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銀の錬金術師と静寂の盾  作者: ゆでたーま


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1話

処女作です。よろしくお願いします。

「——次、アルス・レーヴェン。前へ」

試験官の、事務的で冷淡な声が広いホールに響いた。

王立魔導学園。この国のエリートを輩出する最高学府の入学試験は、人生の分岐点だ。周囲を見渡せば、高価な魔導服に身を包んだ貴族の子息たちが、自信に満ちた顔で並んでいる。対して僕の格好は、地方の町工場から持ってきた、煤けた作業着を新調しただけの代物だった。

「はい」

僕は一歩前に出た。中央に鎮座するのは、巨大な魔力測定用の水晶台だ。

この世界において、魔力は「才能」そのものだ。魔力が多ければ高位の魔法が使え、騎士や魔導師として華々しい人生が約束される。

僕は静かに水晶に手を置いた。

(……少しだけ、流せばいいな)

手のひらから、自分の中にある微かな「熱」を水晶に送り込む。

水晶は一瞬だけ、ぼんやりとした薄い青色に灯った。それは、街灯の火が消えかける時のような、頼りない光だった。

「……魔力値、12。属性、無」

試験官の溜息が聞こえた。周囲からは、堪えきれないといった風の失笑が漏れる。

「12だってよ。一般の農民でも20はあるっていうのに」

「魔法の『ま』の字も使えないんじゃないか? 何しに来たんだ、あの平民は」

試験官が突き放すように手帳にペンを走らせる。

「アルス・レーヴェン、魔力不足により実技試験は最低評価とする。……下がれ。次、エリナ・フォン・ローゼリア」

入れ替わりで前に出たのは、一人の少女だった。

燃えるような紅蓮の髪。意志の強そうな瞳。彼女が水晶に触れるまでもなく、空気の密度が変わった。

パキィィィィィィィン!

凄まじい光がホールを支配した。水晶が限界を超えて鳴動し、眩い白光が全員の視界を奪う。

「魔力値……に、2800!? 測定不能に近い……! 属性は『極炎』! 素晴らしい、建国以来の天才だ!」

割れんばかりの喝采。試験官の興奮した叫び。

僕はその熱狂を背中で聞きながら、静かに会場の出口へと歩いた。

僕の魔力値が「12」なのは、嘘じゃない。

けれど、彼らが知らないことが一つある。

魔力値とは「タンクの容量」に過ぎない。僕には、そのタンクの底にある、目に見えないほど細い蛇口を、分子レベルで制御する技術があった。

(……鉄。炭素含有量、約0.02パーセント。不純物、少々)

僕はポケットの中で、試験用に配られた「鉄の端切れ」を指先でなぞった。

普通の魔導師が「火を出せ」と念じるとき、彼らは魔力を大雑把に放出して現象を起こす。

僕は違う。鉄を構成する微細な粒子の結合に、直接魔力を叩き込む。

(結合解除。再配列——『硬度固定、形状変化』)

一瞬、掌の中で鉄が液体のように蠢いた。

ポケットから取り出したとき、それは元々の歪な塊ではなく、薄く、紙すら斬れるほど鋭利な「剃刀の刃」へと姿を変えていた。

「——すごいわね、それ」

凛とした声が、僕の足を止めさせた。

振り返ると、そこには先ほどの「天才少女」が立っていた。

取り巻きや教師たちを振り切ってきたのだろうか、彼女は少しだけ息を切らしている。

「……何のことだ」

「その鉄よ。あなたの魔力、量は少なかったけど……操作の密度が異常だったわ。水晶に魔力が通る瞬間の、あの『音』。私以外の誰にも聞こえていなかったみたいだけど」

彼女は僕の目の前まで歩み寄ると、不敵に微笑んだ。

「私はエリナ。エリナ・フォン・ローゼリアよ。あなたの名前は?」

「アルス。見ての通り、魔力値12の落ちこぼれだ」

「数字なんて関係ないわ。私は、私の目に見えるものしか信じない」

彼女は僕の手にある剃刀の刃を指差した。

「私には、あまりに力が有り余っているの。だから、繊細なことができる人に憧れるわ。……ねえ、アルス。あなた、私と契約しない?」

「契約?」

「そう。私の有り余る力を、正しく導くための『制御役』。学園での三年間のパートナーとして、あなたを指名したいの」

公爵家の令嬢であり、次期勇者候補とも噂される少女が、平民の僕に手を差し出している。

周囲の生徒たちが、呆然としてこちらを見ているのがわかった。

「……断る理由がないな。僕も、君のような膨大な魔力を間近で観察できるなら、研究が捗る」

「ふふ、研究材料扱い? 面白いわね」

彼女の手を握り返す。その手は、想像していたよりもずっと柔らかく、そして熱かった。

僕の魔力値は12。最強にはほど遠い。

けれど、この「鉄の味」がする世界で、彼女の隣に立つための方法は、いくらでも錬成できる。

こうして、歴史に名を残すこともなかったはずの一人の錬金術師と、最強の聖騎士の、長すぎる物語が幕を開けた。

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