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追憶令嬢の徒然日記 小話  作者: 夕鈴


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レティと信仰心

セリア視点

最近魔力第一主義の貴族が減ってきた。

私は神殿の特別室に飾っている幼いレティの肖像画を見ながら昔のことを思い出した。


レティの無属性がわかった頃・・。

ルーン公爵令嬢の魔力が無属性という噂が出回っていた。神殿に寄付金を納めに行くと、レティとリオ様を見つけた。


二人が神殿で一緒なのは見慣れた光景だった。一部では頼りのないルーン令嬢の面倒を従兄が押し付けられているという噂も流れていた。

ただレティのお祈りも所作も綺麗だから文句を言うのは、やっかみを持つ貴族と噂に踊らされる貴族だけだった。

作法が身についていない貴族ほど、レティにひどい言葉を投げかけていた。レティは微笑みながら受け流していた。リオ様がいる時は、リオ様が言い返しているけど…。レティの様子を見ると、リオ様と一緒に神殿を訪ねたくないようにみえたけど。


リオ様が無理矢理付き添っているのに酷い言いがかりよね。目が節穴の貴族が多くて嫌になる。リオ様はレティのやっかみが増えるよりも側にいることを選んだみたい。リオ様のファンにも目をつけられてレティは可哀相に。

魔力がないことが広まったため、レティは好奇の目に曝されていた。本人は気にすることなく毅然とした態度で歩いている。無属性でもかわらず、凛とした姿に神官達には笑みを浮かべて感謝をつげていた。どんなときも前を向くレティに神官達のファンが急増した。無属性や魔力が少ないことの不満を神官達に当たり散らす貴族もいるから、レティの様子は評価されていた。

無属性の噂が広まり半月もたっていないこの状況でレティを神殿に送るルーン公爵家の厳しさに、私はしがない伯爵家の生まれであることを感謝した。気にしなくても煩わしい行動は避けたいもの。


レティの手をリオ様が引いている。

近づく私にリオ様が試すような視線を向けた。リオ様は無視して、レティに声をかけることにした。


「お祈り終わった?」


レティは私に声をかけられて戸惑いながらも頷いた。この好奇な視線に私が巻き込まれるのは嫌なのかな。気にしないのに。


「はい。」

「うちに遊びに来る?」


レティが私の言葉にきょとんとした。


「シア、ルーンの屋敷で遊ばないか?」


レティが首を横に振った


「このあと、お勉強が」

「説得してやる。セリア、来るか?」


私はリオ様の誘いに乗ることにした。レティとゆっくり話がしたかった。あの子の性格を考えるなら早めに話をしたほうがいいから。

ルーン公爵邸につき、馬車から降りると、エドワード様がレティに抱きついた。相変わらずレティしか見えていない。


「姉様、お帰りなさい」

「エディ、ただいま帰りました。ご挨拶は?」


頭を撫でてレティがエドワード様を引き離すと彼は私に試すような視線を向けて来た。

警戒されてるのか。レティは後ろにいるからエドワード様の顔は見えない。


「レティ、いらないわ」

「セリアが言うなら。エディ、今日のお勉強は?」

「終わりました。姉様の帰りを待ってました」

「今度は屋敷の中で待っていてね。」


レティは笑ってエドワード様の頭を撫でて、手を繋いで移動した。今は屋敷がピリピリしていて、エドワード様がレティから離れないのか。ルーン公爵夫人が寝込んでいるから寂しいみたいと苦笑するレティにその理由は絶対に違うとわかっていたけど口にすることはやめた。レティはルーン公爵夫妻と折り合いが悪いから。

庭園のサロンに座るとお茶が用意された。


「姉様、」


エドワード様がレティから離れたくないとスカートの裾を引っ張っている。


「シア、内輪だから、いいよ。」

「レティ、気にしないで」


私達の様子を見てレティが膝の上にエドワード様を抱き上げ気まずそうに笑って目を閉じた。リオ様とエドワード様にも静かに見られる。エドワード様は自分の顔を見せたくないから、レティの膝に座ったのね。目を閉じて決意を固めているレティが余計なことを言う前に本題に入ることにした。


「魔力なんて気にしてないわ。あれば便利だけど、それにレティには無い方がいいかもしれないわ」

「え?」


目を大きく開けて私を見たレティがエドワード様の耳を塞いだ。エドワード様はレティの様子を気にせず私を見つめている。手を振り解かないあたりはさすがよね。


「気は使ってない。魔力がなければレティの苦手な殿下も諦めるでしょ?私にとってレティはレティよ」

「セリア」

「友達をやめる気も離れる気もない。私は変わり者のシオン伯爵令嬢だもの」


私の言葉に嬉しそうにするレティとは反対にリオ様は残念そうな顔をした。リオ様が私を時々邪魔に思ってるのは知ってる。私も同じだけど。


「シア、言っただろうが。セリアはすでに変わり者として有名だ。変わった友人がいても何も思われないよ。むしろセリアの友人のシアへの悪評が心配だよ」

「私はリオ様の親戚というほうが問題だと思います」


レティがエドワード様の耳から手を離した。


「エディ、ごめんね、」

「僕は姉様と一緒にいられればいいんです」


レティがエドワード様の頭を撫でている。エドワード様はレティの前だと無邪気な子供。リオ様と二人だと雰囲気が代わる。


「リオ、僕が姉様といるので、来なくていいです」

「エドワード、俺がシアといるよ。お前、最近べったりすぎないか?」

「エディ、リオ兄様に抱っこしてもらう?」


レティが見当違いなことを言い出した。エドワード様は首を横に振っていた。レティ、エドワード様はレティ以外の膝には乗らないと思うわ。レティに魔力がなければ良いこともある。リオ様はレティの無属性を喜んでいる一人だと思う。


