レティシア7歳 マール公爵邸でのとある1日
リオ視点
父上が帰国しているのでシアは父上に会いたくてうちに訪問するらしい。
「レティが会いにくるなら歓迎だよ。土産があるんだ」
「旦那様、王宮から使者が…」
父上は急な呼び出しで王宮に出かける支度をはじめた。
ルーン公爵家の馬車が到着しシアが降りてきた。
王宮に行く父上の格好を見たシアは父上に礼をして微笑んだ。
「頭を上げて。ごめん。レティ、」
「お顔を見れただけでも嬉しいです。行ってらっしゃいませ」
「旦那様、急いでください!!」
シアに顔を緩ませた父上は従者に急かされて名残りおしそうな顔で馬車に乗った。
シアは父上が乗った馬車を笑顔で見送り、馬車が見えなくなると考えこんでいる。
予定のないシアの時間は基調だ。
「時間があるなら、俺の部屋でお茶でもどう?」
手を出すと頷くシアをエスコートして部屋に行く。
シアは父上が帰国するとよく会いにくる。
俺には会いたいなんて全然言わないのに…。
それに俺は父上との時間を楽しめたことがない。
シアはうちの両親が好きだけど、何がそこまで惹き付けるのだろう。
「シアは父上といつも何してるの?」
「お話をしてくださるんです。伯父様のお話はとても楽しいです」
「父上の話が好きなの?」
「はい。伯父様のお話は物語を聞いてるみたいで好きなんです」
楽しそうに笑うシアは可愛らしい。
「読んでやろうか?」
「本当?」
キラキラと目を輝かせるシア。
父上は常にこの視線を向けられているのか…。
「ああ」
「これをお願いします」
シアから渡されたのは歴史書。
兄上はシアによく本を貸しているけど、兄上に借りた本を返そうと持ってきていたのだろうか。
兄上はいないから後で部屋に届けさせるか。
歴史書の読み聞かせは授業ですればいいことだ。
「物語のほうがよくないか?」
「これ、物語ですよ」
シアは自信満々に言ってるけど、歴史書は物語じゃない。
「シア、絵本を見たことある?」
「ええ。絵と解説がたくさんのっててわかりやすいですよね」
それは図鑑じゃないか。
「シア、誰かに物語を読んでもらったことある?」
「先生にたくさん読んでもらってますわ。建国神話に王家や精霊の話に詩集」
それは教養?
教科書みたいなものだよな。
「叔母上から寝る前に読んでもらったことは?」
「お母様は晩餐の後の挨拶をしたらお会いしませんわ」
「昔、探してた幻の花の話は建国神話で知ったの?」
「はい」
シアがいつも年齢にそぐわない本を読んでいたのは知ってたけど盲点だった。
使用人に命じて絵本を何冊かと物語の短編集を持ってこさせる。
シアを膝の上に抱き上げて、絵本を見せると目を大きく開けて驚いている。
「シア、言葉はどこの国がいい?」
「フラン王国語で構いませんわ」
シアの希望通りフラン王国語で絵本を読んでいく。
目をキラキラさせて絵本を眺めているシアは可愛い。
読み終えると、シアが物足りなそうに見つめてくるのでもう一冊読む。
絵本を読み終わったので物語の短編集を開いて、読むと嬉しそうに笑っている。
シアがうとうとしてきた。
興奮してたもんな。
「シア、寝る?」
「眠くない。もっとききたい。だめですか?」
意地っ張りだな。
シアの体を抱き上げてシアの頭を膝にのせてソファに寝かせる。
不満そうなシアの頭を撫でて、続きを読み始めると嬉しそうに笑った。
しばらくするとシアは眠った。
俺の服を掴んで眠るシアに顔がニヤける。
シアが好きだと自覚してからまずいな。
シアが可愛くて仕方ない。
後日、俺は物語の短編集を取り寄せることにした。
シアは自分からはお願いはしないけど、読んでやろうか?と聞くと嬉しそうに抱きついてくる。
シアは俺の膝を枕にして物語を聞くのが気に入ったみたいだ。
物語を2冊読み終わるとシアはぐっすり眠ってしまった。
シアの寝顔を眺めていると俺の膝で眠るシアが目を醒ました。
「起きた?」
シアが困った顔をした。
「また、眠ってしまいました」
「疲れてたんだろ」
「せっかく、リオ兄様が」
「また読んでやるよ」
「本当ですか?」
「ああ。好きなんだろ?」
「はい。大好きです」
「父上よりも?」
「難しいです。伯父様のお話はお勉強になるんです。ただリオのお話は心が暖かくなるんです。お話聞いてると気持ちよくて気づいたら寝ちゃうんです。つまらなくないです。うーん。難しい」
シアが体を起こして抱きついてくる。
シアの背中に腕をまわすとふんわり笑ってみつめてくる。
「リオの側が一番安心できるんです。怖くてもつらくても、リオに抱きつくと力が抜けて、元気がでるんです」
シアの頭を撫でる。
まだ嫌がらせ受けてんのかな。
思い返すと一時期やけに無言で抱きついてくることが多いことがあったよな。
もっと早く気づいてやりたかった。
「違います。伯父様のお話もリオのお話も好きなんです。いつも寝ちゃうのは、えっと」
シアが必死に言い訳してるな。
途中で眠ることに俺が呆れてると思ってんのか。
自分でも何を言ってるかわからなくなってるんだろうな。
「だから、」
「シア、またいつでも読んでやるよ。途中で眠くなるなら、寝ていいよ」
「本当ですか?また寝てしまっても…」
「もちろん。シアが喜ぶならいくらでも読むし、安心して眠れるならそれはそれで構わない。シアは俺といるのが一番安心なんだろ?」
「はい。リオが一番です」
可愛い。
シアを抱きしめて幸せを噛みしめる。
寝起きだからこんなに素直なんだろうな。
寝起きのシアを絶対に他の男には見せたくない。
父上より俺がいいと言われなかったのは複雑だけど仕方がない。
シアの一番が一つでも、もらえたことに満足するか。