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9話


 石柱壊しを終えたアリスたちは摸擬戦のため、別の会場へ移動していた。

 学園の奥へ、奥へと進んでいき、見えてきたのは木が生い茂った場所。そこはこの魔術学園所有のである。この森全体には魔術がかけられており、見た目よりもはるかに広く、その広さから模擬戦などでよく使われている。また多種多様な植物も生えているため、薬草採取などにも使われる。また、その植物などに釣られ、虫系の魔獣が住み着いたりしてる。

 森の前にはほかの受験生たちも連れられてきていた。

 そしてしばらくするとすべての受験生が集まった。


「第2試験はこの私、アプルが説明するよ。みんな、ちゃんと静かに聞いてくださいね~」


 一般的な大人の身長より小さいその女――アプルは魔術で作った台の上に立ちながらそう言った。

 脇ではほかの試験監督たちが袋を持って何か準備をしていた。


「まず皆さんにコインを一人一つずつ配るので、ちゃんと受け取ってくださいね。大事なものなので落としたりしないように」


 試験監督たちの手で金色のコインがそれぞれに配られていく。

 全員に配られたのを確認すると再び口を開いた。


「最初に説明したように、これからみんなには模擬戦をしてもらいます。ルールとしては今みんなに配ったコイン、それを時間内の間奪いあってもらって、そしてその最終的な数を競うって感じ。範囲は後ろの森の中全部。魔術は何でも使ってOK。むしろどんどん使って,だよ」

「あの……」


 そこで受験者の中から手が上がる。

 アプルは少し嫌な顔をしたが、すぐに笑顔になった。


「何かな?」

「コインの数がもし1枚のまま終わったらどうなるんですか?」

「そのときは、そのために魔術を工夫して使ったりしていれば、0点みたいな感じにはならないよ。例えば地面を掘って隠れたり。まあ、もちろんコインは多ければ多いほどいいけどね。

 あとキミ、次話の邪魔したら失格にするから……」

「えっ」

「私、最初に言ったよね。静かに聞いてって、言ったよね。それを守れないような子はここにはいらないから。分かった?」

「はっ、はい……」

「分かったならよろしい。じゃあ説明続けるね」

(相変わらず怖っ)


 アプルはアリスがかつて魔術学園に在籍していたときからいる年齢不詳のロリで、魔術理論を教えている教師だ。人当たりの良い人間だが、自分の行動が何か少しでも邪魔されると簡単にキレる性格をしている。今回のは勝手に質問をした者が明らかに悪いが、考えているときに視界に入ってしまうだけでもキレたりするという理不尽もある。


「こちら側でこれ以上の行動は危険な体だと判断したら、即刻リタイヤさせるからね。大事な試験でも命をかけちゃだめだからね。それと注意事項としては、相手を死に至らしめるような魔術の使用、過剰な攻撃の禁止。あと今この森に、キラービーの巣があったりするから、その巣は壊したりしないこと。……以上かな。

 じゃあ、20分後に森の中へ飛ばすから、それまで心の準備をしたりして待っててね」


 説明が終わると受験者たちは近くの者同士で話し始めた。手を組んで試験をやろうということだろう。

 アリスは一人で問題ないが、誰かと組むのも楽しそうだと考えていた。

 その肩が叩かれる。

 後ろを振り向くと石柱壊しのときに一緒だった男がいた。


「えっと、確か……クランさんでしたっけ?」

「ああそうだ。実は君に相談があってな……、俺たちと手を組まないか?

 お前の魔力がすごいのはさっきの試験で分かった。だがいくらすごくても数で囲まれればキツいだろっ」

「……確かにそうですね」

「そこでだ。俺がお前に手を貸す。一人よりは二人、二人よりは三人のほうが楽だろ」

(確かにさっきので石柱壊してたし、強そうではあるけど)

「どうだ?」

「ほかには誰か?」

「あと3人集めてある」

「なるほど……。う~ん……、良いですよ。協力しましょう」

「おっ、良かった」


 アリスは作戦会議の為に集団の中から離れた。

 そこには鏡に夢中な男、気の強そうな女、周りをキョロキョロしている男の3人がいた。


「改めて自己紹介だ。俺はクラン。得意な魔術は土。好きなものは筋トレ。見た目通りの良い男だ」

「僕はガラン。水魔術が得意さ」

「私はマチルダ。何でもできる天才よ!」

「えっと、僕はシンと言います……。魔術は大抵のものは使えます」

「私はアリスと言います。炎魔術が得意です」


 筋肉質な男がクラン。いかにもナルシストといった感じの男がガラン。自信満々の女はマチルダ。気弱そうに顔を下げながら話したのはシンだ。


「どういう風にやるか?」

「僕が目立つように」

「私がメイン火力やるわよ! 私が!」

「メインはアリスの方がいいと思うが」

「僕は後ろのほうにいるので、ご自由に……」

「私がメインよ!」


(うわ~すごっ。見事にバラバラだ)


 アリスは4人の止まらぬ話し合いを呆れながら見ていた。

 クランはどうやら手当たり次第に声をかけていたらしく、見事なほどに協調性が取れていなかった。

 話がまとまらない内にどんどん時間だけが過ぎていく。

 そしてクランはマチルダをなだめたり、ガランを止めたり、シンを説得したりしてようやく話はまとまった。なおこの間アリスは見ているだけだった。


「じゃあ確認するぞ。まずメイン火力をアリスとマチルダ。その補助をガラン。俺は先頭で切り込み。シンは索敵。これでいいな」

「OKだよ」

「それで我慢するわよ。足引っ張らないでよ、アリス!」

「……分かってますよ」

「胃が痛いけど、頑張ります」



 20分が経った。

 受験者たちの足元に魔法陣が広がる。


「では森に転移させたら試験開始です。一緒にいたい人同士は手を繋いだりでもしてくっついててくださいね~。

 それではみなさん頑張ってください~」


 そして全員が一斉にその場から消える。転移魔術で森の中へと飛ばされた。


 *  *  *  *  *


 木々の葉っぱの間から光が差し込む。

 風に吹かれ草木が揺れる。

 じめじめとした感じはなく心地いい雰囲気だ。

 アリスがいた森に比べ、整備されている森ということもありきれいな森であった。


 アリスは4人を見る。

 自然と口角が上がっていく。


「予定通りやっていくぞ!」


 4人は進んでいこうとするがアリスはその場から動かない。


「何してんの? 置いてくわよ」


 アリスは両手に魔力を溜めていく。

 それに気づいたシンはビクビクしつつ話しかける。


「あ、あのどうしたんですか? その、そんなに魔力溜めて……?」


 アリスは4人を見る。

 それはそれは良い笑顔で。


「始まったばかりですが、本当にすみません」


 何が起こるか悟ったクランはそれを止めようとする。シンは駆け始める。


「最後にと思ったんですけど……、どうしても我慢できませんでした」


 マチルダは頭にクエスチョンマークを浮かべる。ガランは鏡を見てる。


「裏切ります」


 その言葉と共にアリスはフレイムを放つ。

 クランは土の壁を生み出す。炎はそこへ直撃し、壁を粉砕する。粉砕された破片が4人を吹っ飛ばして宙を舞わせる。マチルダは態勢を何とか立て直し、空中からアリスへ攻撃しようとする。だがそこへ第二波の炎がぶつけられ、地に落ちる。ガランは水で防御したが炎であっという間に蒸発させられる。シンは真っ先に意識を落としていた。

 炎が生き物のように襲いかかり、彼らを吹っ飛ばしていく。


 クランたちが最後に見たのはいたずらが成功した子供のようにはしゃぐアリスであった。


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