タコの手
自家用の小型飛行機が音もなく庭に着陸した。
人が想像したものは必ず実現できるとは言うけれども。
台所の窓からそれを見ていた私は、子供を手で抱えてあやしつつ料理をしていた手を止めて私は考えた。
いくら何でも実現するのが早すぎると思う。
まもなくインターホンが鳴らされて「こんにちはー!」と元気の良い声が聞こえてくる。
私は水で濡れた手を拭いてお財布を取り出すと玄関のドアを開けた。そこには小柄な男性がいくつかの服を持って立っている。
どれもしわにならないようにきちんとハンガーにかけられていた。
「今回はこちらの五着でよろしかったでしょうか?」
そう言いながらハンガーにかけられたままの服を差し出してくる。それがたしかに自分の家族のものであることを確認するとそれらを受け取り、規定の料金を支払った。
「それで、今日はありますか?」
「ええと、ちょっと待っていてください」
私はそう言ってから一度家の中に入りハンガーをクローゼットにかけながら前日の内に集めておいた服を何着か持って戻り、それを渡す。
男性は嬉しそうな顔をして、それからわざとらしく困った顔をしてみせた。
「商売繁盛は良いのですが、手が足りなくなりそうですよ」
「両腕の他に増やして、いまでは腕だけで六本もあるのに、足りないなんてことは無いでしょう」