第11話 ホブゴブリンの巣
ロレンスの町を出た俺とザガリンとエメリアは、町の北にある山を頂上目指して上っていた。
この山の頂上にある洞窟内のホブゴブリンを討伐することがザガリンとエメリアの受けた依頼らしい。
俺はその二人の荷物持ちとして同行している。
二人からは戦闘には参加しなくていいと言われているので俺の初クエストは退屈なものになるだろうがこれで一日当たり金貨一枚貰えるのだからEランクの依頼にしては割のいい部類に入るに違いない。
「クロクロさん大丈夫ですか?」
「ああ、問題ないよ」
妹のエメリアは俺を気遣い最後尾を歩く俺に声を投げかけてくる。
一方の兄であるザガリンは俺やエメリアのことは気にする様子もなく一人山道を進んでいっていた。
「お兄ちゃん、もっとゆっくり行かないとあとでバテても知らないよっ」
「へーきへーき! おっゴブリンだっ」
言うとザガリンはみつけたゴブリンを両手持ちの斧で一刀両断にする。
そして倒したゴブリンの右耳をそぎ落とし腰に掛けていた小さな袋に入れた。
ゴブリンは倒した証明として右耳をギルドに持っていくと一体につき銅貨五枚が貰えるのでザガリンはみつけたゴブリンを片っ端から倒していた。
「すみませんクロクロさん、あんな兄で」
「いや全然。それより俺たちも少し歩くペースを上げようか。じゃないとザガリンに置いていかれそうだ」
「わたしはいいですけどクロクロさんは平気ですか?」
「心配いらないよ。俺Eランクの冒険者の中では多分体力はある方だと思うから」
「そうですか。じゃあ少し急ぎましょうか」
エメリアはそう言って歩く速度を上げた。
俺もそれに倣ってついていく。
二時間ほど急勾配の山道を上ったところでザガリンが脇にあった岩に腰を下ろした。
「ふ~、さすがに疲れたなぁ~」
「ほら、だから言ったじゃない。お兄ちゃんの歩くペースに合わせてたせいでわたしも疲れたわ。クロクロさんも疲れましたよね?」
「ん? うんまあ」
正直あまり疲れてはいないが話を合わせておく。
「ちょっと休憩だ。クロクロ、リュック貸してくれ」
「ああ」
俺はザガリンのリュックを肩から下ろし手渡す。
ザガリンはその中から水筒を取り出すと喉を鳴らして一気に中の水を飲み干した。
「エメリアもほら」
俺はエメリアにもリュックを差し出す。
「ありがとうございます」
するとリュックを受け取ったエメリアはやはり中から水筒を取り出してそれをコップ代わりのふたに注ぐとこくこくと飲んでいった。
そして、
「クロクロさんもどうぞ」
言いながらエメリアがふたに注いだ水を俺に渡してくる。
「いいのか?」
「もちろんです」
「じゃあいただくよ。ありがとう」
水を飲んだ後俺たちはしばらくその場で休むことにした。
休んでいる途中ゴブリンが一体襲ってきたがザガリンが危なげなくこれを返り討ちにする。
俺の出番はまったくない。
休憩がてら昼ご飯を食べてから山登りを再開した俺たちは頂上目指して歩き続けることさらに一時間、ようやく頂上へとたどり着いた。
「よっしゃ、やっと着いたぞーっ」
「はぁ~疲れた~」
ザガリンは頂上に着いた嬉しさを声を大にして表現し、エメリアは手でぱたぱたと自分の顔をあおいでいる。
「さてと、こっからが本番だからなエメリアっ」
「言われなくてもわかってるわよ」
「クロクロは戦わなくてもいいがこいつを持っててくれ」
ザガリンは火のついたたいまつを俺によこしてきた。
「洞窟の中は暗いからな、そいつで照らしてくれ」
「ああ、わかった」
俺たちの目的地であるホブゴブリンがひそんでいる洞窟はすぐ目の前だ。