「そういえば、レティ落ち着いた?」


「少しは・・。最近はお返事しやすい内容ばかりです。皆様、お暇なようで羨ましいです。せっかくなので、古語でお返事を書いたらお手紙が減りましたわ」


古語は教養ではない。神官を目指すなら必須だけど、それ以外はほぼ必要とされない。時々、古語で書かれた魔導書が発見されることもあるけど、それは翻訳師が翻訳してくれる。日常生活において全く必要ないものである。


「古語も覚えたの?」

「信仰心が足りないって言われないように頑張りました」


レティがすごいでしょっと笑っているけど間違った方に努力している気がする。


「姉様、今度教えてください」

「エディにはまだ、」

「古語で建国神話を読んでやれば?亅


この感じだとリオ様も覚えているみたい。レティのことを社交デビューしないのは頭が足りないからという令嬢達はレティの手紙を見て、何も思わないのかしら。古語で返事が来たら、私だったら関わらないことを選ぶわ。


「そういえば神官様から頂きましたね。」


シエルが分厚い本を持ってきた。リオ様も驚いている。

これって教典?なんで、そんな貴重な本をもらってるの?


「今度、古語の祝詞を唱えてほしいと頼まれました」

「いつ頼まれた!?」

「一人でお祈りに言った時に」

「シア?」

「一人でお祈りに行きたくなったんです。」


レティがリオ様から視線からそらした。


「どうしてもお祈りしたい事情がありましたの。それに大神官様からのお誘いは断れません」


とんでもない言葉が聞こえた。神官の最高位の大神官は中々お目にかかれない。


「レティ、大神官?」

「公爵令嬢の無属性は珍しく、極秘で呼び出されましたの。もう一度儀式をしないかと誘われましたがお断りしました。代わりに、儀式に参加してほしいと。貴族向けではなく、神官達が集まるものです」

「いつ?」

「来週?」


首を傾げるレティよりもリオ様が動揺している。エドワード様が綺麗な笑顔を向けた。


「来週です。僕も一緒に行きます。」

「ルーン公爵家としてのお役目です。エディが見てるから頑張らないといけませんね。」


微笑ましいルーン姉弟の様子をリオ様が面白くなさそうに見ていた。

「一人じゃないならいいかと」リオ様が零したけど、姉弟の世界に入り込んでる二人には聞こえていない。


神官たちの儀式に公爵令嬢が参加するなど前代未聞だと思う。

ルーン公爵はレティの願いで許可を出したらしい。神官達に無粋なことをされないようにエドワード様も一緒という条件で。この頃のレティは魔力がなくても、信心深い令嬢として名を残すために努力していた。

レティの行いにより、魔力がない者を信仰心が足りないと言う神官はいなくなった。8歳で古語の長い祝詞を暗唱できる令嬢はレティだけだと思う。私は覚える気がおきない。

信心深い信者には教典が与えられると言われていた。今のところ教典を手にしたのはレティシア・ルーンだけである。

レティは無属性と知ってから神殿通いを増やしていた。思い返せばこの頃にはターナー伯爵家で修行が決まっていたので、レティなりに信仰心をアピールするのに必死だったのかと思う。


私は神殿長が来ないので届け物を机に置いて帰ることにした。

約束の時間に現れないことが悪いのよ。

レティは神殿の限られた者しか入れない特別室に自分の肖像画があると知ったらどんな顔をするかしら。

神殿はルーン公爵家と聞けば、目の色を変える。

誰よりも真剣に祈りを捧げていた青い瞳の少女。嫌がらせを受けても、神殿に通い続けた。レティの悪運が強いのは神官達が無事を祈っているせいかもしれない。

無自覚なのに、人の心に住み着くのはレティの得意なこと。レティは自分の行動がどれだけの人を救済したか知らない。魔力がないレティの存在は無属性貴族にとって救いだった。神官達はレティのことを教本にしていた。無属性の認定を受けた貴族にルーン公爵令嬢をモデルにした教本を渡していた。魔力がなくても、立派な公爵令嬢がいた。祈りを捧げ続け、女神に愛された少女の話を。この本を貰ったステラは自分の無属性に感謝を捧げていた。


この教本は私もルーン公爵家も持っている。

この本を読んだレティはルーンの御先祖様の話かしらと見当違いなことを言っていた。全く自分のことを思わないのがレティらしい。私はルーンの歴史書は全部目を通したつもりでしたが・・。先生が教えないなら必要なかったのよねと言う言葉にリオ様が笑っていた。その本はレティが教養を学んだ頃にはなかったけどね・・。


仕事もすんだので、レティに会いに行こうかな。今度はルーンの子供を生むと張り切りすぎて倒れないか心配だから。あの子はルーン公爵家が絡むと無茶をするから・・。


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