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九月の舟  作者: すのへ
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竹取り行

 その日の放課後から材料集めが始まった。近隣を回り、家庭や工場で廃材をもらってくるのである。毎年のことなのでこの季節になると、用意していてくれるところもある。

マスコット製作に不可欠なのはまず竹である。竹を割った竹ひごを加工して輪郭を作るので、竹がないと話にならない。

 うちのクラスではすでに、先遣隊が郊外の竹やぶへ赴き、伐り出しにかかっているはずだ。中島と笹安は居残り、学校に二台しかないリヤカーの順番を待って竹やぶへ向かう手はずになっていた。しかし、リヤカーはなかなかあかない。

「おい、日が暮れてしまうぞ」

「待つしかないだろ。リヤカーがなければ運べないもんな」

 二人はリヤカー置き場で順番待ちをし、ぼくはそのようすをカメラに収めた。

 やがてほんとうに日が傾きはじめたころ、やっと一台が戻ってきた。それっとばかりにぼくたちは急いだ。裏門を出ようとしたとき、窓から穂坂さんが呼んだ。同じクラスの女の子で、茶道部の部室から顔を出している。学祭では各クラブの展示会もあるので、その準備をしているらしい。

「お。穂坂、手伝え。いっしょに行こう」と笹安が呼ぶ。穂坂さんは中島のほうを見て、「どうしようかな」とつぶやいたようだったが、中島が照れくさそうに下をむいたので、「遅いからやめとく。こっちの準備もあるし」と言って顔を引っ込めてしまった。

 竹やぶに着いたときには日がまさに落ちるところだった。

「こらあ、いつまで待たせるんだ!」と先遣隊の衣川が怒鳴る。ぼくはすかさずシャッターを切って状況をメモする。リヤカーがあくのを待っていたのだと笹安が説明する。

「言い訳はあとだ。とにかく早いとこ積もうぜ。ここはかゆくてたまらん」と衣川たち先遣隊のメンバーは蚊に刺された跡をかきながら、伐ったばかりの竹を積み込む。

「ぜんぶは載りきらんなあ」

「しょうがない。一回戻ってまた来よう」

「真っ暗になるぞ」

「いいよ、おれらでやるから」

 そんなやりとりを竹やぶの持ち主が聞いていた。ステテコをはいた小柄な老人である。

「うちのリヤカーを使うといい。きょうじゅうに返してくれればかまわんでな」

 その好意に遠慮なく甘えることにし、二台のリヤカーに大急ぎで竹を積む。これは撮らねばとカメラを向ける。しかし暗すぎて露出計の指針が動かない。絞りをいっぱいに開いてシャッター速度もスローに落として撮る。

「こら!鵜飼、手伝え!」

 暗がりから怒声が飛んできてあわててぼくも竹を運ぶ。

 けっきょく学校に戻ったころにはすっかり日が暮れていた。すでに夜間部の授業が始まり、教室の電灯や校庭の照明でグラウンドは明るく、作業は思いのほか順調に進んだ。借りてきたリヤカーは、帰り道だからと衣川たちが引いて帰った。

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