マジンガーZ
翌日の放課後、ぼくは取材を開始した。
「お、ミノルタのAL―Sか。それはレンズがいいんだ。メリハリのある写真が撮れるぞ」と写真部の渡部が、首に一眼レフをぶら下げてこっちへやって来た。ちょうどいい。使い方がよくわからないので訊く。
まずフィルム感度を設定し、被写体にカメラを向けて露出を合わせる。針が真ん中に来るようにシャッターと絞りのリングを回して調整すればいいそうだ。かんたんである。
「外で撮るんだろう。なら、絞りを8にしておけばいいよ。あとはシャッターで合わせるんだ。なあに心配しなくても、撮れなかったら、おれが撮ったやつを使えよ」
渡部はぼくを撮って去る。ぼくの後ろでは中島と笹安があれこれと作業の手順を話し合っていた。グラウンドには部活中の運動部を避けてロープが張られ、全校各クラスの作業場が設置されていた。体育祭のマスコットと桟敷作りがそこで行われるのだ。
マスコットは材木や竹を組み合わせて骨組とし、紙を張りペンキを塗って仕上げる、まあ張り子の大きなものである。なにを作ろうと自由だが、高さは三メートルまでという決まりがある。桟敷は自分たちがすわる観客席で、各クラスが自作することになっている。たいていは廃材を組んだ階段状のものらしい。一年生は勝手がわからないので、担任や先輩の話を聞いたり、前年の学祭風景の写真を参考にし、あとは想像しながら手探りで製作していくことになる。
学校祭は秋分の日がある週末に開催されるため、どのクラスも二学期が始まるや、いっせいに準備にかかる。まず、一番重要なマスコット作りのリーダーを決めなければならない。これは、どのクラスにもこういうことが得意な生徒が必ず一人はいるもので、ぼくのクラスでもマスコットに話が及ぶや美術部の中島に全員の視線が集中した。本人も元々やる気だったため、すんなりと決まった。
なにを作るかもクラスで話し合う。お城やテレビ塔、凱旋門、担任教師の顔、鉄腕アトム、カールのおじさん、アンパンマン、ゴジラなど候補が黒板を埋めていく。当然、男子と女子で意見が分かれた。だが責任者であるリーダーの言葉には他を寄せつけぬ力がある。それまで黙ってみなの意見を聞いていた中島は発言を求めて立ち、すでに夏休み中から決めていたらしい名を高らかに口にした。
「マジンガーZ!」