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追憶令嬢の徒然日記 小話  作者: 夕鈴


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ハンナのネタ集め

私はレティシア様に会いに来ています。

しがない小説家の私にはレティシア様の話はネタの宝庫です。


「レティシア様、聞かせてください」

次回作は冒険のお話を書きたいので、一人で旅していた頃のお話をお願いしました。猫のディーネ様も一緒なので二人の旅かしら?他国では動物も戦えるなんて凄いですね。

レティシア様の話に耳を傾けます。


「冒険、私が一番恐ろしいモンスターに会ったのは・・。


森の国のお話ですね。

森の国には大きいギルドがありました。私は大きいギルドに立ち寄る気はないので通り過ぎるつもりでした。

森の国の市で非常食を買い足し、林の国に行くため、森を抜けようとしていました。


なんと森を歩いていると、木が追いかけて来たんです。ディーネと慌てて逃げました。

なんとか走り抜けて木から逃げ切りました。一息ついていると蛇がいたんです。慌てて弓矢を放ったら、その蛇は分裂したんです。


「ディーネ、なんで!?」

ディーネが攻撃してもどんどん増えていきました。結界に閉じ込めようにも効きませんでした。

蛇は怖いし、攻撃するとどんどん増えていって、お行儀悪く大きい声をあげてしまいました。


「なんですか、もうこの森嫌です!!。」


「悲鳴が聞こえないか?」

「おい、あそこ」


私は昔、冒険者に追いかけられたので顔を合わせないようにしていましたがその時はそんな余裕はありませんでした。周りの声など気にせず必死に蛇を攻撃していました。


「大丈夫かい?」

「蛇が、蛇が」

「増やしたな。あれは火で退治するか、一瞬で消すしかないんだよ」


屈強な冒険者が蛇を爆発させると霧散しました。力が抜けて、その場に座り込みました。


「嬢ちゃん、迷ったか?」

「森を抜けて、林の国を目指そうかと思ったんです」

「この森のことを知らないのか?」

「え?」

「森の国の森は迷いの森だ。知識なく入り込むと命を落とす。ギルドに案内してやるよ」


私はギルドに行く気はなかったんですが、冒険者に強引に連れていかれました。

目の前に食事を出されたので、ありがたく頂戴することにしました。森の国のギルドは実力が全てで身分証明もいらないと聞き、滞在を決めました。ただ森の国のモンスターには私の使える魔石の水の魔法が効きません。私は森を抜けられる実力をつけないとこの国から出られないことを知りました。

大街道は身分証明が必要だったので、私には通れなかったのです。

ギルドの本を借りて、モンスターの勉強をする日がはじまりました。見たことのないモンスターばかりでした。


「ルリ、また勉強してるの?」

「うん。モンスターを倒せるようになりたい。ただ固くて重くて水もきかないからお手上げ」

「力はないもんな。パーティ、組めば?」

「足手まといだもの。それに自分の力でなんとかしたい」

「じゃあ、急所を見極める目を持つしかないな。どのモンスターにも急所がある」


私はその教えを聞いてから、弱いモンスター相手に急所を見極める訓練をはじめました。

ディーネと二人だけで訓練しているのに困ると冒険者の方が偶然現れて助けてくれたのが不思議でした。森のギルドは中々居心地が良かったです。ギルドの皆様は親切ですし、冒険者の情報を本人の希望がなければ周知されません。ただ森の国のギルドは貴族と関わりが濃かったんです。時々貴族からの依頼がありました。

私はギルドにお世話になっていたので、単独任務ならギルド長の依頼を受けることにしてました。


「ルリ、変装して護衛任務頼めるか?適任者がいないんだが」

「女装ですか?」

「ああ」


私はその頃男装をしていました。ギルドには女性はいませんでした。女装ができそうな冒険者もいませんでした。私は仕方なくカツラを被って社交界デビューを控える伯爵令嬢の護衛の依頼を受けました。侍女の姿かと思えば、ドレスを渡されて困惑しました。

森の国は社交界デビューに平民の参加も許されるそうです。私は伯爵令嬢の友人として女装して参加することになりました。単なる護衛かと思って楽な仕事かと油断していたら甘かったんです。

社交界デビューの日、伯爵令嬢は部屋に籠ってしまったんです。


「嫌。行かない」


周りの侍女が困っています。時間もなかったので、説得することにしました。

社交界デビューの伯爵令嬢の護衛は令嬢が部屋に閉じこもっていたら達成できませんので。ギルドとしても任務の失敗は避けたかったんです。


「お嬢様、社交界デビューを休むとそのあと大変ですよ。周りの貴族に出来損ないと言われますよ。余計に悪目立ちしますよ。挨拶して踊るだけです。目立ちたくないなら、終わらせてしまったほうが楽です。会場に遅れて入る方が余計に目立ちます」

「目立つの嫌」

「なら行きましょう。きっとおいしい食事もあります。どうにも困る相手がいれば私がお相手してあげます」

「護衛が?」

「はい。私も人並みの社交の経験はありますのでお任せください。胸を張って、誇りある伯爵令嬢として望むだけです。簡単ですよ。」


どこの国の貴族も社交は変わりません。伯爵令嬢なら人目も集めず、気楽な者ですと失礼なことを考えていたのは内緒です。

私は伯爵令嬢の横で静かに社交をこなしました。お友達のルリとして。ダンスに誘われると自分の代わりに伯爵令嬢をすすめました。ここの国でも殿方は積極的でした。伯爵令嬢の社交界デビューも無事に終わり私の任務は終わりました。護衛の必要性がわかりませんでしたが私はなぜか伯爵夫妻に感謝されたので、戸惑いを隠して礼をして立ち去りました。ゆっくりしていってという言葉は丁重にお断りしました。ただ伯爵家からよく護衛依頼がきました。会うたびにご令嬢の家庭教師として雇われないかとお誘いを頂きましたが、毎回お断りしました。今思うと、護衛なんてしてませんでした。ご令嬢をお茶会や夜会に連れ出し、社交をこなしてばかりいました。伯爵は子供の冒険者に同情したんですかね。報酬は良かったんです。ただ縁談を勧められたので、それ以来は依頼を受けるのはやめたんです。私は結婚する気なんてありませんでした。ギルド長に相談したら取り計らってくれました。


