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追憶令嬢の徒然日記 小話  作者: 夕鈴


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ある侍女の話

ティアがルーン公爵邸で秘密の特訓をはじめたあたりのお話です。

私はなんとルーン公爵家の侍女試験に受かりました。

ルーン公爵家は給金も待遇がよいので人気です。ただ辞める人がいないので求人が全然出ないんです。

侍女に求める条件は守秘義務を守れる者だそうです。子供のいる私が選ばれた理由はわかりません。ですがこれで子供にお腹いっぱいご飯を食べさせてあげることができます。

子供も一緒に使用人宿舎でお世話になれるのはありがたいです。


最終試験で言われました。

ルーン公爵家のことを外で話せば命はないそうです。屋敷の中のことを話すような無能はいらないと。

お貴族様が私達の命を簡単に奪えることは知っています。きっとそれはどこに行っても変わらないので、了承の言葉を伝えました。子供にもしっかり教えてあります。


私の仕事は侍女のシエルさんが教えてくれます。

ここのお屋敷には旦那様と奥様とエドワード様がいらっしゃいます。

シエルさんは毎朝、お嬢様の部屋を入念に掃除をして整えます。私はお嬢様に会ったことはありません。

シエルさんの指導のもと、私も一人前の侍女として認められた頃、重大な秘密を知っていました。


掃除をして戻ろうとすると、訓練所から聞きなれない声が聞こえました。


「エディ、母様には内緒。」

「心配するからね」

「ティアはリアムよりも強くなるの」

「応援するよ」

「ティアはエディ大好き」


この声はエドワード様です。


「僕もだよ。ティア、そろそろ帰ろうか」

「うん。また迎えに来てね」

「もちろん」



私は慌てて隠れました。エドワード様が抱っこしていたのは、エドワード様にそっくりな女の子でした。

迎えって。隠し子ですか!?外では会えないからこっそりここで逢瀬を重ねてるんですか。だからエドワード様はご結婚されないんでしょうか。私はとんでもない秘密を知ってしまいました。

その後、全然仕事にならずに今日は帰っていいと執事長に言われてしまいました。

ここでは守秘義務があります。絶対に話せません。でも私も子を一人で育てる母親です。エドワード様の親子の逢瀬を見守ることにしましょう。


ある日、屈強な男がローブの女性を連れてきました。


「大事な用だ。ルーン公爵に会わせろ」

「旦那様はお会いになりません」

「彼女を見ても、そう言えるか?」


卑しい笑いの男がローブを脱がせると銀髪が見えました。


「どなたですか?」

「わからないのか。ここのお嬢様だろう?保護したときに記憶を失ったようだが間違いないだろう」


執事長が女性の顔をじっと見ました。


「お嬢様ではありません。お引き取り下さい」

「銀髪に青い瞳だろう」

「お嬢様ではありません。」


扉が開くとエドワード様が帰ってきました。


「エドワード様、お帰りなさいませ」

「エドワード!!」


女性がエドワード様の腕を触ろうとする手を執事長が掴みました。


「会いたかったわ」


エドワード様が冷たい顔で見ています。


「へぇ・・。」

「私よ。レティシアよ」

「捕えて兵に突き出せ。不敬だ。こんな穢れた存在が姉様のはずはない。訴状は任せる。」

「どうして」

「僕は姉様を間違えません。ルーン公爵家に喧嘩を売ったことは地獄で後悔してください。」


二人は兵に捕えられました。


「時々、お嬢様の偽物が現れるんです。ルーンの直系の瞳の色は魔法では出せません。だから一目見れば偽物とわかるんです。知るのはルーン公爵家に仕える者だけです。また同じことがあれば私かシエルを呼びなさい」

「わかりました。」


時々話に出てくるお嬢様。肖像画には綺麗なお嬢様の姿が飾ってあります。お嬢様はお嫁にいかれてしまったそうです。でもいつ帰ってきてもいいように、いつもお部屋を整えてるんですって。

私もいつかお会いすることができるでしょうか・・。


町に買い出しに出ると、顔なじみに声をかけられます。

私がルーン公爵邸に仕えているのは有名なので、話を聞かせてほしいと言われます。でも絶対に話しません。話したらあの二人のように不敬罪で首が飛びます。

買い出しをすませて帰ろうとすると肩を掴まれます。


「おい、お前、その服はルーン公爵邸の侍女だろ?欲しい情報がある」

「話しません」

「金ならやる。困ってるんだろう」

「嫌よ。離して」


殴られても絶対に話さない。私が話せば息子も殺される。うちの子も可愛がってもらってる。それに恩あるルーン公爵家を裏切ることもできません。


ピシャン!!


