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第3話 おつかい

「え? グェスさん家? そうねぇ、確かに空き家だけどあの家の持ち主はイリーナおばさんだからね。イリーナおばさんから買うか借りるかしないと住めないわよ」

 豆のスープを木で出来たスプーンで口に運びながらパトリシアさんが説明する。

 俺は今パトリシアさんとカレンとテーブルを囲んで一緒に晩ご飯を食べていた。

 その最中俺はベータ村に住みたいということをパトリシアさんに伝えたのだった。


「そんなにこの村に住みたいのならずっとうちにいたってあたしは構わないわよ」

「うん。わたしもそれ賛成っ」

 パトリシアさんとカレンはそう言ってくれるが、やはり人の家にずっと居候するのも気が引ける。

 それにたまには一人になりたい時も出てくるだろう。


「そう言ってくれるのはありがたいですけどやっぱり自立したいので。明日イリーナさんのところに行ってみますよ」

「そう? じゃあカレン、あんた明日クロクロさんについてってやんな」

「うん、わかった」

「ありがとうございます。カレンもありがとう」

 お金はないけどなんとか話だけでもしてみよう。


「ほら、わかったらクロクロさんも豆のスープ早く食べな。冷めたらまずくなるよ」

「はい、いただきます」

 俺はスプーンを手に取る。


 ばきっ。


「あ、あれっ?」

「あら、クロクロさん」

「あー、クロクロがスプーン壊した」

「す、すいませんパトリシアさんっ。そんな強く握ったつもりはないんですけど……」

「いいよいいよ。もうだいぶ古くなってたからね腐ってたのかもしれないね。今新しいの持ってくるから待ってなよ」

「はい、すいません」


 本当に腐っていたのだろうか。

 折れたスプーンの断面を見るととてもそうは見えない。

 もしかしてこれも重力の差が影響しているのか。

 俺は自分の手を見ながらそんなことを考えていた。

 

 晩ご飯を終えた俺はお風呂にも入らせてもらった。

 着替えの服がなかったので同じ服を着ようと思っていたところ亡くなったパトリシアさんの旦那さんの服をパトリシアさんがどこかから持ってきてくれた。

 さすがにそれはと断ったのだがパトリシアさんもカレンもこころよくそれを俺に貸してくれたのだった。

「うん、似合うじゃないか。あの人と似た体格でよかったよ」

「クロクロかっこいいー」

「すみません、何から何まで」

 本当に何から何までお世話になりっぱなしだ。

 明日イリーナさんと話をつけてなんとか空き家に住まわせてもらえるようにしないとな。

 

