勇者と孫 第四話
「こっちが払ってないんだ。四回目の人が結婚する条件として、しつこく請求してくる三人目の清算したいんだってさ」と訂正した。
ドナシアンはまた無言になり瞬きを繰り返し、しばらく黙った後「どうやら」と口を重たそうに開いた。
「コレットのバカ娘はだいぶアナンヤを甘やかしてきたようだな。
いや、コレットを甘やかしすぎたのは私の責任か。コレットがまだ幼い内にスジャータが亡くなってしまったからの。
私は毎日泣いている姿が見ていられなかったから、つい無限に物を与えてしまった」
「知っているよ。母さんも大変だったんだって」
「だが、いかんな。コレットでさえも離婚したあとにアナンヤとフェリシアンを産んだが、それからあとは懲りたのか無かったというのに」
「それで、もう退学の手続きをするとか言って母さんが学校に乗り込んできたらしいんだ」
ドナシアンは焦ったようになり、「もう退学は決まってしまったのか!?」とフェリシアンの肩を掴んで揺らした
「いや、まだだよ。バイクさんがいくらなんでも急すぎるって止めてくれたんだ」
ドナシアンは大きく安堵したようにため息を零した。
「バイクのヤツには面倒ばかりかけているな。
一回目のツワンツィヒが終わったとき、まだ魔王が目覚めないなら慈善事業を強化したいと私に言ってきた。私の事業も盛り上がっていたので、一緒に頑張ったものだ。
あいつがいたから私しか使えない重力魔法を物に込めて使えるように出来たのだ」
「お爺ちゃんはバイクさんと仲がいいんだね。羨ましいよ」
「昔は嫌なヤツだったな。だが、平和になると商売の仕方も変わって丸くなっていった。根は悪い奴ではなかったのだろう。魔王軍との戦争は、兵士として戦場にいなくとも心を蝕んでいくのだ」
「お爺ちゃん、また昔の話?」
「こら、フェル、年寄りの話は聞いておくものだぞ」
「戦争の話はもう何十回も聞いたよ。
残念だけど、今日は長居できないよ。
学校に用事があって三時の魔導列車に乗らないと家に着くのが遅くなっちゃう」
「仕方がないな。だが、何回聞いても意味があると私は思うぞ。
とにかく、授業料の件はきつく言っておく。
私からフォン・バイクにも連絡を入れておけば、コレットのバカ娘も払わないと言うことは起こらないだろう」
「ありがとう、お爺ちゃん。また来るよ」
「あら、フェリシアンさん」
玄関に向かって歩き始めたフェリシアンに若いメイド、ポリー・アルフォードが話しかけた。
彼女は幼いときからドナシアンに奉公をしており、フェリシアンと年の差は彼女の方が少し年上なだけであまりない。
唯一話ができる、年の近い異性だ。
「お帰りですか? せっかくですし、ご夕食も如何です?」
「お気持ちだけいただきます。今日、学食でいっぱい食べたので、お腹いっぱいなんですよ。それに早く帰らないと母がうるさいので」