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15話


 寮でハルと生活するようになって5日が経っていた。

 アリスはハルという少女のことがかなり分かり始めていた。

 まず彼女は朝起きたときと夜の寝る前に本人曰く軽いというかなり重い稽古をする。その際、やっている姿をアリスが見ているのに気が付くとものすごく物欲しそうな眼をする。恐らく戦いたいのだろう。1日目の夜、アリスは言われるがままに稽古を一緒にさせられ、その勢いのまま体術勝負となっていた。もちろんアリスの惨敗だった。終わった後アリスは、もう2度と彼女の稽古には混ざらないようにしようと思った。

 次に彼女の食生活だがこれは体づくりのために肉を多く食べている。それに加え一度に食べるのはかなりの量だった。なおそれなのに身長は小さいのは謎である。

 ハルの生活は、一から十までのすべてが戦闘に為であった。


「少しだけでいいからやろうよ」

「いやさすがに()()()()()絶対にダメですよ……」


 そしてそんなハルからの誘いをアリスは今日も断っていた。

 彼女は悪い人間ではないのだが、余りにもバトルジャンキー過ぎた。体術勝負が不完全燃焼だったのか、ハルは事あるごとにアリスへ勝負を誘っていた。ある意味日課となっていた。

 今日も断られて肩を少し落とすハルとそれを呆れつつも楽しんでいるアリスは新品の制服を着て寮を歩いていた。

 寮を出て、校舎につながる道に行くと大勢の人が歩いていた。皆同じ制服を着ている。

 友人同士話し声などがごちゃごちゃと響く。

 道行く人は皆、新しく始まるものを楽しみにしているような顔をしていた。


 本日は魔術学園の入学式だ。




「やる、やる……やる」


 新入生たちは広々とした部屋へと集まっていた。そしてその中にはアリスとハルの姿もある。

 部屋の中には友人同士の話し声やらがガヤガヤと響いていた。


「やる……やる、やる、やる……やんない、やる、やる、やる……」


 その中で低く奏でられるハルの声。

 ハルは先ほどからずっと何かぶつぶつとつぶやいていた。


(やる、やんないか……。まさかここにいる人全員と戦おうとか考えてないよな)


 若干ながら彼女を理解していたアリスは、かなりあり得ない想像をしていた。


「ハル、まさかここで戦いたいなんて考えてないよね?」


 ある意味で冗談のようなつもりであった。つもりではあったのだが、


「考えてる」

「えっ、マジ……」

「でも大丈夫、我慢してるから大丈夫」


 本当に戦ってみようと、暴れてみようと考えていたらしかった。

 アリスは苦笑いをしつつハルのことを見た。よく見てみると拳を抑えながらプルプルと震えていた。ある意味では当然である。生活のほとんどが戦闘の為という少女だ。こんなに大勢戦えそうな人間がいればそのような欲求が高まるのは当たり前だ。


 そんな一幕がありながらも、何かトラブルが起きることもなく入学式は始まった。

 式が始まると話し声は消えた。

 前にある壇上を登っていく音だけが響き渡る。

 そして壇上に現れたのは一人の女であった。


「あっ」


 アリスはその姿を見て思わず声を漏らした。


「私は魔術学園3年、生徒会長を務めていますルーナと言います。まずはみなさんのご入学をお祝いさせていただきます」


 彼女は入学試験のときに出会った会長と呼ばれていた不審者であった。

 会長と呼ばれておりもしかしたら生徒会長と思ったが、あの行動からまさか違うだろうとしていたが、実際に生徒会長であった。


(別人かよ……)


 ルーナは淡々と祝辞を述べていく。そこには不審者の影など一切ない。ある種の完璧さまでも感じられた。


「最後に私からみなさんに一つアドバイスをしたいと思います。――何でもやってみてください。

 この学園では大抵のことはできます。研究のための資金。探求のための資料。仲間との協力。たくさんの経験。たくさんの挑戦。この学園は規則の範囲内であればなんでも許容します。ですので何でもやってください。失敗しても構いません。何でもやってください。間違ってもいいです。何でもやってください。何でもやれるんですから。

 そのためのモノは全てここにあります」


 そう言いルーナは一息吸った。

 新入生たちの反応はさまざまだ。

 目を輝かせる者。意思を強くする者。気だるげな者。寝ているもの。自分の思いを確信する者。特に何も考えていない者。全然関係ないことを考える者。


「以上で式辞とさせて頂きます」


 そんな反応を見てルーナは微笑み、式辞を終え、壇上から下りていった。



「なんでも、か……」


 何でもできる、その魔術学園で『理想の女の子』をつくるために魔術を学び、完成させ、失敗し『アリス』となった。面白おかしく生きていこうと決め、それができそうなここへ帰ってきた。

 何をするか、何を為すか、そんなはっきりしたものは決まっていない。

 今は漠然とした指針を進んでいる。

 そんな指針も変わり、再び『理想の女の子』をつくるに匹敵するものが見つかるかもしれない。見つからないかもしれない。

 だがそんなことは問題ない。

 『アリス』で面白おかしく生きていければいいのだから。

 それに加えハルという爆弾(面白い)もいる。

 これで面白おかしくならないわけがない。


 アリスはこれから何が起きるか、何をするか、何を仕出かすかを想像しながらニヤリと笑った。


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