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銀の錬金術師と静寂の盾  作者: ゆでたーま


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14/20

14話

学園を脱出し、険しい山嶺を越えて三日。アルスとエリナの前に現れたのは、どの国の地図にも記されていない、石と泥にまみれた宿場町『境界の廃都』だった。

 そこは、国を追われた罪人や、魔法を失った浮浪者たちが吹き溜まる、法と秩序の届かない場所。

「……ここが、あの学園長が言っていた『実験場』の一部ってこと?」

 エリナは身を隠すための古びたマントを深く被り、周囲を警戒しながら呟いた。

 かつての煌びやかな公爵令嬢の面影はない。だが、その手はしっかりとアルスの肩を支えている。アルスは脱出時の過剰演算により、いまだに視界が定まらず、足元がおぼつかなかった。

「……ああ。魔法文明の恩恵から切り離された、物質の剥き出しの現実だ」

 アルスは乾いた喉を鳴らし、町の中心にある、今にも崩れそうな酒場へと足を進めた。

 扉を開けると、不快な脂の臭いと静寂が二人を迎えた。客たちは皆、血走った目で新参者である二人を品定めしている。

 酒場の隅、煤けた暖炉の前で、一人の老婆がパイプをくゆらせていた。

 彼女は、入ってきたアルスの顔を見た瞬間、ガラガラとした耳障りな笑い声を上げた。

「……ヒヒッ。ようやく来たか、12ナンバー・トゥエルブ。思っていたよりも随分と『人間』の形を保っているじゃないか」

 アルスの意識が、その言葉に反応して鋭く覚醒した。

 彼は老婆の前に歩み寄り、酒で汚れたテーブルを叩いた。

「……あんた、何を知っている。なぜ僕をその数字で呼ぶ」

「知っているも何も……。あんたが着ているその薄汚れた魂の『設計図』を書いたのは、私らさ。……見な。私にもあるんだよ、消えない『欠陥』がね」

 老婆がボロボロの袖を捲り上げると、その枯れ木のような前腕に、醜い火傷のような跡で『11』という数字が刻まれていた。

「第11被験体……」

「そうだ。私は『物質の流動』を司るはずだった出来損ないさ。あんたが生まれる十数年前、この町に捨てられた。……12番、あんたは『完成形』だと言われていた。どんな魔力も、どんな物質も、自身のボディを壊すことなく最適化して出力できる、究極の変換器だとね」

 エリナが老婆の襟首を掴み、鋭い声を上げた。

「アルスを物みたいに言わないで! 彼は私のパートナーよ、実験体なんかじゃない!」

「ヒヒッ、勇ましい聖騎士様だ。だがねえ、そこの坊やが今、右腕の激痛に耐えているのはなぜだと思う? ……器が完成していても、流し込む『数式』が重すぎるのさ。あんたのその莫大な魔力……それをアルスが処理し続ける限り、彼は内側から焼き切れる」

 エリナの手が震え、力が抜けた。

 アルスの不調の原因。それは自分との「結合エンゲージ」そのものに負荷があるという事実。

「……いいんだ、エリナ。彼女の言うことは半分は正しい。だが、僕が壊れるかどうかは、僕が決めることだ」

 アルスは老婆を見据えた。

「11番。あんたを訪ねれば、この右手の熱を抑える方法がわかると聞いた」

「方法は一つ。この町の地下にある『旧時代の精錬所』で、あんたの回路を焼き直すことだ。……ただし、そこには『黄昏の歯車』が放った追手が待ち構えている。奴らも必死さ。12番の『核』さえ手に入れば、世界を再構築する装置が完成するんだからね」

 その時、酒場の壁が外側から爆散した。

 土煙の中から現れたのは、学園で戦った機械人形をさらに大型化させ、四肢に巨大な回転鋸ソーを取り付けた「処刑用兵器」だった。

「……標的、確認。……第12被験体。……および、随伴する特異魔力反応」

「早いな……。エリナ、立てるか」

「……ええ。私が、あなたの回路を焼き切らせない。……私の魔力を、あなたの盾にするんじゃなくて、あなたの『一部』にする方法、今ここで見つけてみせるわ!」

 エリナが立ち上がり、折れたテーブルの脚を拾い上げた。

 アルスがその木片に触れる。一瞬で、木材は超高密度の「炭素鋼」へと変質し、白銀の光を宿した。

 無法の町で、かつての被験体たちと、最新の殺戮兵器が激突する。

 アルスは、自分が「人間」として生きるための、最初の反逆を開始した。

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