「おれが先頭で最後尾がエメリアだ、クロクロは真ん中にいてくれ。ホブゴブリンが出てきてもおれたちが倒すから安心してろよな」
「じゃあお兄ちゃん、クロクロさん行きましょう」
「「ああ」」
こうして俺たちはホブゴブリンの巣食う洞窟へと足を踏み入れるのだった。
洞窟の中は薄暗く、それでいて生臭いにおいが立ち込めていた。
「なんだこのにおいは、鼻が曲がりそうだぜっ……」
「ほんと、嫌なにおいね」
「おわっと……!」
「どうした? ザガリン」
突如妙な声を上げたザガリンに問いかける。
「いや、なんか変なもん踏んづけた気がする」
「変なもの?」
俺は持っていたたいまつでザガリンの足元を照らしてみた。
するとそこにあったのは、
「きゃぁっ!」
人間の死体だった。
ホブゴブリンに食い散らかされたかのような見るに堪えない状態で放置されている死体を見てエメリアがとっさに俺の腕を掴む。
「大丈夫か? エメリア」
「は、はい……すみません」
「見た感じ冒険者か……?」
ザガリンの言う通り着ている服などからその死体は冒険者のもののように見受けられた。
「ホブゴブリンにやられたってことは多分EランクかDランクってとこだろうな。一人でやってきて返り討ちに合ったのか……」
ザガリンが険しい顔でつぶやく。
「お兄ちゃん、この依頼大丈夫かな……」
「へっ、大丈夫さ。こっちはおれとエメリア二人もDランクがいるんだ、用心しながらいけばホブゴブリンくらいどうってことないさ」
まるで自分を奮い立たせるかのようにザガリンが答えた。
「念のため言っとくがクロクロは戦わなくていいからな、もし万が一危なそうになったらおれたちのことは気にせず逃げろよ」
「そ、そうですよクロクロさん。わたしたちならきっとなんとかなりますから」
「あ、ああ」
ホブゴブリンか……前に倒したキングゴブリンよりは弱いはずだから俺ならおそらく倒せると思うんだけどな。
俺たちは慎重に洞窟内を進んでいった。
洞窟の中は一本道がずっと続いていた。
「待て、止まれ。ホブゴブリンだっ」
ザガリンが口を開く。
ザガリンの言葉を受け前方を注視するとたいまつを持った大きめのゴブリンが数体確認できた。
「ほんとだ、一、二、三、四、五……六体もいるわよお兄ちゃん」
「ああ、さすがにあいつらを一度に相手にするのは厳しいからまずはエメリアが遠くから弓矢で倒してくれ。こっちに来るまでに半分に減らしてくれればあとはおれがなんとかしてみせるから」
「わかったわ、やってみる」
まだこっちに気付いていない様子のホブゴブリンを狙ってエメリアが静かに弓を引く。
次の瞬間、びゅんと矢がものすごい速さで飛んでいき、一体のホブゴブリンの頭部を貫いた。
『ギギッ!?』
『ギッ!?』
『ギギッ』
『ギギギッ』
『ギギギッ!』
それにより他のホブゴブリンたちが騒ぎ出す。
そしてその中の一体がこちらに気付いた。
「エメリア、次だっ!」
エメリアはザガリンが言うより早く二発目を放っていた。
エメリアの矢はまたしてもホブゴブリンの頭部を見事射抜く。
四体になったホブゴブリンが走って向かってきた。
エメリアは三発目を射るが、その矢はホブゴブリンの顔をかすめて洞窟の奥へと消えていく。
「くっ」
ザガリンが斧を構えた。
襲い来るホブゴブリンを横になぎ払い二体のホブゴブリンのお腹を斬り裂いた。
その二体が地面に倒れるが残りの二体がザガリンにしがみつく。
「このっ、放せっ!」
『ギギギ!』
『ギギギッ!』
ザガリンの首元に噛みつこうとしてくるホブゴブリンたち。
それを必死に払いのけようとするザガリン。
あれ? まずいかな……?