時々ギルド長に頼まれた依頼をこなして、しばらくすると森の国のモンスターもだんだん倒せるようになってきました。

子供の悲鳴が聞こえたので近づくと人攫いを見つけました。モンスターと違って人なら遠慮はいりません。峰内して人攫いたちを気絶させて、子供達を解放しました。ギルドに連れていこうとするとズボンを引っ張られました。


「友達、助けて」

「他にもいるの?」

「うん。あの先のお屋敷に連れていかれたの」


子供が指さす先には貴族の屋敷がありした。子供達をギルドに届けて屋敷を目指すことにしました。

ディーネが調べに行ってくれました。子供の話は残念ながら嘘ではありませんでした。

忍びこんで、捕らわれのご令嬢を助けてギルドに行きました。


当主はこのご令嬢に執心だったみたいです。考えるものおぞましい変態です。怯える少女を必死に宥めました。話を聞いたギルド長が動いてくれました。

綺麗な顔立ちのご令嬢は侯爵令嬢でした。


「お名前を教えていただけませんか?」

「名乗るほどのものではありません」

「恩人の名も知らぬなど」


勢いに負けて名乗ってしまいました。


「ルリと申します」

「ルリ様!!」


熱い視線で見つめられるのは私は令嬢を助けたからだと思っていました。ご令嬢の家から迎えがきてこの件はこれで終わりと安心しましたら、夜会の招待状がきました。礼服も贈られてきました。

貴族の命には逆らえないので、招待を受けました。私は殿方の作法はわからないので、リオを思い出して頑張りました。侯爵夫妻から感謝の言葉を受け取ったので、上手に流して退散するつもりでしたがうまくいきませんでした。

ご令嬢に誘われてダンスを踊りました。踊れないと言っても私がエスコートするわと言われれば頷くしかありませんでした。令嬢のうっとり見られる視線に嫌な予感がしました。

話しがあるのと腕を引かれて移動しました。人払いされた部屋に連れていかれたんです。


「ルリ様、お慕いしてます。どうか私と」

「申しわけありません。」

「私、貴方のような綺麗な殿方ははじめてよ。私、男は嫌いだけど、貴方だけは違うの」


体に恐怖が走りました。頬に手をあてられ、令嬢を突き飛ばそうにも動けませんでした。命の危険を感じました。

ディーネが魔法で眠らせてくれたので、窓から逃げました。

侯爵令嬢への不敬より、体に走る恐怖がぬぐえませんでした。私はギルド長に一言挨拶をして手紙を残して旅立ちました。夜の森より、恐ろしかったです。思い出すと恐怖が・・。侯爵令嬢が暗殺者なみに強いなんて・・。思い返すと森の国はなんと恐ろしかったんでしょう・・・。

一番恐ろしいのは蛇よりも人かもしれません・・・」


レティシア様のお顔が真っ青になり驚いてしまいました。


「レティシア様!?」

「どうした?シア、顔真っ青」

「ごめんなさい。冒険の話がハンナに恐ろしい話を聞かせてしまいました。男装してなければあんなことにならなかったんでしょうか」


リオ様がレティシア様を抱きしめています。相変わらず仲のよい姿に安心します。


「奇跡だよな。無事で良かったよ。本当に。もう一人で飛び出すなよ」

「森の国の森が一番大変でした。森の国は食事が美味しくても苦労した思い出ばかりです」


レティシア様、残念ながら意味が違います。レティシア様の御身の無事というか貞操のほうです・・。


「私は積極的な女性を知りませんでした。あれから冒険者として貴族関連の依頼は受けないことを決めました」

「俺としては一人で依頼を受けるのやめてほしい。」


リオ様の甘い視線は無視したレティシア様がにっこり微笑みました。


「きっとティアは冒険したいと言うと思いますよ。ハンナ、全然楽しいお話しできないけど、いいんですか?」

「レティシア様のお話はとても楽しいですよ。」

「ハンナが楽しいなら構いませんが。また冒険に行ってお話を集めないといけませんね」

「シア、わざわざいかなくても、まだまだ話してない話があるだろう?」

「ハンナにほとんど話しましたわ」


リオ様の話を聞いてレティシア様の肩が震えました。


「事実無根です。リオの話は盛られてます。なんで、買い物しただけなのに民に施しを授けたことになってるんですか!?」



リオ様が楽しそうに語る言葉にレティシア様が異を唱えます。

レティシア様と一緒に過ごせなかった学生時代の3年間は寂しいです。でも今はこうしていられることに満足しようと思います。ステラがレティシア様のことをよく教えてくれます。

私はレティシア様のお傍にいることを許してくれるリオ様やエドワード様には感謝の気持ちしかありません。

私は罪人を姉に持つ妹です。だから不埒な輩が近づいてくることもあります。

レティシア様に恨みなどありません。でも私は自分の立ち位置を利用して、情報をエドワード様に流します。レティシア様が身分を明かしても、安全に暮らせる世の中になるまではまだまだ先が長そうです。

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