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私とあなたの孤独(2)

 

 そうして、結局その日もベッドの上で爆睡してしまった。

 でも、眠る私の側にヴォルティス様がずっと寄り添っていてくださった。

 手がずっと重ねられていて、穏やかな魔力が流れ込んでくる。

 そのせいなのか、夢を見た。


 美しい金の髪の乙女。

 それは初代聖女様。

 邪竜として勇者と聖女に討伐された。

 地面に倒れた邪竜だった頃のヴォルティス様。

 そのヴォルティス様へ、勇者は封印を施す。

 巨大な塔により押し潰されて、地面の中に消えていくヴォルティス様の姿は胸が痛む。

 すると、聖女は唇の端を吊り上げて、提案した。


『せっかくだから、この竜を使って国を興しましょうよ。それで部族同士の戦争が終わるわ』

『どういうことだ?』

『竜の魔力を私とあなたで独占して使うのよ。竜は魔力を溜めなければ邪竜にならないし、勝者であり強者である私たちに使われて(・・・・)本望でしょう』


 ——使われて(・・・・)

 顔を上げると、聖女様は自身と勇者の左手の甲に刻印を生み出す。

 目に見えて二人の魔力は上昇し、場面が絵画のようになり、幾つも流れていく。

 勇者と聖女は村を制圧し、部下を増やし、土地を奪って治めていく。

 これは、侵攻?

 他国はその様子に怯え、竜と契約する。

 竜の守りにより勇者と聖女はそこで侵攻を停止した。

 しかし、十分すぎる広大な土地を手に入れていた二人は“王と王妃”になり、支配した敵対部族同士の男女を結婚させ、反抗心を奪っていく。

 いつしか世界は私の知る形に変わり、ヴォルティス様は竜の姿で塔の地下から浮上してくる。

 そこに現れた『聖女』。

 すでに勇者——王を見送った、初代聖女様。


『年老いたな』

『ヒヒヒ……あなたの魔力のおかげで、病気もせずにここまで長生きできたわ。でも、さすがにそれも限界みたい。だから契約しようと思ってね』

『他国の竜たちと人間どもの関係に、憧れでも抱いたか?』

『まさか! お前みたいな邪悪な存在と寄り添って生きるなんて冗談じゃないわ! 気持ち悪い!』


 ひどい言葉。

 散々ヴォルティス様の魔力を奪い取り、力ずくで他者の土地を奪っておきながら。


『……確かに、この大陸は争いに満ちていた。力ずくでなければ争いは永遠に終わらなかっただろう』


 私の考えが読めるように、ヴォルティス様が目を細める。

 一族同士、部族同士でこの時代の大陸は争い合い、戦争が絶えなかった。

 周りはすべて敵。

 勇者と聖女もまた、その戦いと憎しみに満ちた世界をなんとかしたいと望んでいた?

 そのためにヴォルティス様の魔力を使い、力ずくで支配した?

 確かにそうしなければ、争いの時代は終わらなかったのかもしれないけれど。


『血は流れたが、お前とあの男の統治は平和的だった。……いいだろう。この先も民を愛する王族として、国を愛していくのなら、我が魔力はこの国に捧げよう』

『話が早くて助かるわ。……私と彼の息子は優しすぎるからね。その代わり、刻印を持つ者が側にいなければお前から魔力を奪えない。私の魔法陣を模写したものを、お前が自分で聖魔法適性が高い者へ与えるがいい。女の方が効率がいいわ。私が作ったものだからね』

『わかった』

『この先もお前は我が国の奴隷だ。永遠に搾取され続ける存在だ。忘れるな。お前は永遠にここから動けない。絶対に逃さないよ。死ぬまで私と彼の子——王族に仕え続けるんだ』

『…………』


 初代聖女様はずっと笑っていた。

 怖い。

 そして、とても悲しい。

 ヴォルティス様はそれを受け入れたの?

 どうしてそんなに、聖女様を憐れむような目をしているの?


『醜く恐ろしいお前を、愛する者などいないのだから』


 初代聖女様がそう言うと、また絵画のように場面が移り変わる。

 今度は歴代聖女様たち。

 みんなヴォルティス様を恐れて、ヴォルティス様の部屋を避ける。

 扉の前で声をかけ、扉の前で会話をしていた。

 刻印の使い方を扉越しに教わり、竜の塔から離れると「恐ろしい」「醜い魔物の王」と影口を伝えている。

 竜の塔で聖女と一緒に暮らしているのに、ヴォルティス様は独りぼっち。


『ヴォルティス様は、人に化けることはできないのですか』


 そんな長く孤独な日々に、ひとりの聖女が声をかける。

 皺の増えた白髪の聖女。

 前任のミネルバ様。


『あなたは見た目が怖いから、小さな生き物に変身したらいいのではないかしら。そしたら、きっとあなたと話をしてくれる人が増えるわ。わたくしはもうおばあさんだから、きっともうすぐ、あなたの前からいなくなる。でもわたくし、あなたは本当は誰かとお話したいんじゃないかと思うの。あなたの姿が怖いと敬遠されるのなら、姿をなんとかすればいい』


 彼女の言葉を聞いて、ヴォルティス様は首を(もた)げる。

 諦めていた瞳に、僅かに希望が宿った。

 私は胸が苦しくて、熱いものが溢れそう。

 じっとしていられなくて、手を伸ばして駆け寄った。

 夢の中だから触れることはできないけれど、人の姿になろうと何度も魔法を構築し直す姿に涙が溢れた。

 人を怖がらせないために。

 人と話すために。

 こんなに頑張る方。

 優しい方。


「ヴォルティス様……私、一生お側にいます」


 たくさん、この方と、私はお話しよう。

 ずっと側にいよう。


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