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英雄遺産のエーヴィッヒ  作者: 大浣熊猫
プロローグ
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最終決戦 前編

「時は来た! 城は空だ! 勇者たちのために道を開けろ!」


 白髪の老将軍は馬上で大きく聖剣デア・アンファングを天に掲げた。

 突撃ラッパの音が彼方此方で響き渡り空気を震わせた。続くように胎動を始めた馬たちの大地を蹴る蹄の音と兵士たちの足音が合わさり、大地を揺らした。

 将軍と兵士たちの鬨の声が曇天に届いたのか、雲は割れて満月が現れ、大地を明るく照らした。


「ハルテンブルク将軍! あなたの活躍を私は世に刻みます!」


 若き勇者ドナシアン・ガリマールは道を開こうとしている人類統合帝国軍の将軍を讃えた。

 この白髪のハルテンブルクと呼ばれた将軍は人類をまとめ上げた先々代皇帝の賢帝アルニウス・ラウリアヌス・ドルマシアスの落胤だ。


「老兵は消え去るのみだと!? 抜かすな! 老兵は老いても兵だ! 消え去るのは勝利を掴んだあとだ! 進め!」


「老いて尚気骨ある者は賞すべきですね」


 勇者ドナシアンの輝くように白い愛馬ヴァルドロワールの上で彼の後ろに乗っていた褐色肌の女性が吹き付ける風で靡く髪と白と水色のサリーを押さえながら、突進する将軍たちの背中を見ている。

 この女性はスジャータという。遠い村の豪族の娘だったが、両親を魔王に殺されて自分も殺されそうになったところを救われたことで仲間になった。勇者の仲間たちの怪我を治す魔法を使える。


「あのライヒスリッター上がりのジジイ、一回アタシら捨てて汽車で逃げだしたじゃねェかよ」


 三メートルはあろうかという大きな戦斧を魔王城に向けて突き立てている女性はフェルディナンディ・ガリバルディだ。

 勇者の最初の仲間であり、戦いになれば右に出るものはいない。鍛冶が趣味で、立ち寄った村の鍛冶場で勇者たちの武器を修理していた。


「あれは戦略的撤退ですよ。私たちを捨てたのではなく、戻ってこられると信じて撤退したのです。現に、ご覧なさい」


 黒地に金の細かい刺繍が入った司祭服を着た男が右手を前にかざし、ハルテンブルク将軍の行動を指した。

 この男はアリスタルフ・カプスチン。とても賢く強い魔法使いだ。

 魔王にその一族の賢さを脅威と見なされ村を焼かれ、魔術に没頭して犯罪に手を染めそうになったところを勇者ドナシアンに救われて以降、彼の手助けをしている。


「まあ、いいか。あたしのボロックダガーを魔王のケツの穴にぶちこんでやらぁ! 切れ痔で死ぬ覚悟してろよ、魔王ヴァハトマンス!」


 ガリバルディは戦斧を振り回し、空を切る音立てながら気合いを入れた。


「はわわ! ボ、ボロックダガーを、お、お尻に……!? ぶ、ぶふ、ふしゅふふふ……。ハッ!? イケませんよ、そんなこと!」


 スジャータは大きなハスの花が付いた魔法杖で真っ赤になった顔を隠した。


「まったく女性陣は相変わらず下品ですね。

 ですが、村を燃やされた身としては、ガリバルディさんに突き立てていただいたボロックダガーの柄を火であぶり、内臓から焼き尽くしてしまいたいですね。じわじわと、何日もかけて。

 ンフフフ、一体どのような臭いがするのでしょうか。魔王の内臓が焼ける臭いとは。実に興味深い」


 彼の漆黒の愛馬プラブダもいきり立つように鼻を鳴らしている。この愛馬はカプスチンと共に生き残った馬であり、彼とは強い絆で結ばれている。


「オメェが一番外道だわ」とガリバルディは顔をしかめた。


「おい、みんな、気を引き締めろ!

 ハルテンブルク将軍とその部隊が道を作ってくれた。魔王軍も追い込まれているのは同じで総力戦だ。

 今この場ではまるで山を覆い尽くすような軍勢で絶望的に見えるかも知れないが、城の警備は薄い!

 ハルテンブルク将軍のくれたチャンスを逃すな!」


 勇者ガリマールは仲間たち、衛生魔法士スジャータ・ヴルーヴィラ、豪傑女戦士フェルディナディ・ガリバルディ、異端禁忌魔道士アリスタルフ・カプスチンらと共に馬を引き、ハルテンブルク将軍が左右に分けた敵兵の血に染まる花道をひた走り、魔王ヴァハトマンスの居城へ走り抜けた。

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