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番外編・手を取る



炊事場に残る夜の熱気は、火を落としてもしばらく消えない。


この日、炊事場の手伝いをしていたヒストリアは、最後に使った包丁を洗いながら、小さく息をつく。


慣れない手つきで作業をしていると、指先がじん、と痛んだ。


「…あ」

遅れて、赤い線が浮かび上がる。


薄く、浅い切り傷だった。



(これくらいなら、大丈夫)


そう思って布で拭い、そのまま自室に戻ったのだが、まもなくして背後から声がした。



「…その手はどうした」

低く、静かな声。


振り返ると、扉のそばにセオドールが立っていた。


いつものように感情を読ませない表情だが、視線ははっきりとヒストリアの手を捉えている。


「え?あ、これですか?炊事場でちょっと…」


言い終わる前に、距離を詰められた。


セオドールは何も言わず、ヒストリアの手首を取る。


冷やりとした指先が、切り傷のある指に触れた。



「殿下…?」


答えの代わりに、淡い光が灯る。


指先から、じんわりとした熱が伝わってきた。


「……」


傷はみるみるうちに赤みが引きはじめる。

ヒストリアは目を瞬いた。



「…殿下の魔法、温かいですね」


その言葉に、セオドールは小さく笑った。


「氷魔法士に言う台詞じゃないな」



「でも、本当にぽかぽかします…」

セオドールは、まだ手を離さないまま続ける。


「治癒は専門じゃないから魔力の制御が難しい」


「そうなんですか?」


「ああ。だから…、」

一瞬、言葉を探すように視線を逸らし、



「触れていた方が制御しやすい」


その言葉に、ヒストリアは息を止めた。

確かに彼は、治癒魔法を施している指先とは別に、ヒストリアの手首を掴んでいた。


「魔力が暴れにくい。理由はよくわからないが…」


セオドールは、今度ははっきりとヒストリアを見る。



「…お前は、平気か?」


「…え?」


「体に魔力を流されることが、嫌だったりしてないか?」


少しだけ、探るような声音。

以前の、宰相邸でのことを言ってるのだろう。


ヒストリアは、そっと首を振った。


「大丈夫、です」


セオドールはそれを見て、わずかに目を細めた。



「…俺の母は、治癒魔法が得意だった」

不意に、話題が変わる。


「お母上が、ですか?」


「ああ。言われてみれば、母上の治癒魔法も温かったな」


ヒストリアは、静かに耳を傾ける。


「父上も魔法は使えたが、それよりも剣が前に出る。好戦的な性格で、きっと、いろんな国に恨みを買っているだろうな」


苦笑が混じる。


「殿下は、ご両親共魔法士様なんですね。皇帝陛下も魔法をお使いになられますよね?」


「ああ。俺が小さい頃、魔法の使い方は兄上から教えてもらった。兄上は魔法が安定している。俺の様に制御ができないなんて一度もない。今の帝国を治めるのが、兄上でよかった」


その声は、どこか懐かしさを帯びていた。



しばらく沈黙が落ちる。


やがて、セオドールはゆっくりとヒストリアの手を離した。


「もう大丈夫だ」

ヒストリアは、治った指を不思議そうに見つめ、それから顔を上げる。


「殿下、ありがとうございます」


笑顔を見せると、セオドールは照れ臭そうに顔を逸らした。



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