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14話


「上と下、どっちで寝ます?」

「……」

「あのー」

「……、自分はどちらでも……」

「じゃあ私が下で寝ていいですか」


 ハルはコクリとうなずいて答えた。

 医務室で一晩を過ごした二人は与えられた部屋にやってきていた。

 寮は石づくりで、部屋は狭くもなく広くもない、ちょうどいい広さ。右側には二段ベットが鎮座し、反対側には棚と机が二つある。壁には窓が取り付けられ、日の光が入るようになっており、そのおかげで石造りだが冷たい感じはなかった。


 アリスはハルとの接し方に苦戦してた。

 青年だった頃、魔術の開発のために必要な資料や貴重な魔導書を集めるためにさまざまの人間と会った。その際になにより必要だったのは交渉術、つまりコミュニケーション能力だ。コミュニケーションが特段得意というわけではなかったが、それでも粘り強く行っていたおかげでそこそこのコミュニケーション能力をアリスは持っていた。

 にもかかわらずアリスは医務室から、そして今に至るまでハルとまともに会話できていなかった。

 アリスはちらりとハルのことを見る。

 袖なしの和服を着て、髪は一本にまとめ方から垂らしている。顔は整っており、『アリス』ほどではないが、かなりかわいい子だとアリスは思った。

 荷物を机に置いていたハルは突然アリスの方を振り向いた。アリスは体をビクッとさせた。

 ハルの顔は薄く赤色に染まっていた。


「……」

「えーと」


 一歩、一歩と無言のままアリスへ歩み寄っていく。アリスとハルの距離はどんどん近づき、胸と顔がぶつかりそうになる。アリスは後ろに下がり距離を取ろうとするが、ハルはそんなことは気にならないというふうに歩みを止めなかった。


「キャッ」


 小さな悲鳴が鳴る。

 ここは室内。どこまでも下がれるはずもなかった。アリスは背後にあったベットに足を引っかけ、倒れてしまう。

 そこでハルはようやく止まった。

 アリスは昨日の会長と呼ばれた不審者との出来事を思い出しつつ、この状況に興奮していた。


「昨日は……」


 アリスを見下ろしながらハルはそう言った。


「はい?」

「昨日は楽しかったです」


 アリスへと乗りかかる。

 顔は目の前に来る。

 鼻と鼻がくっつきそうな近さだ。

 息が耳元にかかる。

 互いの鼓動が嫌でも聞こえる。

 奇麗な紅い瞳にはアリスの顔が映りこむ。

 アリスの顔が少し熱くなる。

 スーと息を吸ったハルは一気に話し始めた。


「本当にいい攻撃でした。炎はいっぱい飛んでくるし、ぐにゃぐにゃ曲がったりするしで避けるのが大変でした。炎を吹っ飛ばすっていう面白い経験もできました。死ぬかもって思えて気持ちいい戦いでした。追い詰めたと思ったらそこからすっごく粘って、そして自分が逆に追い詰められて……。強かったです。思った通りでした。もっと戦っていたかったんですけど、体が追い付かなくて……本当にすみません。だけど今度やるときは倒れませんから、安心してください。もっと、もっと、もっともっともっともっと楽しい勝負をしましょう!」


 アリスは少し引き気味になってた。確かに面白いシチュエーションではある。だが実際、体に乗られ、顔と顔がくっつきそうな距離で早口で喋られる。『アリス』になったとか関係なしで、男のときでも少し恐怖を感じる状況だった。


「あ、あのー」

「言わなくてもいいです! アリスも楽しかったんですよね! そうですそうです! あんな戦いが楽しくないわけがありません! だからこそあそこで倒れなかったんですし、逃げずに戦ったんですよね!!」


 さっきまでの様子は嘘のような饒舌さだった。


「ちょっと落ち着いて。落ち着いて私から下りて深呼吸、深呼吸しよう」


 アリスはハルを自分から下ろし、落ち着かせた。

 ハルはものすごい興奮具合となっており、深呼吸は「ゴフーゴフー」だった。


 呼吸が落ち着いたハルだったが、体をブルブルと震わせ、まだ興奮している様子だった。


「えっとひとまず言いたいことを一言で」

「はい! 昨日は自分と手合わせしていただきありがとうございます!」


 会話をしようにもほとんど何も話さないことから嫌われてるのかと思い始めていたアリスだったが、そうではないことを理解した。


(この子、絶対戦闘狂の類だ。

 絶対これ、昨日から全然話してくれなかったのも戦ったのが楽しくて、そのことで頭がいっぱいだったんだ)


 アリスのその考えは正解だった。

 ハルは普段は大人しいが、戦闘、戦い、勝負のこととなると一気に興奮。まるで別人のような性格になるバトルジャンキーであった。遠い東の国からはるばるやってきて、この魔術学園に入ろうとしたのも、いろいろな人間と戦うという目的の為であった。


「アリスはどうでした? 楽しかったですよね?」


 ほとんど落ち着きを取り戻したハルはそう尋ねた。


(楽しい、楽しいかと聞かれれば……楽しかった。『アリス』で無双とかはできなかったけど、あれは面白かった)

「楽しかったよ」


 その答えを聞き、またハルが興奮しそうになる。それを察知したアリスはハルの頭を押さえ、再び落ち着かせる。そうしながらアリスは面白おかしい学園生活となるのを予感した。


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