王太子の後悔 おまけ2話 クロード編
王太子の後悔 おまけ 1話の続きです。
2話のリオ編とは全く関係ありません。
お父様の言葉に甘えて自室で休んでいます。
色々考えなければいけないこともあるけど、疲れましたわ。
部屋で食事を取り、エドワードやお母様と話して穏やかな日々が過ぎていきます。
お母様が優しいです。醜聞のことを責められると思っていましたがなにも言いません。
ただ「無事でよかった。ゆっくり休みなさい」と微笑まれるお母様と「無理しないでください。家のことは全て僕にお任せください。姉上はゆっくりするのが仕事です」と頼もしいエドワードに甘やかされてます。
お父様も毎日お顔を見にきてくださいます。
ルーン公爵家の面汚しの私に皆優しいです。
お母様の微笑みに自分のしたことの罪悪感が苦しいです。
ちゃんと、謝らないと。
「お母様、ごめんなさい」
「貴方が謝ることはないわ。貴方は私の自慢の娘よ」
「でも、殿下との婚約」
「殿下との婚約は王家に望まれたからよ。貴方が産まれた時から政略に使おうなんて思ったことはなかったわ。ルーン公爵家の令嬢としてふさわしければそれだけでよかったの。」
優しい。教育の鬼のお母様が女神様にみえます。
「お母様」
「私はあなたが苦労しないように厳しくしつけたわ。幼い姿でいつも笑顔で前向きに頑張る貴方を誇りに思っていたわ。私はそんなに社交が得意じゃないからあんまり助けてあげられなかったけど」
「そんなことありません。お母様がいつも王宮に一緒に行ってくれるの心強かったです」
「令嬢達の嫌がらせもひどかったものね。あなたが令嬢を信頼できずに取り巻きはつくれてもお友達はできなかったものね」
知られてました!?。私が令嬢たちと距離をとってたこと。
皆様、欲にくらんだ方々ですもの。
信頼なんてできませんわ。
「お見通しでしたのね」
「お母様は殿方のお友達ばっかりだったの。お茶会よりも剣術のが好きだったしね」
「想像できませんわ」
「隠していたからね。貴方が眠ってる間に色々考えたのよ。殿下の婚約者の名にあがってから8年充分頑張ったわ。貴方が引き受けなくていい執務もたくさん引き受けて。どうしてうちの娘がこんなにって。一生貴方が王家のために馬車馬のように働かされるんじゃないか危惧してたの。私からすればよかったわ。レティには申しわけないけど、今回の婚約破棄はお母様とお父様にとっては嬉しい知らせよ」
「お母様、それは不敬罪ですよ。それに私が望んでやったことですから」
「貴方は優しくて責任感が強いから。全部が王家のためにって幼いころから洗脳みたいに王妃教育受けてたしね。なんど王宮を吹き飛ばそうと思ったか」
「お母様・・?」
「どうして王家の尻拭いをうちの娘がするのよ。入学前には辺境の孤児院の視察に連れまわされ、入学した途端に国内だけでなく他国の視察に行かされて、なんで一番幼い貴方が王家の仕事を引き受けるのよ。なんで隣国の結婚式のお祝いにレティが行く必要あったの?アリア様の仕事よね。船が苦手ってありえないわ。殿下もレティに甘えすぎよ。まだ結婚してないのよ。ルーン公爵令嬢なのよ。王太子妃じゃないのよ。見かねた旦那様が抗議しても陛下は本人の意思を尊重するって。何度、殺気を抱いたか」
「ローゼ、落ち着きなさい。レティが困っているよ」
「お父様?」
いつの間にかお父様が来られお母様の肩を叩いています。笑っているお父様は珍しいですね。
「レティシア、お前の婚約は王家から打診があったんだ。殿下がお前を気に入ってな。断る理由がなかったから受けただけだ。家としての利はない。むしろお前が王宮に人質にとられたようなものだから不利益の方が多い。もう権力は十分にあるしな。宰相としてはお前の働きぶりは評価してたよ。ただルーン公爵としては思うところが多かったからお前の婚約破棄はありがたいよ。やはりかわいい我が子には幸せになってもらいたいからな。」
かわいい我が子?
幸せ?
「お父様?」
「難しいわよね。これから少しづつ違う生き方を覚えていきましょう。殿下のためでなく、レティのために。まずは体力を戻さないとね」
穏やかに微笑むお母様の顔に力が抜ける。二人を見送り、肩掛けを羽織ってバルコニーに出る。
私の婚約破棄を歓迎?
お父様とお母様は私のことを想ってくれたことはわかる。
自分のために生きるってなんだろう。やりたいこと?考えたことなかったな。
「レティ、目覚めたんだね」
なんでここにいますの?
私、じゃまする気はないですわ。違う。慌てて礼をとる。
令嬢の仮面を被らないと。深呼吸する。
「頭をあげて、少しは顔色が良くなったね。よかった」
頭を上げると殿下の手が頬にそえられる。
「ありがとうございます。ご心配をおかけしました。殿下申しわけありませんでした」
「なにが?」
「私の浅はかさでお手を煩わせてしまいました」
「こちらこそ守れなくてごめん」
「お気になさらないでください。私の力不足ゆえです。」
「これからも傍にいてくれる?」
「もちろんですわ。臣下として精一杯殿下の治世のために務めたいと存じますわ」
「臣下として…」
「ええ。」
「レティはそれでいいの?」
「はい。私の忠誠は殿下とルーン公爵のものですわ」
「レティは私との未来を考えてくれていた?」
「ええ。昔は殿下の隣で。今は殿下と殿下の選ばれる方を支えるお手伝いができたらと思いますわ」
「もう正妃は目指さない?」
「一度でも醜聞を持った人間は相応しくありません」
「君の無実が証明されても?」
「人の心はそう簡単にはいきませんわ。あの時自分で対処できなかった私に資格はありませんわ」
「私が君に傍にいてほしいと願っても?」
「お戯れを。殿下の足枷にしかならないですわ。殿下、私のことは気にせず前にお進みください。私は大丈夫ですわ」
「私はレティがいないと駄目なんだよ」
「殿下、貴方の周りには優秀な方々がたくさんいますわ。愚かな元婚約者のことはお忘れてください」
「レティも忘れる?」
「いえ。私は殿下と過ごした日々は大切な思い出ですわ。大事な殿下の幸せのために臣下としてお仕えする糧にいたしますわ」
「側妃なら?」
「ありえません。もし子供ができれば争いがおきますわ。婚約者選びが面倒だからって、諦めてください。私は殿下の幸せを願ってますよ。そろそろ帰らないと見つかりますよ。では殿下、お気をつけて」
殿下がため息をついて消えていきました。
疲れましたわ。
令嬢モードの仮面を被れてよかったです。疲れましたわ。
不満を話さないですみましたわ。
不要と思ってるのに必要なんて社交辞令いりませんわ。
邪魔するつもりもありません。
もしかして殿下は私を正妃にしてルメラ様を側妃に迎える気だったのかしら。
私が今まで通り執務をこなせば彼女への負担はない。
納得ですわ。醜聞のある私なら扱いやすいと。
でもこの婚約にルーン公爵家への利がないなら受ける必要はありません。
やり方が周りくどいですわね。
きっと殿下なら大丈夫ですわ。殿下、私にも複雑な気持ちはありますが隠してお仕えしますわ。
殿下の幸せを願う気持ちは本物ですが正直もう関わらないでいただきたいですわ。
痴話喧嘩にも兄弟喧嘩にも巻き込まれるのはごめんですわ。




