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英雄遺産のエーヴィッヒ  作者: 大浣熊猫
三度過ぎ往くツワンツィヒ
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勇者と孫 第一話

『魔王、目覚めず。あと数年で六十年目へ。この平和は永劫か。凪の式典に協賛する企業による国家への贈収賄。腐敗した者たちの闇の錬金術を暴く』


凪の二十年(ツワンツィヒ)はやがて三度過ぎ往く。四度目はあるのか』


『魔王は人々を結びつけていた? 魔術と科学の融合により急速に発展したが人間は満たされるが故にさらに求め、人間同士の小競り合いが頻発』


『【コラム】魔王教カルトによるテロによって今一度考える平和とは。魔王を知らない世代、凪世代(ホーイッヒ)はなぜカルトを信奉するのか』


 裕福な老人たちが集められる高級な老人ホームの三階。ベランダに置かれたテーブルの上で、いくつもの新聞が風に靡いていた。

 海が近いここは風も強い。凪の時間まではまだほど遠い昼下がり。テーブルの横のチェアに座っていた老人は流れる雲を見ていた。


「ガリマールさん、またベランダに出て。まったくいけませんよ。危ないですから」


 若いメイドがベランダの老人に声をかけた。この老人はかつての勇者ドナシアン・ガリマールだ。


「空が見たい年寄りを無下にするのか?」


「そうやって空を見ていられるのは生きていられるからですよ。この施設ではありませんが、ベランダから落ちて亡くなった人もいるんですから、出てはいけないようにしているんです」


「私は勇者だぞ。かつて魔王を討伐して、この世界を平和にした者だ。戦いの中で鍛え上げられてきた身体はベランダから落ちたくらいじゃ死にはせん!」


 ドナシアンはふんふんと鼻を鳴らし、腕を振り回して見せた。若いメイドはそれを見て笑った。

 メイドはドナシアンが飛び降りても怪我はしないことも、そもそもそのような若いときならいざ知らず無謀なこともしないというのを知っていたので、無理に部屋の中へと引き込もうとはしなかった。


「ガリマールさん、それは何年前のお話しですか?

 今は三回目のツワンツィヒ。もう魔王なんていないのですよ、きっと。

 魔法も科学も社会も経済も、あなたのおかげで何から何まで進歩して、魔王なんて言うのも昔話の小さな悪役に収まるのです。

 三階から落ちて助かるようなよ強靱な身体は、戦いじゃなくて長生きするためにあるんですよ」


「私だけではない。私たちだ」とドナシアンは誇らしげに笑った。

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