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20話


 魔術の発動とともにスプリドの周りに煙が立ち上り、視界を覆っていく。


「ブースト! フレイム! トルネード!」


 アルトは肉体強化に加え、フレイム、トルネードなどの魔術を腕に纏わせ、突撃する。

 その威力により煙は周りへと吹き飛ばされていく。


「なーんの、これしき!」

「なっ……」

「これが! 俺の! 友への拳! だー!」

「ありえっ、ガッ」


 アルトの拳がスプリドへと刺さる。スプリドは肉体強化もしていたが、そんなの関係なしに彼の体はきれいに舞う。そして場外へと落ちた。


「勝者、アルト!」


 カレンの声が闘技場に響く。観覧席にいる客からは大歓声が上がる。

 アルトは倒れるスプリドのところに行き、手を差し出した。


「アルト……」

「これで俺たちは友だ」

「ああ、そうだな、僕は君の友達だな」


 再び大歓声が上がる。そして観覧席から人が下りてき、二人を胴上げする。


「拳を交えれば誰でも友だ! 拳はすべてを解決する!

 わっはっははは!」


 そう言いながらアルトは笑った。隣では彼の友となったスプリドが照れくさそうに笑ってる。


「「「ワッショイ! ワッショイ! ワッショイ!」」」


「「「ワッショイ! ワッショイ!」」」


「「「ワッショイ!!!」」」


 胴上げは続く。どこまでも、どこまでも続いていく……。


 *  *  *  *  *


「どうなってんだ?」


 アリスは目の前に広がる光景をみてそう漏らした。

 目の前に広がるのはアルトがスプリドに勝利し、大勢の観客に胴上げされる光景――ではなく、煙の中へ入ったアルトが突然動きを止めてしまった光景だった。


「見事な幻覚魔術だね」


 カレンは笑いながらそう言った。


「さすが伊達に貴族の家じゃないね」

「貴族の家なんですか?」

「そうだよアリス。

 ちなみに彼がSクラスに入った理由は『適当に何もせずに生活したい』からなんだよ」

「適当、自堕落、貴族……それも良い!」


 隣で取材をしていたマリは、アリスに触れ合いまくるのを止め、スプリドを観察しだした。


(何もしたくないのにアルトに絡まれ、続いてはマリに狙われる……前途多難そうだな。)


 アリスは笑いを漏らしながらそう言った。そしてここまで構われられるスプリドを少しうらやましがった。


「にしても試合はこれで決着かな?」

「まだです」


 試合終了の合図を出そうとしたカレンへミリアが待ったをかけた。


「アルトの馬鹿がこの程度で止まるわけがないですよ」


 その言葉に呼応するように舞台で異変が起きた。


「うーん、はっ!」


 幻覚に囚われ動きを止めていたアルトが動き出した。


「は? 嘘だろ!」


 勝利を隠していたスプリドは思わず叫んだ。


「完全に幻覚決まってただろっ。なんで破ってんだよ!」


 幻覚魔術はその発動によって生み出した煙に触れた生物に幻覚を見せる魔術。これの対処法はいくつかあったりするが、それでも対処法として一番大事なのは幻覚にかからないようにすることだ。一度幻覚に囚われれば現実に干渉することが難しくなり、脱出することが困難になるからだ。

 だがアルトはそれを破った。


「幻覚? 今の幻覚だったのか? なるほど、通りで他の学友たちがいないはずだ」

「まさか幻覚だって気づかず破ったのか、僕の魔術を……」

「たまたまだ。スプリド君と友となり、他の学友たちとも拳を交わし、友となろうと思ったがいなくてな。『どこに行ったんだ?』と探してたらこうなったんだ」


「幻覚の対処には現実と幻覚内での差を理解するってのも確かにあるけど、それを意識せずにやるなんてね」

「どうです、うちの幼馴染は?」

「う~ん、ほんとに馬鹿だね」

「馬鹿でしょうね」

「良い馬鹿さです!」

「馬鹿?」

「馬鹿かな」


 観覧席全員からのひどい言われようだ。


「はいっ、そうです!」


 ミリアは自信満々に胸を張ってそう言った。



「では続きと行こうか。今度こそ友となろう!」

「クソっ……、あっ、待て」

「これが俺の拳だっ!」


 アルトの拳は今度こそスプリドをきれいに舞わせ、場外にした。


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