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銀の錬金術師と静寂の盾  作者: ゆでたーま


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18/20

18話

「12番よ、同胞たちの嘆きを聞け。これが君に届かなかった者たちの末路だ」

 マクスウェルの号令と共に、11体の異形が回廊を埋め尽くした。

 ある者は腕が巨大なピストンのように肥大化し、ある者は全身から高熱の蒸気を噴き上げている。彼らはかつてアルスと同じ「神の器」を目指し、そして壊れた者たちの残骸を、無理やり機械で繋ぎ止めた亡霊レムナントだ。

「——第4被験体、起動。事象:『重力偏向』」

 一人の亡霊が床を叩くと、アルスの周囲の重力が一瞬で数十倍へと跳ね上がった。

 ドサリ、と膝をつくアルス。その背にさらなる負荷をかけるべく、全身が刃物と化した第7被験体が回転しながら肉薄する。

「アルス!!」

 エリナが叫び、重力の檻を強引に突破しようと踏み込む。だが、その足元を第9被験体の「液体窒素の奔流」が凍りつかせ、動きを封じた。

「ヒヒッ……苦しいか、12番。わかるよ、その痛み。……私たちが味わった絶望を、あんたにも分けてやる!」

 11番の老婆の声が、亡霊たちのノイズと混ざり合って響く。彼女もまた、この実験場の一部としてアルスの覚醒を促す装置に過ぎなかったのだ。

 アルスは重力に押し潰されながら、床に這いつくばったまま笑った。

 その口端から一筋の血が流れるが、彼の瞳はこれまでにないほど澄み渡っていた。

「……確かに、あんたたちの演算ロジックは完璧だ。……でも、一つだけ計算違いをしている」

「……何だと?」

 アルスは銀の義手で、自分を縛り付けている「重力」そのものに触れた。

「あんたたちは、過去の失敗を『積み重ねて』僕を造った。……なら、僕の中には、あんたたち全員の『癖』も『弱点』も、最初から記録されているんだよ」

 アルスの義手が眩いプラズマを放つ。

 『解析終了。第1から第11までの統合コード、入力——』

 パキィィィィィィン!!

 回廊を支配していた重力が霧散し、凍りついた床が瞬時に沸騰して蒸発した。

 アルスは立ち上がる。彼の右腕から放たれる銀の粒子は、今や亡霊たちの能力を「模倣」するのではなく、それらを「無効化(初期化)」する波動へと進化していた。

「——『全事象初期化オール・リセット』」

 アルスが右手を一閃させる。

 亡霊たちの体を構成していた継ぎ接ぎの機械が、次々と砂へと還っていく。それは破壊ではなく、彼らを苦しみから解放する「再定義」だった。

「12番……ああ、やっと……眠れる……」

 亡霊たちが安らかな粒子となって消えていく中、アルスは右腕をそのままマクスウェルへと向けた。

「マクスウェル。あんたが僕に施した最後の『バグ』を見せてやる」

 アルスは背後にいるエリナへと手を差し出した。

 エリナはその手を取り、自身の心臓に眠る「公爵家の秘奥」——魂の根源にある魔力を、一切の躊躇なくアルスの義手へと流し込んだ。

「二人の魂の結合は、計算式には入っていないわよね。……いくわよ、アルス!」

「ああ。……『銀河の調律ギャラクシー・チューニング』!!」

 義手から放たれたのは、一筋の細い光の線だった。

 それはマクスウェルが展開した幾重もの魔法障壁を、まるで紙のように貫通し、彼の胸の中央にある「マスター・コア」を正確に射抜いた。

「……はは、見事だ。12番。……君は、設計図を書き換えた。……人という名の、予測不能なバグによって……」

 マクスウェルは、満足げな微笑みを浮かべたまま、光の中に溶けて消えた。

 静寂が戻った回廊で、アルスとエリナは肩を寄せ合って立ち尽くしていた。

 右腕の熱は引き、銀の輝きは穏やかな月光のような色に落ち着いている。

「……終わったの?」

「いや、まだだ。マクスウェルはただの管理者サーバーに過ぎない。……この世界を『実験場』だと定義している本当の黒幕は、まだ空の向こうにいる」

 アルスは、天井のない回廊から見える、異常なほど大きく輝く「月」を見上げた。

 そこには、古代から続く「神々の設計図」の真の主が待っている。

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