19話
「へへへっ」
アリスの隣には姿だけなら変態がいた。
マリはアリスの頬をつつき、紙に書いていき、肌を見て、書いていき、髪を触り匂いを嗅ぎ、書いていきと作業を繰り返していた。
試合終了後、詳しく話を聞くことができ、「体を貸して」発言の意図が判明した。
マリは昔から小説を書いているのだが、書く際何よりも現実性を重視していた。そして今書いている作品の登場人物に魔術の天才の少女を登場させようとしていたのだが、しっくりとくるモデルに出会えず、スランプとなっていたのだった。
そんなときにアリスとの試合。アリスがマリの琴線にドストライクとなったのだ。
そして今、小説の取材としてアリスを観察、記録していた。
だがはたから見れば、やってることは変態のそれであった。
「あとどれくらいですか?」
「へへっ、もう少しだけ」
一向に終わる気配はなかった。
試合が終わってからずっとこの状態である。
アリスのもう隣ではハルが奇妙なものを見るようにそれを見ていた。
「楽しいの?」
「へへへ、楽しいよ~」
「?」
「ハルで言うところの戦いみたいなもんだよ」
「……ああ、なるほど……」
ハルは納得したように頷いた。
「さっきは白熱しなかったけど今度こそはしてよねー!」
前には舞台上の二人に向けて叫ぶカレンがいた。さっきの試合は好みではなかったようだ。
「あのカレン先生」
「ん?」
「なんでこれやることにしたんですか?」
アリスとしては、これはなかなかに面白そうなことではあったが、それをここまで張り切り、やろうとするかは謎であった。
「ん?」
「あのー」
「ん?」
「あっ、カレンちゃん?」
「ふふふ、それはね~、これを通してみんなに仲良くなってもらいたいからだよ」
「仲良く?」
おちゃらけた様子だったのが急にまじめな――まるで子を見守る母のような表情へと変わった。
「そう。……Sクラスはね、才能ある子たちが集まるけど、ほとんど自分本位。それに授業免除がされてるのもあって、学園生活の間でろくに仲良くする事なんてない。……だけどそれじゃつまんないでしょ。せっかくの学園生活、仲間と一緒に協力しながら過ごしていく、そんなキッカケにっ、てね」
「なるほど」
アリスは、カレンを少しふざけた感じの先生だと思っていたが、意外とまともな感じな先生だと思った。
話し終えたカレンはまじめ顔から一転、さっきまでのおちゃらけた感じになると再び舞台の方を向いた。
「よーし、二人とも準備は良いかな」
「いつでもいいですよ!」
「やるならさっさとやりましょう」
アルトは元気に屈伸しながら返事をした。スプリドはさっさと始め終わらせたいのか、足をトントンと音を立てて、苛ついている。
「良い返事だね。じゃあ2戦目、開始!」
「よーし、行くぞ!
ボルボロス、フリーズ」
アルトは速攻で魔術を詠唱する。
詠唱と共にスプリドの足元は泥沼となり、彼の足を飲み込む。続いてスプリドの足が凍り、完全に動きを止めてしまう。
「ボム」
だがスプリドは泥沼も氷もまとめて軽い爆発で吹き飛ばして拘束から抜け出す。
「良いぞ! まだまだ俺は行くからな! トルネード!」
「うるさいんだよ。ソイルウォール」
風がスプリドを場外へ吹き飛ばさんと進んでいく。それを地面から壁を生やして防御。
だがその隙にアルトはスプリドへ接近していた。
「ソイルウォール」
スプリドは追加で自分を囲うように生やし、来るであろう攻撃の防御を固くした。アルトは壁に肉体強化した拳を入れる。壁はガンっと響いたがそれで終わり。壊すには至らなかった。
壁となっていた土の一部がグニャっと曲がり、拳のようにアルトを殴った。アルトはそれを難なくと防御する。
「おお! 良いぞ! これなら俺たちは友になれる!」
アルトの心はさらに燃え上がった。
ハルほどの火力がない拳であったがそこにボムを加えて殴りにかかる。するとだんだんと壁は崩れていった。
スプリドは忌々しそうな顔をしながら壁の中から出る。
「友ってなんだよ! 勝手に友達にすんじゃねぇ」
「いやいや、勝手にではないぞ。昔から人が拳を交わせば、交わした者同士は友となるというんだからな」
「知らねぇよ、そんなこと。第一僕は魔術を撃ってるだけ、拳を使ってんのはお前だけだよ!」
「ん? そういえばそうか。ではスプリドも拳を使いたまえ」
「使わねぇよ!
あー、もうめんどくせぇ。これでさっさと終わらしてやる」
「必殺技というやつか? なら俺もそうしよう」
両者魔力を集めていく。
一瞬の静けさ。そして、
「ハールシネーション」
「アルト流マジックブーストウルトラパンチ!」
ブックマ、評価、感想をいただけると嬉しいです。