手を出すなと言われていたがピンチっぽいので助太刀しようかと思ったその時、
「お兄ちゃんから離れなさいっ!」
エメリアが叫びながら至近距離からホブゴブリンの頭を撃ち抜いた。
すると、
「ナイス、エメリアっ! くらえっ!」
残り一体になったホブゴブリンをザガリンが斧を振り上げ真っ二つにした。
足元に転がったホブゴブリンたちの死体を見下ろし、
「ふぅっ……危なかったぜ」
「まったく、わたしがいなかったらやられてたわよ」
「サンキュー、エメリア」
二人で笑い合う。
なんだ……やっぱり俺の出番はないみたいだ。
「よし、奥に向かうぞ」
「あ、ちょっと待ってお兄ちゃん。首から血が出てるわよっ」
先に進もうとするザガリンを呼び止めるエメリア。
「ヒール!」
エメリアがザガリンの首元に手を当てそう口にするとエメリアの手がオレンジ色に光りザガリンの首の傷が塞がっていく。
!?
「悪いな、エメリア」
「世話が焼けるんだから、もう」
「な、なあ、もしかして今のって魔法か?」
俺は気になったことを訊ねる。
「はい、そうですけど……」
「なんだクロクロ、魔法見るの初めてか?」
「あ、ああ」
やっぱり魔法なのか。
この世界は俺のいた世界より文明こそ遅れているが魔法が存在しているのか。
「今のはヒールといって初歩的な回復魔法です。わたしは魔法使いではないので魔法はこれ一つしか使えませんけどね」
少し恥ずかしそうに言うエメリア。
「魔法使いじゃなくても魔法は使えるのか?」
「誰だって使えるぜ。魔法は何も魔法使いの専売特許ってわけじゃないからな」
「じゃあザガリンも使えるのか?」
俺はザガリンに顔を向けた。
「いえ、兄は魔法はまったく使えません。魔法自体は誰でも使える可能性がありますけど向き不向きがあるみたいで兄は全然です」
とザガリンの代わりに妹のエメリアが答える。
「へー」
「別におれはいいんだよ。魔法なんてちまちましたのは性に合わないんだ。男はパワーで勝負だぜっ」
と力こぶを作ってみせるザガリン。
やせ我慢のように聞こえなくもない。
「エメリア、じゃあ俺も魔法を使える可能性はあるってことか?」
「はい。というかクロクロさんは一度も試したことないんですか?」
「あー……うん」
「そうなんですか。だったらせっかくなので今試しに魔法を使ってみましょうよ」
エメリアが思い立ったように提案した。
顔を明るくさせ俺をみつめる。
魔法か……面白そうだな。
「ああ。どうやればいいんだ?」
「ではまずは深呼吸をしてください」
すーはー……ふぅ~。
「それから体の中の魔法力を手に集めるイメージで精神統一してください」
魔法力……?
よくわからないけど漫画でよく見るオーラみたいなものかな……。
俺はそれらしく目を閉じて手に意識を集中してみた。
「ではその状態でヒールと唱えてみてください。成功すれば手が温かくなってオレンジ色に光るはずですから」
「わかった……ヒール!」
俺はヒールという呪文を口にした。
……。
……。
だが俺の手は温かくもならないし光りもしない。
「はっ、なんだクロクロも魔法は使えそうにないな」
「そうなのか?」
「は、はい……ヒールは初歩中の初歩の魔法ですから。これが使えないとなると多分他の魔法も使えないと思います」
エメリアは申し訳なさそうに言う。
「そっか、ちょっと期待してたんだけどな……まあいいか」
子どもの頃に夢で見た空を飛ぶ魔法とかももしかしたら使えるかもしれないと思ったのだがどうやら俺には魔法の才能はないらしい。
少し残念ではあるが魔法がなくても俺はこの世界では超人なのだからよしとしよう。
「ほら、もういいだろ。そろそろ先に進もうぜ」
「ああ、そうだな。付き合ってもらってありがとうエメリア」
「い、いえ、どういたしまして」
「さあ、気合い入れろよ二人ともっ」
ザガリンの掛け声で俺たちは再びホブゴブリンの巣食う洞窟内を歩き出すのだった。
