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獣に到る病  作者: 髪槍夜昼
二章 白の獣
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第三十夜


背中を斬られたクリスの血は、辺りに飛び散る。


大地にも、木の葉にも、


縛られていた子供の頬にも。


「ぎ…あああああああああああ!」


絶叫が響き渡る。


顔が苦痛に歪み、喉が裂ける程に叫び声を上げる。


悲鳴を上げたその人物は、クリスでは無かった。


「…やっぱり、そう言うことね」


背中の傷に顔を歪めながら、クリスは呟く。


その視線の先には、絶叫する子供の姿があった。


「な、何故じゃ…」


血が付着した頬に火傷を負った子供は、しわがれた声で言う。


「何故、分かった…!」


「…思い出したのよ」


クリスは静かに告げる。


「あなたはこの場所に誘い込んだと言った。町に居た時から私達に気付いていたけど、わざと逃げてここを戦う場所に選んだ」


馬車に乗る所まで見せつけ、クリス達に後を追わせた。


全てこの場所に誘き寄せる為に。


「あなたの能力が本当に自身を影化する能力なら、わざわざこんな場所を選ぶ必要なんてない。町中で私達を見つけた瞬間に襲い掛かれば良かった」


それなのに、サートゥルヌスはそうしなかった。


人目を避けるように、林の中を選んだ。


「わざわざ『人質』を用意してまで、ここで戦うことに拘った」


サートゥルヌスの言葉には嘘が混じっている。


当然だ。敵に自身の秘密を全て話す者は居ない。


自身の能力を誇示するように語ったのは、不都合な真実を隠す為。


「影、でしょ?」


「ぐッ…!」


クリスの指摘に、サートゥルヌスは歯噛みした。


幼い顔立ちが憤怒に歪み、深い皺が刻まれる。


「あの巨大な怪物は、あなたの影。私達はただ、あなたの影と戦っていただけ」


目の前で変身して見せたのも全て演技。


あの商人風の老人も、巨大な怪物も、影絵に過ぎない。


それをどれだけ攻撃した所で、殺せる筈も無い。


「じゃあ、町中で攻撃してこなかったのは?」


「どんなに変化しても影は影だから、きっと『本体』からあまり離れることが出来ないのよ」


もし、町中で戦っていればパニックになり、その場から逃げれない本体が目立ってしまう。


クリス達が逃げ出した場合も同様。


それを追い掛けるには、本体を連れていく必要がある。


「…あなたの能力は、物質を影に変えることじゃない」


クリスは銃口を突き付けながら告げる。


「その逆。自身の影を物質に変えることよ」


「ッ…」


木に縛られた子供。


否、子供に偽装したサートゥルヌスは屈辱に顔を歪めた。


どんな攻撃も無力化し、一方的に敵を攻撃できる能力。


蓋を開けてみれば、それは本体を隠して分身に戦わせているだけだった。


「チェックメイトよ。サートゥルヌス」


「この、餓鬼が…!」


ブチッ、と言う音と共にサートゥルヌスは自身を縛っていた縄を引き千切った。


偽装が解け、段々とその体が老人の物へと変わっていく。


「ファイア!」


「遅いわ、戯け!」


クリスが引き金を引くよりも先に、サートゥルヌスはその場から飛び退いた。


見た目はもう小柄な老人だが、その身体能力は人間離れしていた。


「逃げる気か!」


「影よ…!」


咄嗟に糸を展開しようとしたアーテルの邪魔をするように、影の怪物が再び起き上がる。


その隙にサートゥルヌスは二人から離れていく。


本体を見破られた以上、サートゥルヌスに戦う意思はない。


慎重にして老獪。


絶対に勝てる条件でしか戦わないその用意周到さが、今までサートゥルヌスを生かして来た戦法だった。


一手以上距離が離れてしまうと分身は消えてしまうが、その頃にはサートゥルヌスは完全に逃げることが出来るだろう。


結局のところ、勝敗関係なく、生き残ることが全てなのだ。


「…?」


