最終決戦 中編
「おい、ドナシアン! 道が塞がれるぞ!」ガリバルディは馬をドナシアンに並べた。
「勇者ドナシアン殿、すまない! やはり人間である我々に出来る掩護はここまでのようです!」
道を開いていたハルテンブルク将軍の仲間たちは次第に倒されて減っていき、花道は狭くなっていた。
「ここまで来れば充分です! ありがとうございます、将軍!」
「後は頼みますぞ。出来る限り、後を追います」というとハルテンブルク将軍は退き始めた。
ドナシアンは将軍たちが退いたのを確かめると、右手を前にかざした。
「待ってください、ドナシアン。ここは私が」とカプスチンが前に出た。
「手綱を少々」と勇者に手綱を預けると、懐から人の革で綴じられた小さな本を取り出した。「大規模破壊ならこれでいいでしょう」とあるページを開き、そこに手をかざすと掌に魔方陣が浮かび上がった。
「天地開闢の刻より深淵の彼方よ闇を照らす者、導け、黄銅鉱、」
魔方陣は呪文が述べられるにつれて大きくなり、やがて天を覆うようになった。
「やり過ぎじゃないか、カプスチン?」
「足りないことはあっても多いことはありませんよ。夜では威力を抑えられてしまいますし。さて、尾を喰う蛇、砂岩、天帝の血は猛り湧く、闇より穿ち灰塵に葬せ、炎槍 《ダージボルグ》!」
カプスチンは呪文を唱え終わると、天に掲げていた腕を何かを引きずり下ろすように振り下ろした。
すると天を覆っていた大きな魔方陣からいくつもの青白い炎が降り注いだ。
カプスチンは逃げ場のない青白い炎の雨を降らせて大勢の屈強なハルテンブルク将軍の軍隊さえ簡単には追い払えなかったほどの数の魔王軍を一撃で片付けたのだ。
「まだ出てくるぞ!」とガリバルディが戦斧を構えた。
彼女の堂々たる体躯とそれから振るわれる斧の反作用に耐えられる彼女の愛馬カヴァリエレダルピノはガリバルディが何をするのかを瞬時に理解し、鼻息を荒くして速度を上げた。
他の馬たちを抜き去り先頭に躍り出ると、ガリバルディは愛馬の背中を大きく蹴り飛び上がった。
そのまま宙返りをして戦斧を地面に向かって振り下ろした。地面は広範囲にわたって吹き飛んだ。
カヴァリエレダルピノは瓦礫の中を器用に飛び回ってガリバルディを拾い上げた。
ガリバルディは愛馬の背中によじ登ると「カプスチンより範囲が狭ぇ!」と舌打ちをした。
ドナシアンの背後にいたスジャータは花の付いた大きな杖を振り「高き山々、嫋やかな峰よ。粉雪、睡蓮、乳粥、神秘の油、生ける者に癒やしを、死せる者に安らぎを! 《アーユス・シャラナム》!」と呪文を唱えた。
祝福するような暖かな光が辺りを包み込むと、怪我をして苦痛に顔を歪ませていた兵士たちは活力を取り戻し、剣を持てる者は再び剣を高く掲げ始めた。
もはや助からぬ深手を負った者たちは顔から苦痛をなくし、まるで眠るように死んでいった。
「君が一番残酷かも知れない。戦うのを拒む者を戦えるようにしてしまうから」
「そうかもしれませんね。しかし、私たちは立ち止まってはいけないのです。それは戦場に出てきた彼らとて同じ。今は戦いの時です」とスジャータは穏やかに言った。
「そうだな。今は甘いことをいっている場合ではないな」とドナシアンは気を取り直した。
「気を引き締めろ! 魔王城はもう目の前だ!」とドナシアンは両手を祈るように合わせた。すると乗っていた馬たちの背中に黄金の輪が現れて宙に浮き始めたのだ。
「このまま玉座に突っ込むぞ!」
四頭の馬は自分たちが飛べるというのを理解し、後ろ肢で大きく地面を蹴った。
満月の光を受けて天高く登り、赤い月に生け贄を捧げている様子を描く禍々しいステンドグラスを割って魔王の玉座の間へと飛び込んだ。