 翌朝、俺が目を覚ますとパトリシアさんは既に朝ご飯を食べ終えようとしていた。

「あ、すいません遅くまで寝ちゃってて」

「いいのよ、あたしが早起きなだけだから。それよりあたしもうすぐ仕事に出かけるからカレンのことよろしく頼むわねっ」

「はい、わかりました」

 その後パトリシアさんが家を出ていってしばらくしてからカレンが起きてきた。


「おはようクロクロ。お母さんはもう出かけたの?」

「ああ、仕事に行ったよ」

「そっか~、いつも大変だなぁお母さんは。まあ村にたった一人のお医者さんだからしょうがないんだけどね」

 まだ眠いのかカレンは目をこすりながらあくび交じりに言う。


「パトリシアさんが朝ご飯用意していってくれたみたいだから俺たちも食べてからイリーナさんのところに行こうか」

「は~い。その前に顔洗ってくるね~」

 寝ぼけまなこのカレンはふらふらと部屋を出ていった。

 どうでもいいがこの世界には学校はないのだろうか。


 朝ご飯を済ませると俺とカレンはイリーナさんの家へと足を運んだ。

 イリーナさんは五十歳くらいのおばさんで俺を見るなり眉をひそめた。


「誰だいあんたは?」

「あ、はじめまして。俺は――」

「クロクロだよっ、イリーナおばさんっ」

 俺の後ろにいたカレンが顔を覗かせ俺に先んじて言う。


「あらまあカレンじゃないか。おはようカレン」

「うん、おはよう」

 俺への態度とは打って変わってイリーナさんはカレンに優しい笑顔を向けた。

 どうやらよそ者の俺を警戒しているようだった。


「それでクロクロさんとやら、私に何か用かね?」

「えっとですね、この前までグェスさんという方が住んでいた家に住みたいんですけど……」

「なんだ、そんなことかい。だったら月々銀貨一枚で貸してやるよ。金貨十枚くれれば売ってやってもいいしね」

「あの、でも実は俺お金をまったくもってなくてですね……」

「は? あんたいい大人なのにお金を持ってないのかい? これっぽっちもかい?」

「はい、すみません」

 イリーナさんは俺が無一文であることを知って怪訝な表情を浮かべる。

 まあ当然の反応だ。


「イリーナおばさん、クロクロは記憶喪失なんだよっ。だから自分がどこから来たのかもわからないしお金も何も持ってないのっ」

「記憶喪失ねぇ……」

 俺をじろじろと無遠慮に眺めるイリーナさん。

 疑われているのだろうか。


「本当に記憶喪失なら同情はするけどね、お金がない人にそれもどこの人間かわからない人に家は貸せないよ」

「そ、そうですよね」

 予想していた通りの返答だった。

 やはり村はずれの空き家とはいえただで住まわせてはもらえそうにないな。


「え~、イリーナおばさんいいじゃん。クロクロはわたしの恩人なんだよ。ゴブリンからわたしを助けてくれたの。だからお願いっ、クロクロを住まわせてあげてよ~」

 カレンはイリーナさんに抱きつき顔を見上げて言う。


「う~んそうなのかい、でもねぇ……」

 カレンの言葉にも難色を示すイリーナさんだったがここで何かを思い出したように声を上げた。


「あーそうだ、いいこと考えたよっ。クロクロさん、あんたノベールの町に行って聖水を買ってきてくれないかい。そうすりゃああの家ただで住んでもいいよっ」

「ノベールの町、ですか?」

「そうさ。村の周りに撒いてる聖水の効果がそろそろ切れる頃だからね、また冒険者にお願いしようとしてたんだけどあんたが代わりに行ってくれるなら大助かりさ」

「は、はあ……」

 話がよく見えないのだが。


「よかったね、クロクロ。クロクロは強いからノベールの町に行くくらい楽勝だよねっ」

「そうかい。じゃあよろしく頼むよ」

 カレンとイリーナさんは俺をよそに話を進める。


「ノベールの町の道具屋に行ってこれで聖水を一瓶買ってきておくれ」

「あ、はあ……」

 俺はイリーナさんに手を掴まれ金貨を一枚握らされた。


「ありがと、イリーナおばさんっ」

「はいよ。パトリシアにもよろしくね」

「は~い。クロクロ行こっ」

 未だ状況をあまり理解していない俺だったが、カレンに手を引かれイリーナさんの家をあとにするのだった。

 

「なぁカレン。聖水ってなんだ? 村に撒くってどういうことなんだ? 冒険者っていうのはなんなんだ?」

 俺はカレンの家に戻る途中カレンに気になっていたことを訊いてみる。


「そっか、クロクロはそんなことも忘れちゃってたんだね。え~っとねぇ、聖水っていうのは弱い魔物を寄せ付けない効果があるの。だから村の周りに撒いて魔物から村を守るのに使うんだよ」

「へー」

「冒険者っていうのはすごく強い人たちのこと。イリーナさんがいつも村のみんなを代表して一番近いノベールの町まで聖水を買いに行ってくれてるんだけど強い魔物に会うかもしれないでしょ。だからそのために冒険者を雇って守ってもらうの」

「ふーん、そうなのか」

「でも冒険者を雇うのってすごくお金がかかるんだって」

「なるほどね」

 だからイリーナさんは交換条件として俺にノベールの町とやらに行くことを提案してきたってわけか。

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