勇者と孫 第三話
「よく来たな、フェル。ああ、そうだ。美味しいオランジェンをまた貰ったんだ」
ドナシアンは待ちわびたかのように素早く立ち上がり、嬉しそうに部屋の中へと入り青年を迎えた。
青年は孫のフェリシアンだ。
右手を挙げると「おおい、アルフォードさん、紅茶とオランジェンを出しておくれ」と台所の方へ声をかけた。「はーい」と返事が聞こえた。
ドナシアンは「学校はどうだ? バイク財閥の管理する名門校だからの。色んなヤツがいよう。カプスチンの孫もいたはずだぞ」と尋ねながらリビングの椅子に座るようにフェリシアンに促した。
「学校か。学校は……楽しいよ。うん、楽しい。でも、お爺ちゃん、少し残念な相談があるんだ」とフェリシアンは悲しそうに笑った。
「何だね?」とドナシアンが尋ねると、フェリシアンは少し黙り込んだ後、絞り出すように「母さんが学校辞めろってさ。授業料を払わせたくないってさ」と言った。
ドナシアンは呆れるように額を押さえた。
「コレットのバカ娘がまたそんなこと言ってるのか。お金は全て私の資産からだしているのだろう?
なぜコレットにどうこう言う資格があるというのか。
フェリシアン、お前が学校を辞める必要は無いぞ」
「僕より優秀なアナンヤ姉さんにもっとお金をかけたいみたいなんだ。姉さん、今度結婚するから、そのためのお金を作りたいそうなんだ」
「アナンヤか。もう十……二、三年は会っていないぞ。フェリシアンがこれだけ大きくなったのだから、アナンヤもさぞかし大きくなっているのだろうな。
アナンヤはどうだ? 元気にしているのか? いよいよ結婚の年齢になったのか。
何処で式を挙げるのだ? 参加できるのならしたい。それか、何か手紙や花でも贈らねばな」
「いや、挙げないらしいよ」
「何でだ? 一生に一度の記念すべき日ではないか。ウェディングドレスなどそうカンタンに着られる物ではない」
フェリシアンは肩を落として、孫の結婚を祝福しようとして明るい表情の老人から目をそらした。
「もう、一回目じゃないんだ」
「なんと。私は一回目の話など聞いとらんぞ。二回目のヴァージンロードを簡単に歩けるとは時代も変わったものだな」
「あぁ、お爺ちゃん、ゴメン。あの実はさ、次で四回目なんだ。黙っててゴメン」
ドナシアンは「よ……ん?」と目が取れそうなほどに目を開き、口も開けたまま止まった。
しばらくそのままになったが「子どもは」と思い出したように口を開いた。
「子どもはどうなっているのだ? いるのか?」
「最初の一人目は今の僕と同じ年に産んで、今も育ててるよ。
二人目は産んだ直後に離婚して、旦那の方が子どもを攫っていった、って本人は言ってる。
今どうなってるかは知らないけれど、……赤ん坊にとってはそっちの方が幸せだったかも知れないね」
「ま、まさかもう何人もいるとかと言うことはなかろうな?」
「無い……と思うよ? 僕が把握しているのはその二人だけだ。三回目のときの慰謝料をまだまったく払ってないらしくてね」
「相手はとんでもない男だな、まったく」とドナシアンは鼻から息を吐き出した。
「ああ、えと、それも違くて」とフェリシアンは慌てだし手を左右に振った。