それから俺たちは洞窟の中を進んでいきつつ一体ずつ確実にホブゴブリンを打ち倒していった。
……といっても俺はまったく手出しはしていないが。
地面に横たわるホブゴブリンの右耳を切りながら、
「もうだいぶ奥まで来たよな、この洞窟にいるホブゴブリンはあらかた倒しきったんじゃないか?」
ザガリンがエメリアと俺に顔を向けてくる。
「そうね、もう三十体以上は倒してるもんね」
「この分だと帰りの時間を考慮しても今日中にロレンスの町に戻れるかもな」
ザガリンは切り落としたホブゴブリンの右耳を袋に詰めると、立ち上がって洞窟の先を見た。
「ん? クロクロ、ちょっと向こうを照らしてくれないか」
「あ、ああ」
俺は持っていたたいまつで洞窟の先を照らす。
すると何か大きな影が動くのが見えた気がした。
「まだいたか、よっしゃ仕留めてくるかっ」
ザガリンが駆け出していく。
俺とエメリアもザガリンについていった。
だが――
「な、なんだこいつはっ……!?」
「お兄ちゃん、キングゴブリンよっ!」
洞窟の行き止まりにいたのはホブゴブリンではなくキングゴブリンだった。
キングゴブリンの足元にはキングゴブリンがやったのだろうか、ばらばらになったホブゴブリンの死体が無数に転がっている。
『グギギギギ……』
キングゴブリンは振り返り俺たちを見据えると不敵に笑った。
そして巨大なこん棒を手に向かってきた。
「ヤバい、逃ぐわあぁっ……!」
「お兄ちゃんっ!」
キングゴブリンのなぎ払ったこん棒に飛ばされ壁に激突するザガリン。
それを見て声を上げるエメリア。
キングゴブリンは俺の目の前に来ると俺を見下ろし、
『グギギギッ』
両手でこん棒を振り上げた。
「クロクロさん危ないっ!」
俺の後方からエメリアの声とともにエメリアが放った矢が飛んできて、キングゴブリンの巨体に命中する。
だがキングゴブリンは体に刺さった矢をものともせず、そのままこん棒を俺めがけ振り下ろしてきた。
「クロクロっ!」
「クロクロさんっ!」
ザガリンとエメリアの声が洞窟内に響き渡った次の瞬間、
「大丈夫だよ」
俺はキングゴブリンの渾身の一撃を片手で受け止めていた。
「なっ、クロクロっ!?」
「クロクロさん……!?」
驚きの声を上げる二人をよそに俺は「お返しだっ」地面を蹴って跳び上がるとキングゴブリンの顔を思いきり殴りつける。
『グギャッ……!』
キングゴブリンは奇声を発し後ろにどすんと倒れ込んだ。
足元を見下ろすとキングゴブリンの首は百八十度回っていた。
「ふぅ、ザガリン怪我はないか?」
「あ、ああ、なんとかな……っていうかクロクロなんでそんな強いんだっ?」
「そ、そうですよっ、クロクロさんってEランクの冒険者ですよねっ?」
俺を取り囲んで質問してくるザガリンとエメリア。
「正真正銘Eランクだよ」
俺は持っていたギルドカードを二人に見せてやる。
「ほ、ほんとだ……」
「でもEランクの冒険者がキングゴブリンを素手で一撃で倒すなんてありえないだろっ。なにもんなんだよっ」
「いや、それが俺どうやら記憶喪失みたいで自分でもよくわからないんだよ」
ザガリンの問いに俺は自分で作った嘘の設定を話して聞かせた。
「記憶喪失……マジか」
「クロクロさんって記憶喪失だったんですか?」
「ああ、黙っててごめん」
「い、いえ、それは別にいいですけど……クロクロさんがいなかったらわたしたち危なかったですし」
「そ、そうだな。クロクロがなんでこんな強いのかはさておいてクロクロがおれたちの恩人であることに変わりはないな」
エメリアもザガリンも俺の話を信じてくれた。
その上で、
「ありがとうな、助かったよ」
「ありがとうございましたクロクロさん」
二人とも感謝の意を表してくる。
「いやあ、それにしてもキングゴブリンがいるなんてな。ギルドに報告したら報酬を余計に貰えるかもしれないぞエメリア」
「もうお兄ちゃんってば。倒したのはクロクロさんなんだからねっ」
「わかってるって。もし報酬が増えたらその分はクロクロにやるつもりだよ」
