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2話


 森の中にぽっかりとあいたところ。

 その真ん中に一人の少女がいた。

 整った顔立ち。美しい青い瞳。月明りを受け光る金の髪。

 美しい少女であった。


 だがそこから、


「なんで? なんで? なんで! なんで俺が『アリス』になってんだよ!」


 少女の声でありながら、口調は男というなんとも不思議な声が出ていた。


「『アリス』は生み出したかったよ……。けど俺がアリスになるのは違うだろ!」


 少女は理想の女の子『アリス』を生み出そうとし、失敗。魔術が暴走してしまい自分自身が『アリス』となってしまった青年であった。

 青年はあれから四苦八苦、解呪の魔術を使ったりするなどして何とか元に戻ろうとした。

 が、結果は御覧の通りである。

 元に戻る気配など一切なかった。

 万事休すというやつであった。


「資料も全部……」


 そう言いながら元青年現少女は家の方向、正確には家があった方向を見た。

 そこに広がるのはきれいに吹っ飛んだ家だったったモノ。

 壁は消え去り、家の中のものは吹っ飛び、貴重な生命に関する魔術書は灰となり、すべては消え去っていた。彼だったときにつくってきた資料などももちろんきれいにかけらも残らず消え去っていた。

 『理想の女の子』を生み出す、その魔術を記した紙は、おそらくそれかなと思われる真っ黒な燃えカスが僅か服や手に付いているのみ。あの魔術はかなり細かいところまで計算しており、はっきり言って方法のすべてが頭の中にあるなんてことはなく、あの紙が唯一のものであった。

 仮にあの紙が残っていたとしてもこの結果は魔術の暴走ではなく、顔についていた文字が魔法陣の一部とされてしまったことで起きていた。

 要はあのとき最終的に起動したのは『理想の女の子』を生み出す魔術ではなかったのである。

 まあ元彼現少女はそのことには気づいてはいなかったが。


「はぁ、はぁ、はぁ。ひとまず落ち着け。落ち着くんだ。……ふぅ。

 まずは現状要確認だ。魔術が暴走した。全部まとめて爆発した。俺が『アリス』になった。

 …………まじでどうしよう……。

 研究機関にでも相談しに行くか? いやそんなことしたら人間つくろうとしたのバレるかもだし。バレたらまずいよな……。頑張ればごまかせ……、いや無理だろ……。絶対バレるだろ。自力では……」


 はっきり言って詰んでいるのである。

 国の研究機関に行けばもしかしたら元にも出せる魔術があるかもしれない。だが、その前に研究大好き魔術大好きな結構頭のおかしな者たちの巣窟である研究機関に行ってしまえば根掘り葉掘り調べられ、人間をつくろうとしたことがほぼ確実にバレてしまう。

 じゃあ自力で元に戻るとなるがこれもかなり難しい。『理想の女の子』を生み出す魔術をじじいになる前に、というより元気に生きている段階で作れたのも奇跡のようなものだった。たまたま人間を生み出す魔術について記された古い魔術書を手に入れることができたおかげ作れたのだ。その魔術書もきれいな灰となったが。

 まあ何が言いたいかと言うと青年には高度な魔術を作り出す才というのはなかったということだ。

 そして何より肉体を変形変化変質させるような魔術を元青年現少女は知らなかった。

 てかどうやれば肉体への干渉ができるんだという話であった。

 肉体強化の魔術は確かに存在する。だがそれは肉体に直接干渉しているのではなく、肉体を魔力で覆ったり、魔力で押し出したりなどと言ったように間接的に干渉している。

 そういうのを魔術学園に通っていたおかげで知っていたのもあり、いかに自分に起きている事象が大変なことなのかを元青年現少女は不幸にも理解していた。

 それをもう一度為すなどほぼ不可能である。


「多分もう元には戻れない、か……」


 重い現実が少女の肉体へと重くのしかかる。

 しばらくうつむきながら呆然としていた。

 青年の心はいったいどんな風になっているのだろうか。絶望に満ち溢れているのだろうか……。









 答えは、


「もう別にいいか」


 否であった。


「『アリス』とのイチャイチャラブラブみたいな生活はできないけど、『アリス』を愛でることはできる。俺自身が『アリス』なんだし。それにこれはこれでやってみたいことはある。……つまりやれることは減ったが、終わりではないのだ!!

 よしっ、ならばこれからは俺自身が、いや私がアリスとして面白おかしく生きていくぞ!!」


 少女アリスはそう高らかに宣言した。

 その声に応えるように周りの森からは魔獣たちの鳴き声が聞こえてきた。


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