂いもない連携で死角を突いてくる。

「アルス、右から来るわ!」

 エリナの叫びと同時に、彼女の剣『静寂』が閃いた。アルスの黄金の義手から供給される「最適化された熱量」を纏ったその刃は、月面の冷気を切り裂き、次々と複製体たちを塵へと変えていく。

 だが、数は無限に近い。一体を壊せば、足元の水晶から二体が新たに生まれる。

「……無駄よ。ここは私の思考そのもの。私が『必要だ』と定義する限り、君たちの敵は尽きることがない」

 揺り籠に座る少女ステラが、冷淡に告げる。

 アルスの脳は、限界を超えた演算により、耳から血を流し始めていた。視界が白く染まり、右腕の義手が悲鳴を上げる。

「アルス……もう、やめて! これ以上はあなたの魂が持たないわ!」

 エリナが背後から彼を抱きしめる。その温もりが、崩壊しかけているアルスの意識を辛うじてこの世界に繋ぎ止めていた。

「……いいんだ、エリナ。……ステラが『無限』なら、僕は『ゼロ』になるだけだ」

「え……?」

 アルスは右手を、自分の胸——心臓のコアへと突き立てた。

 そこには、これまで彼が再構築してきた無数の事象の「履歴」が、魔力12という極小の数値の中に圧縮されて眠っている。

「ステラ。あんたの計算式は完璧だ。だからこそ……『解なし』という答えには耐えられない」

 アルスは、自分の存在そのものを「変数値」として全演算に放り込んだ。

 自身の命、記憶、そしてエリナへの想い。それらすべてをエネルギーではなく、計算を狂わせる「バグ」として。

「——全事象、強制再構築。定義名:『不確かな明日』!!」

 ドォォォォォォォォォォォン!!

 黄金の光が月面を飲み込んだ。

 ステラが維持していた「停滞の理」が、アルスの放った「矛盾」という猛毒によって内側から崩壊していく。数千の複製体たちが、悲鳴を上げる暇もなくただの光の粒子へと還り、月面の水晶が砂となって崩れ去った。

「な、ぜ……!? 私の計算に、間違いは……っ」

 ステラの姿が透き通り、消え始める。

 崩壊する月界の空に、アルスは最期に手を伸ばした。

「計算が合っているから正しいんじゃない。……間違えながら、迷いながら歩くのが、僕たちの選んだ『正解』なんだ」

 月が砕ける。

 宇宙の闇へと放り出される二人。

 アルスは消えゆく意識の中で、自分を離さないエリナの手を、生身の左手で強く握り返した。

 数ヶ月後。

 王国北端の小さな町に、二人の旅人の姿があった。

 一人は、右腕を黒い布で隠した、どこか飄々とした雰囲気の少年。

 もう一人は、腰に使い古された銀の剣を佩いた、凛とした美しさを持つ少女。

「……アルス、見て! お花が咲いてるわ。あんなに雪深かったのに」

「ああ。……世界が『管理』から外れて、少しだけ勝手気ままになった証拠だな」

 アルスの右腕は、今も銀色の義手のままだ。だが、以前のような神の力はない。ただ、壊れた物を直し、誰かのために火を灯す程度の、ささやかな錬金術が使えるだけだ。

 魔力値は——相変わらず『12』のまま。

「ねえ、アルス。これからどうする? ローゼリア家からはまだ指名手配されてるみたいだけど」

「そうだな。……世界中に、僕と同じ『12』の数字に縛られた連中がいる。彼らの刻印を消して回るのも、悪くない」

 アルスは空を見上げた。月はもう、自分たちを監視してはいない。ただの夜空を照らす、静かな星に戻っていた。

「……行こう、エリナ。次の『数式』を書きに」

「ええ。どこまでも、あなたと一緒よ」

 二人は手を取り合い、地図にない道を歩み始める。

 それは、神に与えられた運命ではない。

 不器用で、不完全で、けれど何よりも眩しい、彼ら自身の物語の始まりだった。

最後までお付き合いいただき、ありがとうございました!

魔力値12という絶望的な数値から始まり、最後には世界の理すらも「不完全なもの」として受け入れるアルスの物語、いかがでしたでしょうか。

次の作品の執筆をしていて明日にでも投稿する予定なので、よろしければ見てください!!

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