来るよ来るよ、アイツが来るよ
…誰だこいつ。
かほるは、目の前でによによと笑う男子生徒を凝視していた。『君を迎えに来た』と言った彼は、それだけを口にして、ただただ笑っているだけだった。
周りでざわめいていた新入生やその親達はいつの間にかいなくなっている。たまに遠くからこちらを覗き込んでくる者もいたが、なぜかみな、一瞥してそそくさと背中を向けて去っていく。かほるはそんな光景が不思議でたまらなかった。
…まさか、こいつ、…恐怖の魔王か!?それとも殺し屋か!?悪魔?幽霊?妖怪?魔物?サイキッカー?殺人鬼?それとも…
「…ボクはそんなに怪しい奴じゃないよ?」
いきなり目の前の男がまるで自分の心を呼んだような言葉を吐いたので、かほるは固まってしまった。隣にいた麻友はかほるの後ろに隠れて隙間から相手を見つめていた。ギュウッと腕をつかまれてかほるは口元が緩みそうになったが、ここは相手の前だ、こんなところで隙を見せてどうする、と自分に言い聞かし、男子生徒に向き合った。
「…アレ、上村かほる…ちゃん、だよね?え、間違えた?」
「…ボクは上村かほるです、間違っていません」
「あ、ホント?良かった」
能天気に笑う男子生徒。
…なんかこいつ…気持ち悪い…。
かおるは、自分の苦手な人種と新学期早々出会ってしまった自分の運命を恨んだ。