story1 水無月水無
「う~ん、本当にお前は可愛いなぁ。」
「ワフッ!」
俺は、今、愛犬を撫でている。愛犬の名前はシルバー。2か月前に、まだ生まれて一週間ほどの子犬を拾った。シルバーは大型犬のアラスカンマラミュート、という犬種だ。シベリアンハスキーと見間違いそうだが、シベリアンハスキーより一回り大きいらしいから、獣医さんは見間違えなかったそうだ。いや、すごいなぁ。
「ワフッ!ワンワンワン!!」
「うん、どした、シルバー?」
俺が寝ようとしていたところにシルバーが上に乗ってきた。おい~、俺は寝たい~と思うが、可愛いから許す!今日はせっかくの休日だ。お昼寝くらいさせてくれ、シルバーよ。休日は午後2時くらいにいったん寝る。そして、起きたらシルバーの散歩だ。俺はそんな計画を頭の中で立て、寝た。
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ピピピピピッ……
ペロペロペロペロ……
シルバーが俺の顔を舐めていることがよくわかる。それに、俺のスマホの目覚まし時計もなってるなんて……いつもは面倒くさすぎて目覚まし時計の設定なんてしないのに。可笑しいな……。
俺は、目を開けた。眩しい。目がチカチカする。
「?ここ、どこだ?」
「さぁ、俺もよくわかんないです!」
「だよなぁ、シルバー。……ん?」
「どうかなさいましたか?ご主人様!!」
「ちょちょちょちょちょっと待って!?君、シルバーだよね?」
「はい!!そうです!ご主人様とお話ができ、嬉しく思う限りです!!」
「お、おう。なんで喋ってんの?いや、ダメじゃないし、喋ってくれて俺も嬉しいんだけど……」
「わかりません!ですが、ご主人様を起こそうとし、ご主人様の上に乗ったら場所が変わりました!」
「ってことは、転移ってことか。う~ん、困ったなぁ。ここがどこかもわからねぇし。」
俺は起きたところの辺りを見回す。あるのは、木、木、木。外だし、下には黄緑の草がたくさん生えてるし。すると突然、草から音がした。俺は構え、シルバーは唸りはじめた。
ガサガサガサッ
「!?」
「グルルルルルルゥ!!」
俺たちが身構えてるときに出て来たのは……
「ばぁ!!びっくりしたぁ?」
「び、びっくりしたぁ。だ、誰、なん、です、か?」
驚きすぎて、くぎりくぎり言ってしまった。草の中から出て来たのは、化け物でもなんでもなく、たった一人の女の子だった。水色の腰までの長い髪に、深い青色の目。
「ワ―ハッハッハー!!驚いた!驚いてくれた!やっぱり、ボク、最強!!」
「う、うん。わかった。えーっと、君、名前は?」
「水無!ボクは水無月水無!よろしくね!」
げ、元気だなぁ、この子。水無ちゃん、だっけ。よし、次からそう呼ぼう。そして、水無ちゃんは狐を連れていた。可愛い、ふわふわした毛の子だ。撫で心地、いいだろうなぁ。と、ほっこりしながら思う。
いや、狐に感心している場合ではない。この世界のことを聞かなければ。
「あ、あの。」
「ん?何~?」
「ここって、どんな国?」
「ここ?ここは~、魔法の世界!魔法を持たない人はいないんだよ!でね、一人一人、絶対、使い魔って呼ばれる動物を生まれた時に授かりに行くんだよ。ちなみにね~、ボクはね、この狐ちゃん!可愛いでしょ~?」
「うん!すっげぇ可愛い!モフモフ~。気持ち~!」
「でしょでしょ?でもね、この子たちを虐待とかする人がいるんだよ!?酷くない?」
「酷~。やばぁ。」
としか言えなかったけどね。本当は、はぁっ!?なんだよ、そいつら。絶対許さん。ってか、許すまじ。って思ってたけど、言うのが長くてめんどくさいから、顔の表情だけで表した。
俺がプンスカ怒っていると、急に水無ちゃんが俺の胸を見て、不思議そうに言った。
「?どうした~?」
「このネックレス……」
「ん?えっ……何これ?」
俺は自分の胸を見た。そうしたら、見たことのないネックレスがぶら下がっているではないか!だ、誰の?これ。剥がそうとしても、皮膚に張り付いていて、剝がれない。無理に外そうとしてもダメか、と俺は諦めた。
「旅、してるの?君。」
「ん?うん。する予定。ちょっと怖いけど、頑張る!」
「そう……じゃあ、死ぬ覚悟でやった方がいいよ~。」
「え……ワタシ、シヌンデスカ?」
なぜか、カタコトになってしまったが。その間に、水無ちゃんはどっか行ってしまったが。俺、こんな世界で生きれるかな~?と、呑気にシルバーの頭を撫でていた。
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別れたばかりの水無は、ウフフフフと狂気じみた笑みを含みながら楽しみを含んだ声で言った。今あった、犬を連れた女性を思い出しながら。
「すっごいなぁ~、すっごいなぁ~!あんなに強い子が、あんなに強い子が!ボクの前に、現れてくれた!やったぁ、やったぁ~~!いつか、いつか、戦う!絶対、戦う!」
愛犬・シルバーを連れた、主人公・桜並木零無は、この地最強の水無といつか戦う運命となってしまったのだった。