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5話


「ふう」


 アリスはトレントが息絶えたのを確認すると一息ついた。アリスの頭の中にはある感情が満ちていた。


「気持ちい!! えっ、なに魔術ってこんな気持ちいの、爽快なの?!」今まで『アリス』をつくる手段でしかなかったけど


 アリスは興奮しながらそう叫んだ。また魔獣が襲ってくるかもしれないが、そんなのお構いなし、今の自分ならこの森に魔獣ごとき不意を突かれなければ、いやたとえ不意を突かれたとしても大丈夫だという感覚があった。

 そしてその感覚を傍らに、トレントとの戦いのことを思いだしてた。

 青年だったころは『アリス』をつくることだけを考えていたため、魔術は必要だから学んでいるという感じで、実際にそれを楽しいと考えてはいなかった。そしてそのせいで魔術での戦闘技術などはおろそかになり、フレイムぐらいしかまともに覚えていない。加えてまともになにかと戦ったことなどなかった。

 だが今晩、アリスとなり、膨大な魔力とそれを扱う技術を手にし、トレントを華麗に倒した。

 夢中だったこと――理想の女の子をつくる――が魔術の完成・使用によりなくなり、目的にぽっかりと穴が開いたような状態でこんなことを感じれば、そこにすっぽり入ってしまうだろう。

 完全に魔術へ嵌った様子であった。


「魔術気持ちいい、すごく良い……」


 アリスはおもちゃを与えられた子供のようにはしゃぎながらフレイムで遊んでいた。

 さっきみたいに炎をくねくねさせてみたり。

 丸や三角、四角と形をどんどん変えてみたり。

 鳥の形にして飛ばしてみたり。

 炎同士をぶつけあってみたり。

 もちろんすべて無詠唱、詠唱破棄である。


「いや~、やっぱ『アリス』はすごい。さすが私の『アリス』。かわいいし、強いし、もうこれは最強無敵だ!」


 一通り楽しんだアリスは、今度は自画自賛を始めた。


「髪も肌も、全身がきれいだし…。声はホントかわいいし。魔獣なんて人捻りの強い少女……。

 もうっ! 誰がこんな完璧な子をつくったの?

 私だー!!」


 それはそれはとても楽しそうな様子であった。

 その後しばらく魔術堪能と『アリス』褒めをループし、1時間ほど過ごした。


 *  *  *  *  *


「さてと、これからどうしようか」


 落ち着いたアリスは地面に大の字となって考え始めた。


「色々楽しみたい。面白おかしくなんかやってみたい。魔術も楽しみたい。国のほうでなんか仕事……、いや前の身分は使えないから、貧民。となるとできる仕事はあまりなさそうだしな。それに設定通りの『アリス』だとしたら歳は若くなってるから、さらにできる仕事は少なそう……、働く系はなしか。う~ん、じゃあどうするか。年齢ごまかして高くするのはなんか嫌だし」


 設定ではアリスの年齢は18歳、だいたい()()()()()()()()だ。

 アリスは炎で輪っかをつくり、それを回しながら頭を抱え始めた。


「どうしようか……。もともとあまりなかったけど吹っ飛んだせいでお金はないし。

 貧民で、歳が若くてお金0でも大丈夫なの………………あっ、そうだ」


 そのときアリスの頭に浮かんだのは過去の記憶――魔術学園の記憶であった。


 魔術学園。国が運営する魔術師を育成するための学校。自分の母校であるそこには二つ制度があった。

 特待入学制度。それはたとえ身分が不明、つまり貧民でも、お金がなくても、()()()()()()()()()()()()()という制度だ。

 そしてもう一つは学園が仕事を発注し、受注した学生が達成することでお金がもらえるという学生支援制度。学生たちからは任務と呼ばれているものだ。


「魔術の腕は『アリス』なら問題なし。お金も任務で問題なし。

 学園なら色々楽しめて、面白おかしいはずだし、それになにより魔術を楽しめる。……完璧だ

 となると早速行かないと。確か入学試験が始めるのはそろそろだから、これ逃したら1年待つはめになる」


 アリスはすぐに立ち上がると森を出るため行動を開始した。

 ただその前に一応お金が少しでも残ったりしてないかと家跡地へ戻った。幸運にも銀貨を2枚見つけた。


「食事は魔獣を狩って食べればいいから、これは服代かな」


 そう言いながらアリスは自分の着ているものを見た。

 灰や土をつけまくり、元の色が何色だったのか想像することもできない男物の服。トレントに襲われたせいでかなりボロボロとなっている。胸などはまだ無事に隠せている。


「私が着るんだから、かわいいやつを着せたいな」


 アリスは何を着るか、どんなのを着るかを考え、着ている姿を想像しながら歩いて行った。

 メイド服。

 エプロンドレス。

 水着。

 東の国にあるという着物。

 色々な服を着たアリスの姿を思い浮かべる。

 今の持ち金ではあまり良いモノは買えそうにないが、それでもいつか着てみたいと。

 そのときの顔はなんともだらしないものであった。



 道中襲ってきた魔獣がいたが、すっかりフレイムを操るのも自由自在となったアリスに燃やされていった。そしてアリスは、朝日が昇るころには森を出ることができた。


「待ってろよ、わが母校! アリスが大暴れしてやるぜ!!」


 そう太陽へ向けて叫び、国を目指して歩き出した。


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