表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
追憶令嬢の徒然日記 小話  作者: 夕鈴


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

83/92

エイベルの受難

公爵子息の記録3の後のお話

俺はビアード公爵を引き継いだ。



誰もいない執務室で首に剣を突きつけられていた。

部屋には、いつの間にか結界がはってある。うちも結界が貼ってあるのに、壊すことなく侵入し気配もなく剣をつきつけるやつをを俺は一人しか知らない。


「なんのようだ?」


こいつがわざわざ俺に会いにくるのはレティシアのことだろう。

空気が冷たい。


「リオ・マール、いまの状況をあいつが知ればわめくけどいいのか?ここでやり合うつもりはないんだろう」

「どこまで調べてある?」

「なにについてだ?」

「お前の息子がシアのことを調べ回ってる。シアはお前の息子だから信用してるけど、俺はそこまで甘くない」


俺はマールの静かに怒っている理由に見当がついた。エラムがやらかしたか。

レティシアが帰国していることを知ってるのは一部の人間だけだ。

レティシアの存在を知ってる子供には親が言い聞かせている。あいつに会うことが許されてるのはエドワードとマールが許した人間だけだ。

エラムはレティシアがルーンの人間と気付いた。それ以上は調べることは禁じたが、数年前の話だ。

情勢が落ち着いても、レティシアが身を隠しているのはリアム達のためだろう。

昔、女神を召還したレティシアの子供と知られれば、狙われる。城の研究者たちはレティシアの行方を捜して解剖したいと言っていた。過去に女神を召還した人間などいなかった。噂は落ち着いても欲深い者の考えることはわからない。


「さっさと始末したいけど、シアに止められている。」


マールが俺から剣を引いた。


「お前の息子を甘くみていたよ。子供だからって監視しなかったのは俺の手落ちだ」

「なにが逆鱗に触れた?」

「お前の息子がシアを脅して利用しようとしたこと。」

「エラムが!?」

「ああ。俺が一番嫌いなことだ」


あのバカ。レティシアが止めなければ殺されてただろう。マールなら事故に見せかけてエラムを殺すのは簡単だ。

レティシアを個人として脅すということはレティシアのなにか秘密を知った。そしてマールがここまで来るのは知られてはまずいこと。

そういえば、あいつが一時期冒険者を調べていたよな。冒険者の魔導士を熱心に調べてると報告を受けた。まさか・・・・。


「しかもわざわざ人を使ってシアのことを調べたとは。恐れいったよ。シアに会わせたやつの中で、調べたのは彼だけだ。俺は自分の甘さに眩暈がしたよ」


最悪だ。エラム自身で調べたなら、まだマシだった。家の力を使ったか。

こんな夜遅くに来たということは嫌な予感しかしない。サイラスかレティシアを呼びたい。


「口封じか」


マールの笑顔に寒気がする。たぶんエラムが使った家臣は殺される。シオン嬢もマールにつくな。

彼女はレティシアの親友だ。

息子の軽率な行動で家臣を死なせるわけにはいかない。


「お前の考えてることをすればレティシアが悲しむけどいいのか?あいつは普段は鈍いけど時々物凄く鋭い。子供の間違いに巻き込まれた家臣が処罰されれば、責めるだろ?」


レティシアは甘い。罪人の命さえ救おうとするくらいのバカだ。ただ今はその甘さがありがたい。マールを動かせるのは今も昔もレティシアだけだろう。


「俺もシアとの付き合いは長いから、うまくやるよ」


レティシアは昔からマールを振り回していた。


「あのバカは自分のためにお前が手を汚して、負い目を感じてることに気付けば何よりも傷つくだろうな。お前が負い目を感じなくても、勝手に勘違いするだろ?レティシアにとって誰よりも優しいリオ兄様が人の命を石ころ程度にしか思っていないことは理解できない。あいつは思い込んだら止まらない。お前があいつのために動いたことで責めることはないだろう。ただ一人で隠れて泣くかもな。昔からあいつは泣くときは隠れて泣くだろ?」


マールの目に迷いが出たな。マールはレティシアに弱い。サイラスの話だとレティシアは俺に見せる顔とマールに見せる顔は違うらしい。


「うちの家臣は愚かではない。よそに情報を漏らさないように躾てある」

「もしその情報が洩れれば、俺はビアード公爵家を潰すよ。シアが泣いても。」

「できるのか?」

「ああ。たぶんシアはことをおさめるために自分の首を躊躇いなく差し出す。誰が止めても聞かない。そんなことは絶対に許さない」


たぶんレティシアは魔力を持ってる。それを隠していたんだろう。理由はわからない。ただ何よりもルーン公爵家が大事なあいつが隠すなら相当の理由があるんだろう。エラムが調べた魔導士はレティシアのことなんだろう。レティシアが他に首を差し出してことをおさめることなんて思いつかない。公爵令嬢が魔力を隠していたのは前代未聞だろう。


「俺は疑いだけでも手をくだす。今回だけはシアに免じて見逃す。ただ次はない。息子をしっかり躾けろ。迷惑だ。お前が望むなら俺が直々に貴族の怖さを教えてもいいけど」

「きちんと言い聞かせる。悪かった」


この後もエラムへの苦情が続いた。

言い聞かすことを約束するとマールは窓から去っていった。うちを吹き飛ばされなくてよかった。

エラムには危機感はないんだろうか。マールの逆鱗に触れる怖さを知らないことが羨ましい。

近々エラムを呼び戻すか。手紙には詳しいことは書けない。誰かに見られれば大問題だから。

あとでサイラスにマールの機嫌をとってもらえるように頼んでおこう。


エラム、レティシアを脅すなんてやめろよ。レティシアも本気になったら怖いんだよ。あいつは普段は抜けてるけど、やるときはやる。本気になったレティシアに話術で勝てる相手を俺は知らない。

それにあいつは、伝手をつくると決めて逃した家はない。

マールとレティシアが本気になれば、うちなんてすぐに取りつぶされる。ルーン公爵家の間者はどこに潜んでいるかわからない。しかもレティシアは家臣の懐柔もうまいから寝返る人間も出て来るだろう。

まずレティシアが動くと決めた時点で、手を貸す家の勢力がまずい。あいつ、本気になれば傾国できるんじゃないか・・。殿下も俺とレティシアならあいつをとる気がする。

俺はエラムにどう言い聞かせるか頭を抱えた。

マールの侵入を許した結界もなんとかしないとだよな。

レティシア、頼むからマールの手綱を握ってくれ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