ザガリンは言うが、
「え、いや俺はいいよ。約束通り金貨一枚貰えればそれで」
俺はそう返した。
あくまでも俺の今回の依頼の報酬は金貨一枚って約束だ。
それより多く貰うのは気が引ける。
「マジかっ、ラッキー儲けたぜっ」
「もうお兄ちゃんっ」
この後、キングゴブリンの右耳を手に入れたザガリンとエメリアと俺は、ホブゴブリンのいなくなった洞窟をあとにしてロレンスの町へと戻るのだった。
俺とザガリンとエメリアがロレンスの町に着いたのは夜中だった。
辺りも暗くなったので途中で野宿をしようとエメリアが言ったのだが依頼が二日にわたると俺に払う報酬が倍になるからとザガリンがこれを拒否しその結果暗い中を歩き続けて俺たちはロレンスの町に戻ってきたというわけだ。
「まったく……兄がケチですみませんクロクロさん」
「いや別に気にしてないよ。星空を見ながら歩くのもそれなりに楽しかったし」
「サンキュークロクロっ」
「もう、お兄ちゃんってば。恥ずかしい」
俺たちは帰ってきたその足でギルドへと向かった。
「はい、ではまずこちらが今回の報酬の金貨五枚になります。それからこちらがキングゴブリンとゴブリンの討伐分の金貨十枚と銀貨三枚になります」
「おおーっ、すげぇ。こんなに貰えるんですかっ。やったなエメリアっ」
メインの依頼の報酬以上のお金を手にして声を大にするザガリン。
「キングゴブリンを倒したのはクロクロさんだけどね」
エメリアはそんな兄に冷静に返した。
「でもほんとにいいんですか? キングゴブリンの分も貰っちゃって」
「気にしないでいいよ」
「すみません、ありがとうございますクロクロさん」
「さあ、次はクロクロの番だぜっ」
そう言ってザガリンは俺に受付カウンター前の場所を譲ってくる。
「ああ」
俺は依頼書をミレルさんに手渡すと依頼完遂の報告を済ませた。
「はい、かしこまりました。それではこちらが報酬の金貨一枚になります」
「ありがとうございます」
金貨を受け取ってその場を離れる。
「なあクロクロ。実はエメリアとも少しだけ話してたんだけどよ、あんたさえよければおれたちとパーティーを組まないか」
二人のもとへ戻るとザガリンが口にした。
「パーティー?」
「ああ、おれもエメリアもクロクロのことが気に入ったんだ。パーティーのメンバーも一人抜けたところだしよかったらどうかなと思ってな」
「うーん、そうか」
「出来れば今答えを聞かせてほしい。おれたちは明日にでも違う町に移動しようと思っているからさ」
いつになく真面目な顔のザガリン。
隣に視線を移すとエメリアもじっとこちらを見ている。
「……ごめん、誘いは嬉しいんだけど俺は一人で気楽にやっていくよ」
正直そんな言葉をかけてもらえて跳び上がるほど嬉しい。
それにずっと一人で行動していると少し寂しい気持ちもある。
だが――
「ははっ、まあそりゃそうか。クロクロの実力からいったら正直おれたちだと釣り合わないもんな」
「うん、そうだね。クロクロさんならすぐにSランクの冒険者になっちゃうかもしれないもんね」
「……悪いな」
「いいってことよ。おれたちはクロクロのおかげでだいぶ稼がせてもらったからな」
「そうですよ、謝らないでください」
ザガリンとエメリアは笑顔を作ってみせた。
「じゃあおれたちは宿屋に行くから。明日の朝にはこの町を出るつもりだからさ、クロクロとはここでお別れだ」
「クロクロさん、お世話になりました」
「ああ、俺の方こそ」
ザガリンとエメリアに俺も笑顔で返すと、
「じゃあなクロクロっ」
「さようならクロクロさんっ」
二人は手を振りながらギルドを出ていった。
二人がいなくなり急に静かになる。
真夜中ということもあり気付けばギルド内には冒険者は俺一人だけになっていた。
「……俺も宿屋に帰るか」
依頼はまた明日探せばいい。
今日はとりあえずもう寝てしまおう。
そう思い、俺もギルドをあとにするのだった。