ほくそ笑むサートゥルヌスは、背後を気にするあまり前方の存在に気付かなかった。


サートゥルヌスの逃げる先に居た、一つの影。


「……………な、に?」


その存在に気付き、サートゥルヌスの思考が止まる。


それは、白い少年だった。


年齢は十四、五歳に見える。


ダボダボとした白いパジャマのような物を纏った小柄な少年。


靴は履かず、裸足であり、ペタペタと音を立てて歩いている。


髪は老人のように真っ白だが、肌には赤子のようにシワ一つない。


瞼を閉じられ、口元には無邪気な微笑を浮かべている。


「貴様、は…!」


『白』と言うと神聖や清浄などポジティブなイメージを持つが、この少年の場合はあらゆる生命の色が感じられない、死の純白だ。


「『音』がするな。一つ、二つ。ああ、二人か。一人は男。二十代後半と言った所か。もう一人は女。こっちは、まだ二十歳にもなっていないな」


ブツブツと呟く白い少年。


瞼は閉じられたままだが、外の状況は理解しているのかアーテルとクリスの存在を把握しているようだ。


「何だ…?」


アーテルは訝し気に呟く。


見た目は奇妙な容姿をした少年だが、それを見るサートゥルヌスの様子がおかしい。


逃げることすら忘れて、ただ呆然と少年を見ている。


「アーテル、気を付けて…! あの男も、メガセリオンよ!」


「何?」


次から次へと、一体何がどうなっているのか。


だとすれば、あの少年はサートゥルヌスの仲間。


サートゥルヌスのピンチに気付いて助けに来たのだろうか。


それにしては、サートゥルヌスの反応が妙だと思うが。


「『白騎士』か…! 何故こんな所に…? マルクトでマスター殿を護っている筈では…」


「………」


「…まあいいわ。丁度いい! 奴らを殺せ、白騎士!」


サートゥルヌスは何の反応も無い少年に対し、大声で叫ぶ。


「早くやれ! 儂の声が聞こえんのか! 奴らはマスター殿に仇なす…」


「…雑音ノイズ


「教会、の………?」


パツン、と妙に軽い音が響いた。


白い少年が億劫そうに人差し指をサートゥルヌスへ向けた瞬間、その体の八割が弾け飛んだのだ。


「な…え…?…あ、ぎゃあああああああああ!」


それを理解すると同時にサートゥルヌスの口から絶叫が漏れる。


半分以下になった肉体が地に落ち、血溜まりの中に沈んだ。


(今、何をした…?)


アーテルは思わず目を疑う。


何をしたのか、全く分からなかった。


気が付いた時にはサートゥルヌスの身体が弾け、バラバラになっていた。


「水を差すなよ、老害。愉しい時間が台無しだろうが」


「き、貴様…! この儂を、殺す気か…! 貴様が生まれるより前から! 人狼となっていたこの儂を…!」


「年功序列なんて古いんだよ、クソジジイ。今は人も獣も、実力主義なんだって話!」


言いながら白い少年は血溜まりに浮かぶサートゥルヌスの心臓に足を向ける。


「や、やめろ…! 儂はまだ死にたく…!」


「バイバイ」


ぐしゃり、と白い少年は躊躇いなく心臓を踏み潰した。


「あ、あああああああああああァァァァ!」


断末魔を上げ、一度痙攣するとサートゥルヌスの頭部は完全に動かなくなった。


「んんー。しわがれたジジイの声だが、断末魔は意外と悪くなかったなァ」


耳に手を当て、その音をよく聞いてから白い少年は薄っすらと笑みを浮かべる。


それは無邪気と邪気が入り混じったような、歪んだ笑みだった。


「さて、本命はお前達だ」


少年の顔がアーテルとクリスに向けられ、閉じられていた瞼が開く。


現れたのは、白く濁った瞳。


瞳孔が無く、何の光も宿していない眼だった。


「俺は四騎士…」


「四、騎士…!」


それはメガセリオンの上位個体。


メガセリオンの中でも特に危険だと言われる存在。


獣を統べる四体の騎士。


「対応する色は白。役割は侵略。白騎士『マルス』だ」

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