15.5.氷竜の痕
翌朝、執務室では、セオドールが机上の文書に目を通していた。
―――コンコン
扉を叩く音に顔を上げる。
「殿下、少しよろしいですか?」
部屋に入ってきたのはカインで、手に持った報告書を軽く振っている。
「夜警の者からの報告です。夜中に、闘技場で“魔力の残滓”が確認されました。痕跡が…、どうみても殿下の氷竜ですね」
セオドールは無表情のまま書類に目を通す。
「そうか」
「それと、訓練用の木剣が残されたままでした」
「……」
「…まるで誰かが夜中に剣の稽古でもしてたんですかねぇ?」
カインがわざとらしく肩をすくめる。
セオドールの手が一瞬だけ止まった。
「…お前の報告には無駄が多い」
「申し訳ありません、殿下。ただ、氷竜を呼ぶ程の魔力を残されると流石に夜警も報告せざるをえないのかと…」
琥珀色の目の端には、いたずらな光が宿る。
「…それで、姫の腕はどうでした?」
「…見ていたのか」
「えぇ、少しだけ。まさか殿下が剣のお相手をなさるとは思いませんでした」
「……」
「…まさか、ノエルに嫉妬なさっているわけではないですよね?八つも下の少年兵ですよ?」
セオドールは僅かに眉をひそめたが、すぐに視線を外す。
「くだらない詮索はやめろ」
「はいはい」
カインは軽く笑うと、部屋を出ていこうと扉に手をかけた。
「…あ、そうだ。闘技場の氷竜の痕跡ですが、綺麗に円を描いていました」
「…だから?」
「いやぁ…、何周かそこを回ったのかと思いまして」
その言葉に、セオドールの持っていた羽ペンの動きがわずかに止まる。
けれど、彼は何も答えなかった。




