ピンボケ写真
何日かしてできあがってきた写真は、思ったほどではないが、やっぱりピンぼけが多かった。真っ黒なのも何枚かある。
「ま、最初だから、こんなもんよね。でもねキミ、もう少し気合い入れようか」と沖野さんがやや親しげに笑いかけてくれる。小麦色の小さな顔がきりっとしてまぶしい。
「まあ、写真はいざとなれば写真部のを使わせてもらえるから。問題は文章だけど、鵜飼君、きみ、けっこううまいじゃないか。こまかく、いろんな情景が書いてあっておもしろいよ。リヤカー待ちで遅くなったとか、蚊にひどく刺されたとか、親切な人にリヤカーを貸してもらったとか、鵜飼君、この調子でいいから。このまま頼むよ」
副委員長の駒瀬くんが人のよい笑顔でほめてくれる。沖野さんもぼくの書いたメモを読みながら、ほんと、これなら使えそうねとぽつりと言う。授業をさぼって視聴覚室で書いたのだが、そんなふうに言ってもらえると、やはりうれしかった。
ぼくたちが話している間も、委員長の本原くんは丸イスにすわって背を向けたまま、資料の山と格闘している。この前ここに来たときも、この人は資料にかかりっきりだった。あちこちとノートやファイルを引きずりだしてはペラペラとめくり、ポイとほうりだす。なにかよほどの調べものがあるのだろう。
「街の人たちの評判はどんなかな」
本原くんが手を休めずにいきなり言う。
「うん、なるほど。そういう視点もあったほうが問題提起にもなるなあ」
「いろいろ言われてるもんね。材木をかってに持っていかれた、返せと言って怒鳴り込んでくる人も毎年跡を絶たないし」
「そうそう、貸してくださいって言って来たから、貸したはいいけど、終わっても返しに来ない。あげくにファイアストームで燃やされてしまった、なんてこともよくある」
「そういえば、わたしのクラスなんか、中学の先生が抗議に来てたわ。中学の生徒に強制的に手伝わせたって」
「今年はそういう声を積極的に入れてみようよ。市中評判記ね」
ミーティングが終わり、現場に戻る途中で穂坂さんに出くわした。写真ができたかと訊くので、できたにはできたが少し問題があるので次にしようと言うと、悲しそうな顔をしてうつむいてしまった。
「ピンぼけばかりなんだ。見せてあげるよ」
ぼくは白状して写真を出した。穂坂さんは一枚一枚を手にとり、ていねいに見ていた。そしてある写真を指して、これがいいと言った。それは中島がリヤカーを引いている写真で、近くからアップで撮ったせいか、とくにピンぼけがひどい写真である。
「こんなんでいいの」
「ちょうだいね。ありがと」
穂坂さんはそれだけ言うとスリッパの音をパタパタたてながら廊下を走り去って行った。