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4話


 ロックアントの群れを一撃でほとんど撃退。

 青年だった頃、魔力が万全な状態なときでもさすがに一撃で一掃などできなかった。ロックアントとかち合ったときも魔術で何匹か倒したりはしたが、基本は足止めで、なるべく戦わないようにしていた。

 だが、それならこの光景は何なのだろうか。

 漂う装甲や肉が焼けた匂い。それがこの光景を幻覚や死ぬ間際に見せる妄想ではないことを示している。

 偶然。

 たまたま。

 奇跡。

 ……いや違かった。

 それは必然。

 それは当たり前の結果であった。

 なぜなら今のアリスの体には、青年だったころの比ではないくらいの膨大な魔力が満ちていたのだ。


「もしかして、体だけじゃないのか……

 魔力量も『アリス』のになっていたのか……」


 頭に思い浮かんだのは自身の書いた『アリス』の設定資料だった。

 設定資料には『アリス』の魔力量や得意な魔術などの魔術の腕も書いていた。そしてそれは自身が平凡なものなのもあり、かなり盛っていた。

 

 A・B・C・Dの四段階評価をするとしたら、

 魔力量 A

 コントロール A

 魔力の最大出力 A

といった感じだ。

 ちなみに青年だったころは魔力量がギリBで、ほかはオールCという評価だ。


「もしかして俺……、じゃなかった私がやったのってかなりすごいことだったのか……」


 かなりすごいどころではない。

 魔力量は生まれてから死ぬまでその最大量は変わることはないのである。だがそれを変えた。絶対不変であったルールを変えてしまったのである。

 もしこれを研究所の方々が知れば大喜びで調べるであろう。

 だがアリスは研究大好きという人種ではない。

 そのため、


「まあ、どうやれば再現できるかわかんないし別にいいか」


 となった。



「にしてもすごい火力だな。確か得意な魔術も炎系にしていたけど、……いやこれはすごい。さすが私の『アリス』だ」


 アリスは満足げな声でロックアントの死体を眺めながらそう言った。

 ロックアントたちは1匹残らず、完全に屍となっていた。


「これはもしや私、最強なのでは。今ならどんなのが相手でも負ける気がしない。ドラゴンが相手でも勝てそうな気もするね」


 もう返事もできないロックアントへそう話しかけながらアリスはニマニマと笑っていた。

 完全に調子に乗っていた。そして人間調子にのっているときに限って悪いことが起きる。


 ヒュン!


「ん? えっ、ちょ、まっ!」


 突然森の中から音がしたと思った次の瞬間には触手のようなものがアリスの両手に巻きついていた。それを剥そうとするとすぐにピンッと張られ両手同士が触れなくなる。

 森の中、触手がやってきた場所からは何かが歩む音が聞こえてきた。

 そしてその正体はすぐに明らかとなった。

 それはトレント、アリスのことを追いかけ、引きはがされたトレントであった。まだアリスのことを諦めていなかったのだ。


「おいっ、こらっ! 離せよ! 離さないと燃やすぞ!」


 アリスはすぐさまフレイムを放とうとする。

 トレントは全身が木だ。炎には弱い。フレイムが当たれば簡単に倒せる。

 ただし放てれば、である。


「フレっ、あうぅ、んン!」


 アリスの口へ触手が入り込む。

 魔術はその魔術の名を詠唱することにより発動される。()()()()()()()()()()()()()()()()が、それにはかなりの腕前が要求される。


「んんン! んっ! んっ!」


 フレイムを妨害されたアリスは焦っていた。

 体を激しく動かし、何とか拘束から逃れようとする。

 だが効果はない。その上暴れられるのが鬱陶しいのかさらに拘束しようと触手がどんどん伸びてくる。

 巻きつく触手から抜けようとする腕にはさらに触手が巻きつき動かなくなる。

 バタつく足へ巻きつき動きを止める。

 激しく振られる頭にも巻きつき固定する。

 体のあちこちに触手が巻かれていき、動かせる場所などなくなっていく。


「んン……」


 もはや声を出すのも難しくなっていた。

 トレントは口を広げ、そこへ微かにうめき声を上げるだけで動けなくなったアリスを近づけていった。

 数秒後または数十秒後にはアリスはトレントの口へ入り、おいしく食べられるだろう。

 『アリス』としての新しい人生はここで終わってしまう。


 そのときアリスの頭は、


(なんか少しエロイな……)


 すごく落ち着いていた。

 今まさに死んでしまうという人間の思考ではなかった。

 さっきまでの焦りようはどこへ行ったのか、すごく落ち着いていた。

 極限状態過ぎて、逆に一周回ってひどく場違いな思考になっていた。


(小説とかでこんな感じの場面は読んだことはあったけど、思ったよりなんか興奮しちゃうな。……さっきから爆発したり、『アリス』になったり、魔獣に追われたり、色々あったなぁ。生きてればもっといろんな体験ができるのか……。

 詠唱はできない。

 暴れて脱出なんてできない。

 となると残るは詠唱破棄)


 アリスは現状を冷静に理解し、助かるのに必要なことを理解していた。

 そして魔力を集めだす。


(今は(アリス)アリス()。私のつくった『アリス』ならできるはず)


 集めた魔力を体の周りを覆うように巡らす。

 そしてその魔力が燃え上がり、触手を燃やし尽くす光景をイメージする。


(燃えろ! 私でいろいろしていいのは私だけ!)



 ブワッ!!!


「ギャー!!」


 炎が燃え上がり触手を燃やし始めた。

 トレントは悲痛の声を上げ触手を自身から離した。

 アリスはすぐさまにまとわりつく触手を燃やし、拘束から抜け出した。


「このトレント、よくもやってくれたな……。覚悟しな!」


 アリスは先ほどと同じ要領で詠唱破棄をし、魔術を放った。トレント目がけて一直線に炎が進んでいく。それをトレントは何本も触手を出し、そしてそれを切り離して壁にし、自身へ燃え移らないようにする。


「ならこれはどうだっ!」


 続いての炎は先ほどアリスを拘束していた触手のようにうねりながらトレントへ襲い掛かった。トレントはさっきと同じように防御しようとするが、炎はそれを奇麗に避けていき、トレントへ直撃していく。炎はトレントをどんどん燃え上がらせていく。


「ギャギァッ!!」


 死を悟ったトレントは悪あがきのように針のようにした触手を放っていく。それをアリスは華麗に避けながら、炎を放ち続ける。

 そして数分もしないうちにトレントは息絶えた。


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