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銀の錬金術師と静寂の盾  作者: ゆでたーま


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17/20

17話

氷の都市の最奥。マクスウェルに導かれた先には、巨大な結晶体が規則正しく並ぶ「記憶の回廊」が広がっていた。結晶体の一つ一つが淡い光を放ち、そこには数千年にわたる人体錬成の記録が、光の粒子として保存されている。

「……見なさい。これが君たちの、そしてこの世界の正体だ」

 マクスウェルが結晶に触れると、空中にかつての大戦の光景が投影された。

 空から降り注ぐ巨大な「ことわりの楔」。魔法というエネルギーが暴走し、物質が分子レベルで崩壊していく。人類は自らが作り出した魔法文明によって、自滅の危機に瀕していた。

「魔法は便利だが、不安定だ。だから当時の賢者たちは考えた。世界を安定させるためには、意志を持った『変換機コンバーター』が必要だとね」

 投影された映像は、一人の少年へと切り替わる。

 無数の管に繋がれ、培養液の中で眠る幼い日のアルスの姿。

「1番から11番までは、魔力の出力に耐えきれず魂が砕けた。だが君は違った。君は魔力を持つことを拒絶することで、外部の魔力を完璧に物質へと再構築する『空の器』として完成したんだ」

「……僕は、世界を繋ぎ止めるための、ただの『楔』だというのか」

 アルスが問いかけると、マクスウェルは冷酷に頷いた。

「そうだ。君がエリナと出会ったのも、君の演算能力を最大化させるための『適合実験』に過ぎない。君が彼女に抱く『守りたい』という感情も、効率的な連携を行うための初期プログラム(本能)だとしたら……どうする?」

 その言葉に、エリナの体が激しく震えた。

 自分がアルスを想う気持ち、アルスが自分にくれた言葉。そのすべてが、誰かに書かれた数式に過ぎない。その可能性が、彼女の誇り高き心を切り裂く。

「ふざけないで……。私たちの絆が、そんな記号で片付けられるはずがないわ!」

 エリナが叫び、マクスウェルに向けて『静寂』を抜こうとした。

 だが、アルスの銀の義手が、そっと彼女の腕を制した。

「アルス……?」

「……プログラムかどうか、なんて僕にはわからない。だけど、一つだけ確かなことがある」

 アルスはマクスウェルを真っ直ぐに見据えた。彼の瞳には、演算による冷徹さではなく、静かな怒りが宿っていた。

「マクスウェル。あんたの言う『設計図』には、この右腕の熱さは記されていないはずだ。……誰かを守るために、脳が焼き切れるようなこの痛み。それは、数式には変換できないものだ」

 アルスの右腕から、かつてないほど濃密な銀の粒子が溢れ出した。

 それは周囲の記憶結晶を共鳴させ、回廊全体を白銀の世界へと塗り替えていく。

「もし、僕が『楔』として造られたのなら……その役割ごと、世界を再定義してやる。……僕は、僕であるために、あんたたちが作った『正解』を破壊する」

「……面白い。感情というバグが、どこまで論理ロジックを凌駕するか。試してみようじゃないか」

 マクスウェルが指を鳴らす。

 回廊の壁が開き、そこから「1番から11番」までの、かつての被験体たちのなれの果て——機械の残骸を繋ぎ合わせたような『亡霊』たちが、一斉に襲いかかってきた。

「エリナ、剣を。……プログラムを書き換える。僕たちの力で、新しい答えを出すんだ」

「ええ……! アルス、私のすべてを、あなたの『意志』に預けるわ!」

 二人の魂が、絶望の記録を越えて再び重なる。

 作られた命が、創造主に牙を剥く反逆が、本格的に始まった。

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