11話
「コインよこせ! フレイム!」
「このっ、フリーズ!」
「失礼しま~す」
「「なっ」」
氷と炎を撃ちあっていた男たちは突然間に入ってきたアリスに驚きの声を上げる。そしてその姿に目を奪われ一瞬動きが止まる。それが致命的なミスとなった。
二人の腹へと腕を添えたアリスはそこから炎で吹き飛ばす。
「がっ」「あがっ」
木へとぶつかり背中を打つ。さっきまでフレイムを放っていた男はすぐに立ち上がろうと顔を上げた。そこに映ったのは自分に迫る足だった。
「フ、フリーズ……」
男の意識を奪ったアリスの背後へ氷が迫っていったが、地面から吹き上がった炎により消え去った。
アリスは彼へ鞭のように炎を叩きつけ倒した。
「う~ん、さっきのは囁く感じで詠唱もしたほうがよかったかな? 君はどう思う?」
アリスはまだ辛うじて意識を保っていた男へそう話しかけた。返事はうめき声だけだった。
だがアリスは返事を期待していなかったようで、それ以上話しかけなかった。そして二人からコインを貰い、別の場所へ向かった。
アリスはこんな感じの不意打ちのようなことを何度も繰り返し、集まったコインの数は56枚となっていた。
さすがに最初ほどの大乱闘はほかのところでは起きておらず、一対一や三対二などの状況が多かった。
アリスは不意打ちを仕掛けながら、その仕掛け方にいろいろなことを試していた。試したといってもさっきの詠唱するしないのような、見栄えのことであった。『アリス』をきれいに、美しく、かっこよく、いかに良く見せるかをを。問題なく合格するだろうという自信から、試験はおまけ程度となっていた。
かといって完全に油断しているわけではなく、攻撃を仕掛けるのは戦いが加熱しているときと、不意を突きやすい人たちのみを狙っていた。また戦いを少し見て、強そうなら避けていた。周りを警戒して動いている人やグループなどがいても仕掛けず、バレないように離れるようにしていたのだった。
アリスは若干調子に乗ってはいたが、自身の戦闘経験の浅さはしっかりと理解していた。もし戦闘経験が高い人が紛れでもして、そしてそこへ喧嘩を売り、返り討ちにあったら……『アリス』が無様な姿をさらしてしまう。欠点があったり、完璧ではないなどは、それはそれでかわいいポイントではあるが、アリスは容認できなかった。
アリスは慎重に森を進んでいくが、だんだんと人を見かけなくなってきていた。
「隠れちゃったのかな?」
試験時間も終盤となってきており、無理な戦闘でコインを奪われないようにと戦いを避ける人が増えてきていた。
そのため少し前までは響いていた激しい音は静まってきていた。
「ここらへんでお開きかな」
アリスはもう少し暴れ、目立ってみたかったが、人と出会わないことには始まらないためそろそろ終わりだなと考え始めていた。
ミシッミシッ……
そのとき前の方から足音が聞こえてきた。
現れたのはフードを被った人物。アリスと同じグループで石柱壊しの試験を受けたハルであった。
「金色の髪に、その魔力……。その顔……。アリス、だな?」
「そうですけど……。何でしょう?」
アリスは石柱壊しのことを思い出し、目の前の人間を警戒をしながら、いつでも魔術を放てるようにして少し後ろへ下がる。
「探してた……。お前強い……、手合わせ願う……」
ハルはそう言うと拳を構える。
それを見てアリスはすぐに逃げることを考えた。
相手は明らかに近接主体。それに加え石柱壊しでのあの技である。完全に何らかの格闘術を修めていた。それはつまり戦い慣れている人間の可能性が高いということだ。
「えっと、後でっていうことには……」
「出来ない。今すぐやる」
ハルはじりじりとアリスへ近寄っていく。
アリスは逃げることを考えた。だが、それを止めた。
(負けるにしろ、逃げるにしろ、どちらにしても醜態をさらしてしまうのには変わりはない。それなら、結局醜態をさらすなら、最後までやった方が良いに決まってる)
「来な! 『アリス』がぶっ潰してあげるよ!」
「ヒヒッ、面白い!!」
ハルが飛び込むと同時にアリスは横へ移動しながらフレイムを放つ。アリスがいた場所には炎を突っ切ってきたハルの拳が叩き込まれた。魔術で強化されたその拳は風圧を生み、真正面にあった木にくぼみを生んだ。
「人に打つもんじゃないでしょ! それ!」
「問題ない! お前なら避けれると思った!」
いくつもの炎がハルへ襲いかかろうとするが、それらすべてが避けられていく。ハルの動きが速すぎて当てることができないのだ。
地面へ着弾。
炎同士が衝突。
木々に着火。
攻撃は全く当たらなかった。
(マジかよ……どんなスピードなんだよ)
アリスは冷や汗をかきながら次の攻撃へ移る。だが攻撃が放たれる前にハルは既にアリスの目の前までに来ていた。
「ヤバッ」
「破!!」
掌底が腹へ放たれる。衝撃が腹を中心に全身へと広がっていく。口から何かが出そうになる。全身が痺れる。そのまま膝をつきそうになる。だがアリスがそれらを認識する前に次の技が放たれた。
「破!!!」
今度は正拳突きが放たれた。さきほどの掌底でほとんど動けなくなっていたアリスは回避などできずにそれを食らった。
口から小さな悲鳴が漏れながら吹っ飛ばされる。アリスは木に衝突した。その衝撃で木が揺れ葉が落ちてくる。
アリスは辛うじて腹部を強化していたが、それでもこの威力であった。
「少し待つから、早く立て。まだ物足りない」
(無茶言うなよ……)
アリスはハルの言葉に心の中でそう反論した。
(だけど……こういう展開は悪くない……)
だがそれでもアリスは折れてはいなかった。
アリスは木に背中を預けながらゆっくりと立ち上がる。
「攻撃は当たらないし、攻撃を食らえばアウトか……」
そのとき頭に浮かんだのはアリスとなったとき自身が決めたこと。
どう生きるか?
「面白おかしく生きる」である。
ならばここで諦めるのは違う。
ここで倒れるのは違う。
格上との対決というこの場面、このシチュエーション。
絶対に逃すことはできない、絶好の面白シチュエーションである。
「やってやるよ!」
アリスはそう叫び、痺れる体を無理やり立ち上がらせた。
その様子を見たハルは、フードで隠されて表情は見えないが、喜んでいるような雰囲気だった。
「準備は良いか?」
「大丈夫だよ。いつでも来て良いよ」
「ヒヒッ、では行くぞ!」
第2ラウンドが始まった。
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