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6話


 何百もの赤茶色のレンガが積まれた壁がそびえ立ち、内側に存在するものを守っている。

 内側からは人のにぎわっている声が聞こえる。

 門では荷物を引く馬車を連れた商人や旅人たちが出入りする。

 ここは最大級の魔術師育成がされている国、ホウマ国。数多くの魔術師が住み、そして日夜研究が行われている。


 そしてそこを少し離れたところから見る少女が一人。

 陽ざしを反射しながら風に揺れる金の髪。少女は揺れる髪を手で押さえながらそこに立っていた。


「ようやくついた……」


 少女の名前はアリス。理想の女の子をつくろうとして失敗し、自分自身が理想の女の子『アリス』となった元青年である。

 アリスは自分の持つ膨大な魔力を惜しげもなく使って身体強化をし、六日ほど食事や睡眠などの休憩をはさみながらこのホウマ国まで走ってきた。

 今着ている服は森を出たとき来ていた服ではなく村娘のような地味な服だ。

 さすがにあの服のまま国に入るのは気が引けたため、向かっている途中にあった小さな町で服を買った。そこはそこそこ服の品揃えがよく、いろんな種類の服が置いてあった。アリスとしてはひとまず服が買えればよかったのだが、店員の「かわいい子にかわいい服を着せたい」欲求によりたくさんの服を着せられ、着せ替え人形となっていた。

 男だったときは体験したことがない経験だったため、少し疲れていたが、結構楽しんでいた。

 アリスは手をグーパーグーパーしたり、屈伸したりして体の調子を確かめる。疲れは微塵も感じられなかった。


「入学試験が今日とは、結構危なかったなぁ」


 実は国へ向かう最中、道で出会った商人から魔術学園の入学試験の日が今日であることを聞いたアリスはほどほどのスピードで走っていたのを、一気にスピードを上げ全速力で三日ほど走ってここまで来ていた。普通なら例え魔術で強化していたとしても連日の長時間運動は疲労となるはずだが、アリスはそれを膨大な魔力でゴリ押ししていた。

 アリスは無事試験日に間に合ったことを安堵しつつ、門を通り国の中へ入った。

 国はアリスが青年だった頃と大きく変わった様子はなかった。

 あちこちを人が行きかっている。外から聞こえていた声はよりにぎやかになる。

アリスが進んでいると視線を感じた。周りを見渡してみると所々でアリスの方を見て立ち止まる男性がいた。アリスの姿に目を奪われていたのだ。それに気づいたアリスは少し顔を赤くした。


(見てる、見てる、見てるよ。見られてるよ。『アリス』がみんなの目を奪ってる)


 ただしそれは照れくささや恥ずかしさというより、自分のつくった『アリス』が人の目を奪っているということがうれしいことによるものだ。


(なんか良いなぁ、これ……)


 うれしさのあまり少し口角が上がっていく。アリスはそれをできるだけ抑えながら、足早に魔術学園への道を進んでいった。



 学園では豪華な門を開け、入学試験を受けに来た人たちを迎えていた。

 かなり高価そうな杖を持った人。

 フードで顔を隠した人。

 かなり腹が出た貴族のような人。

 やせ細った人。

 本を読みながら歩く人。

 アリスは来ている人の多さに少し驚いていた。


(多っ。私が入学試験を受けたときより多いな)


 さすがに今の自分より魔術の腕が上の人間はそうそういないだろうと考えつつも、油断し、落っこちて、入学できなかったという結果とならないように気を引き締めた。



 その姿を、獲物を見るような目で見つめている人物がいるのにアリスは気づいていなかった。その人物はアリスを見ながら舌なめずりをし、駆けるように移動し始めた。


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