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銀の錬金術師と静寂の盾  作者: ゆでたーま


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11/20

11話

ローゼリア公爵領から学園へ戻る馬車の中、空気は重く沈んでいた。

 アルスは右腕に包帯を巻き、窓の外を流れる景色をぼんやりと眺めていた。あの機械人形との戦闘で、彼の体内にある魔力の通りパスは酷使され、今も熱を帯びている。

「アルス、本当に無理をしないで。学園に戻ったら、すぐに聖教会の治癒師を呼ぶから」

 隣に座るエリナが、心配そうに彼の左手を握る。彼女自身の魔力もまだ完全には回復していないはずだが、その瞳には自分を責めるような色が浮かんでいた。

「……治癒師の魔法じゃ、これは治せない。僕の体質は、普通の魔導師とは『設計』が違うんだ」

 アルスは静かに手を引き、自分の右手の甲を見つめた。あの時、確かに聞こえた声。「第12被験体」。その単語が、呪いのように耳にこびりついている。

 やがて馬車が学園の正門に到着した。

 本来なら、公爵家の令嬢と、その窮地を救った英雄の帰還だ。門兵たちが敬礼し、華々しく迎えられるはずだった。

 しかし、そこで彼らを待っていたのは、冷徹な武装をした執行委員会の面々と、学園副学長である「バルドル」の姿だった。

「——エリナ・フォン・ローゼリア様。お戻りをお待ちしておりました。貴女は直ちにローゼリア家別邸へ移り、謹慎していただきます」

 バルドルの声には、隠しきれない敵意が混じっていた。

「……謹慎? 理由を説明しなさい、バルドル先生! 私たちは公爵領で賊を退治してきたのよ!」

「賊、ですか。我々の報告によれば、アルス・レーヴェンが禁忌の術式を用いて、公爵邸の宝物庫を破壊し、公爵家の騎士団に危害を加えたと聞いております」

「なっ……! そんなの、お兄様が勝手に流したデタラメよ!」

 エリナが身を乗り出して抗議するが、バルドルは鼻で笑った。

「どちらが真実かは、諮問委員会が判断します。……そして、アルス・レーヴェン。貴様は『特別隔離房』へ連行する。魔力値12でありながら、公爵家のエリートを打ち負かし、未知の兵器を破壊した……その異能、魔族との契約を疑わざるを得ない」

 周囲の生徒たちが、ヒソヒソと囁き合う。

「やっぱりあいつ、化け物だったんだな」

「魔力12なんて嘘だろ。きっと恐ろしい呪いを使ってるんだ」

 昨日まで「奇跡の錬金術師」ともてはやしていた連中の目は、一瞬で恐怖と排斥の色に染まっていた。

「待ちなさい! アルスを連れて行くなら、私を斬ってからにしなさい!」

 エリナが『静寂』の柄に手をかけた。その瞬間、バルドルが懐から一つの魔導具を取り出した。

「おっと、無駄ですよ。これは『魔力中和のマナ・ミスト』の起動スイッチだ。これを使えば、この広場の魔力は数時間沈黙する。……今の貴女に、魔力なしでこの騎士たちを相手にする体力は残っていないはずだ」

 卑劣な。アルスは冷めた目でバルドルを見た。

 彼らは、エリナを「公爵家の娘」として保護しつつ、その「矛」であるアルスを奪い、二人を分断しようとしている。アルスの技術が、学園の権威体系を根底から壊しかねないことを恐れているのだ。

「……エリナ、いいんだ」

 アルスが、一歩前へ出た。

「アルス! 何を言ってるの!?」

「ここで暴れても、君の立場が悪くなるだけだ。……彼らは僕を殺しはしない。僕の『技術』が惜しいからな。……だから、少しの間だけ離れるだけだ」

 アルスはエリナの耳元に、自分にしか聞こえない音量で囁いた。

「『静寂』の柄の裏に、僕の魔力を込めた銀の針を仕込んでおいた。何かあれば、それを強く押せ。一時的に君の魔力を暴走させず、指向性を持たせることができる。……自分を信じろ、エリナ」

「……アルス……」

 エリナの瞳に涙が溜まる。彼女は唇を噛み締め、差し出されたアルスの手を見つめた。

 アルスはバルドルに向き直り、無造作に両手を出した。

「行こう。……ただし、あまり居心地が悪い部屋なら、内側から扉を『分子分解』させてもらうからな」

「……フン、どこまで強気でいられるかな」

 鎖で繋がれたアルスが連行されていく。

 夕日に照らされた学園の影が長く伸び、二人の距離を無慈悲に引き離していった。

 これが、学園編の第2幕——「孤立と再起」の始まりだった。

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