目の前の男がびしょ濡れになってます。


「女性に乱暴はおやめください」

「お前、何しやがる」


ローブを着た方が私の前に立ちました。


「女性に乱暴は許しません。ルーンの使用人なら尚更です。ルーンは使用人になにかあれば報復しますよ。大事な使用人に手を出され黙っているほど甘くありません。命が惜しければ手を出さないことをお勧めします」


なぜか男が怯えて走り去っていきました。


「どこも痛めてませんか?」


ローブ姿の女性が私の顔を覗きこみました。青い瞳・・。

肩に手を置かれて、体が暖かくなります。


「大丈夫そうでよかったです。」


微笑む顔にお屋敷の肖像画が頭をよぎりました。


「お嬢様」


驚いた顔をして人差し指を口元でシーっとしてまた笑いました。


「内緒ね。気をつけて帰ってください」


「母様、」

「いけない。私はこれで失礼しますわ」


お嬢様は走って去っていきました。


「ごめんね。」

「買った商品を忘れるなよ。またなにか見つけたの?」

「内緒」

「シア?」

「懐かしいものを見つけました。帰りましょう」


お嬢様かもしれない人が駆け寄ったローブの人に見られてます。

私は礼をして帰ることにしました。きっとお嫁に行ったお嬢様とご家族でしょう。でも内緒です。私から声をかけてはいけません。


私は買い物をすませて帰りました。


「執事長、もし使用人が行方不明になったらどうするんですか?」

「調べますよ。相談の上で退職するならまだしも、それ以外ならしっかり対処します」

「対処ですか?」

「ルーン公爵家の情報を流されるわけにはいきません。もし攫われたなら罪人の一族もろとも処罰しますよ。情報をもらせば命はないと教えられたでしょう?」

「よくわかりました」

「エドワード様は使用人を守るのも主の務めと言われているので、正しい行いをしている限りは保護してくださいますよ」



なぜか執事長の話に怖いと思ってしまいました。侍女の洋服を日に照らすと、見たことのない模様が薄く見えます。制服に魔法陣が仕込んであるのは無学な私は知りませんでした。この制服には防御と魔封じ、追跡など恐ろしく高価な制服としるのは先のお話です。

そしてこの制服は今も改良が進められています。ルーン公爵とシオン伯爵の共同研究として発表された時に驚いたのは私だけだったので、みんな知っていたんですね。


おまけ

シエル視点


今日はお勉強はお休みなのでお嬢様はエドワード様の部屋にいます。

エドワード様はお嬢様のお膝の上がお気に入りです。しっかり者のエドワード様もお嬢様の前だけは年相応です。


「エディ、使用人を守るのは私達の務めよ。」

「姉様?」

「姉様はいずれいなくなるわ。その時はエディが守ってね。でも今はエディも皆も姉様が守るからね。使用人の制服の防御力があげられたらいいんだけど・・。ごめんなさい。本を読んであげるね。リオ兄様から借りてきたのよ」


お嬢様がエドワード様に絵本の読み聞かせをはじめました。

お嬢様8歳のエドワード様には絵本はさすがに相応しくありません。エドワード様が嬉しそうだから気付いてないんでしょうか。

エドワード様はお嬢様のされることはすべてが嬉しいようなので。

余計なことを言って、お二人の貴重な時間を壊してはいけませんね。


お嬢様の言葉をエドワード様から聞いた旦那様が、シオン伯爵と協力して使用人の制服の研究に勢を入れるとは思いもしませんでした。

シオン伯爵と旦那様はよく一緒にお酒を楽しまれます。そこに奥様も混ざると物騒な発明品ができあがるんです。

お嬢様はお友達のセリア様の発明品が物騒なことに首を傾げていますが、きっと遺伝です。

穏やかに笑うシオン伯爵は発明をはじめると人がかわります。贔屓はいけませんが、お嬢様が優しく育ってよかったです。奥様も少し感覚がずれてますので・・。

私達がしっかりと見守らないといけません。


「失礼します。お嬢様、いらっしゃいますか」


絵本を読んでいたお嬢様が顔をあげました。

「エディ、待っててね」


お嬢様の視線を受けて、扉を開けるとリオ様がいらっしゃいました。


「リオ、どうしたんですか?」

「休みだから、顔を見にきたんだけど何してんの?」

「エディに絵本を読んでます」


エドワード様がリオ様を睨んでます。


「シア、借した絵本ってエドワードのためなの?」

「はい。エディは絵本が大好きです。リオはお暇なんですか?」

「ああ」

「エディ、リオ兄様に遊んでもらいますか?」


エドワード様が愛らしい笑顔をお嬢様に向けました。


「僕は姉様といたいです」

「続きを読みますね。リオ、読み終わるまで待っててください。エディ、せっかくだからリオに読んでもらいますか?」

「シア、絵本はエドワードには」

「僕は姉様に読んでほしいです。続きが聞きたいです」


ふんわり笑ったお嬢様がエドワード様の頭を撫でて続きを読み始めました。

この後は予想通り、リオ様とエドワード様のお嬢様の取り合いがはじまりました。

二人は仲が良いわと微笑ましく見ているお嬢様の将来が心配です。

私がしっかりしないといけません。

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