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獣に到る病  作者: 髪槍夜昼
三章 人の獣
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第五十四夜


コツコツ、と靴音を立てながらルキウスは歩いていた。


アーテル達と別れ、一人で目的地へ向けて歩く。


「………」


二人に対して教えたケテル大火の真相。


ネフィリム計画。マルスの脱走から始まった悲劇。


ルキウスが語った言葉に嘘は無い。


だが、


「………」


一つだけ、二人には語っていないことがあった。


貧民街が焼け落ちた後で、ルキウス自身が感じた疑問。


それは、ルキウスが受けた命令だ。


貧民街が黒血で汚染され、聖都を護る為に焼き払う。


その命令自体は納得が出来た。


しかし、何故…


(何故、貧民街は汚染されたのか)


脱走したマルスの仕業だと最初は説明されたが、それはおかしいのだ。


マルスにどれだけ素質があろうと、当時は単なる一匹の人狼に過ぎない。


数人の人間を汚染することは可能かもしれないが、貧民街全てを汚染するなど不可能だ。


白日教会が判断を誤った、と言う訳でも無い。


マルス自身がその眼で、汚染された貧民街を目撃している。


では、一体どうしてか。


「…起きろ。面会だ」


特殊監獄の独房前で、ルキウスは告げた。


暗い闇の中、骨と皮だけの囚人が顔を上げる。


「…アルデバラン」


「ヒヒッ、ヒヒヒヒ! 誰かと思えば!」


気が触れたように笑う男の名は、アルデバラン。


ネフィリム計画の主導者にして、白騎士マルスを生み出した張本人。


「………」


この男は、罪を犯す前から有名な人物だった。


『狂信のバラン』と呼ばれ、その神に対する信仰心と秘跡に対する熱意は誰の目にも異常に見えた。


元々は聖人になる為に修道院で修行を続けていたが、後に貧民街に新設された『孤児院』の院長となる。


すると、その狂的な本性を表し始め、集めた孤児達を使って人体実験を繰り返すようになった。


『聖人を自分の手で作り出す』と言う欲望の為、多くの命を犠牲にした冒涜者だ。


「今日こそ答えて貰うぞ、アルデバラン」


「はて? はて? この私に答えることなど何も? 我が偉業と我が所業は! 余すことなく! 既に語ったと思いますが?」


「違う。お前が孤児達に行った悪行の話では無い」


ルキウスは険しい表情で告げる。


「ネフィリム計画の『首謀者』についてだ」


確信を以て、ルキウスはアルデバランの顔を睨みつけた。


何故貧民街が黒血で汚染されたのか。


それを行ったのがマルスでは無いとすれば、残るのは聖都の人間だ。


だが、マルスの暴走でアルデバラン以外の研究者は死んでいる。


他にいる筈なのだ。アルデバラン達以外にネフィリム計画に関わった人間が。


そして、その者は隠蔽の為に貧民街を汚染した。


「あの事件の黒幕は誰だ! 一体誰がお前にネフィリム計画を行わせた!」


鉄格子を掴むルキウスの手に力が入る。


ルキウスの推測が真実だとすれば、あのケテル大火は仕組まれたことだったと言うことだ。


何者かの悪行を隠蔽する為に、ルキウスは利用されたと言うことだ。


ルキウスが焼き払った貧民街の者達は、そんなことの為に殺されたのか。


「ヒヒヒヒッ! 全く、全く! 何を言っているのか分からないなぁ! 一体どうしたと言うのです?」


「お前…!」


「ネフィリム計画こそ我が願い! 我が理想! それが全て! 全ては我が脳が生み出したことです!」


狂的に笑いながら、アルデバランは叫ぶ。


全ては自分が考えて、自分だけで行ったことだと。


彼に指示を出した黒幕など存在しないと。


「…やはり、上の連中か?」


ぽつり、とルキウスは独り言を呟く。


「お前に孤児院を与え、実験の準備を整えた教会の上層部が怪しいな」


と言うより、そうとしか考えられなかった。


ルキウスに貧民街の『浄化』を命じたのも上層部の人間だ。


白日教会の上層部。


「枢機院、か」








「あー美味しい! うふふふ」


同じ頃、聖都にある喫茶店にて、一人の女がケーキを食べていた。


誰もが認めるような美女だが、どこか作り物染みた美貌を持つ女だ。


二十歳くらいに見えるが、年齢の割にやや幼く感じる童話に出てくるようなドレスを身に纏っている。


無邪気な笑みを浮かべながらケーキを食べる様子は、正に子供そのもの。


「コレも美味しい! コレもコレもー!」


テーブル中に並べられた様々な種類のケーキを少しずつ食べながら笑う女。


どうやら、その喫茶店のメニューを全て並べているようだった。


周りの者達に奇異の目を向けられているが、それを気にも留めずに大声で笑っている。


我儘な子供がそのまま大きくなったような印象を受ける人物だった。


「…フランキスカ。それ以上喚くな」


対面に座っていた男が、静かに呟いた。


「あ、グレゴリウスも食べたいのー? どれが良い? あーん、ってしてあげるよー?」


「要らん。そんな物、見ているだけで胸焼けする」


そう言って男、グレゴリウスはテーブルの端に置いてあった紅茶を口に含む。


そして露骨に顔を顰めた。


「…マズイな。これなら私が淹れた方がマシだ」


「んー? グレゴリウスって紅茶淹れることが出来るの? だった今度私に…」


「フランキスカ。早く本題を話してくれ」


「はーい。だけど、私のことはフランって呼んでっていつも言っているでしょー?」


言いながらフランキスカと呼ばれた女は席に座り直す。


「取り敢えず、準備は殆ど整ったわ。数日以内には実行に移せる筈よー」


「それだけ聞ければ十分だ。じゃあな」


「え? ちょっとちょっと!? この後はー?」


用件は終わったとばかりに帰ろうとするグレゴリウスに、慌ててフランキスカは叫ぶ。


それに鬱陶しそうにグレゴリウスは振り返った。


「『大司教アークビショップ』である俺と『枢機院』筆頭のお前。計画の実行前に共に居る所を見られるとマズイだろうが」


「なーるほど! 許されざる恋ってやつね! 禁断の恋ほど燃えるのよー! 計画さえ成功すれば、私達は一緒になれるのよね?」


「…ああ、もうそれでいい」


呆れたように言いながら、グレゴリウスは去っていった。

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