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英雄遺産のエーヴィッヒ  作者: 大浣熊猫
三度過ぎ往くツワンツィヒ
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勇者と孫 第六話

 アナンヤは今医師として働いている。

 医師と言う仕事は患者に寄り添うのが理想と言われているが、それは真っ赤な嘘だ。

 真心など持って共感などしていては、仕事になどならない。

 患者の前に出す真心は表面上の共感しているという雰囲気だけだ。

 アナンヤは相手が身内でなければフェリシアンのような態度は取らず、鉄仮面を被る。そう言う点ではその医師という仕事は向いていた。


 アナンヤはフェリシアンと言う弟が生まれた頃、フェリシアンが自分よりも母親に構われていることが気に入らず、フェリシアンをいじめにいじめた。

 文房具を隠してコレットに怒られているのを見て楽しみ、フェリシアンのお気に入りの玩具を次々と壊して悲しみに泣きじゃくるのを見て毎日楽しんでいた。

 だが、フェリシアンは抗うことが出来なかった。フェリシアンは生まれたその日から姉が恐怖の存在であるという刷り込みを長年受け続けたので、抗うことよりもまず先に絶望に打ちひしがれてしまうのだ。

 それは大きくなって思春期も半ばを過ぎた頃でも変わることはなかった。


 フェリシアンはこのときも姉に押しつぶされたのだ。


 脅威が思ったよりも素早く去ったことに安心したフェリシアンは屋根裏の自分の部屋へと梯をかけて登った。

 自室だけは家の中での自分の居場所だった。部屋を見渡して鼻から息を吸い込み、安心しようとした。

 しかし、ボロボロで平坦になったベッドの横の引き出しが開いていることに気がついた。そして、上には手紙が置いてあった。


『あなたのお金は家族のものです。一人で強欲に溜め込むように育てた覚えはありません。あなたの未来が心配です。コレット』


 フェリシアンはまたかと額を押さえた。

 コレットは手持ちのお金がなくなると息子フェリシアンから無心をするのだ。フェリシアンは祖父に会いに行くといくらか小遣いを貰っている。

 しかし、フェリシアンは特に使い道を思い浮かばない――趣味もなく友人もおらず考えている余裕もないので、いつも引き出しに溜め込んでしまう。

 それを母コレットは知っているのだ。場所を変えてもすぐに見つけられて持って行かれてしまうのだ。


 フェリシアンは隠し場所を変えてもすぐに見つけられることに諦め始め、その日もドナシアンがくれたお小遣いを同じ引き出しにしまった。

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