王太子の後悔 おまけ2話 リオ編
王太子の後悔 おまけ 1話の続きです。
私は半年近く眠っていたそうです。
お父様はゆっくり休めといいますが、いつまでも寝てるわけにはいきません。
ゆっくりベットから起き上がりソファまでゆっくり歩きます。体力を取り戻さないと。
駄目ですね。もう呼吸が荒くなっています。
ソファに座りお気に入りのクッションを抱きしめます。
これから、どうしましょう。
クロード殿下との婚約破棄。こんな醜聞をもつ私への縁談。
ルーン公爵家の後ろ盾が欲しい家はいくらでもある。
ルーン公爵家のための縁談…。
頭に浮かぶのは暗い部屋に囁かれる声。
お前はいらない。邪魔だ。可愛げがない。消えろ。人気。役立たず…。
いつもなら気にしなくても、監禁されてからずっと耳から離れなかった言葉の嵐。
怖い。そんなこと言う資格はないのに。令嬢の仮面は被れるけど
何も聞きたくない。お願いおさまって。耳をふさいでも声が耳から離れない。
「シア、シア、大丈夫か?」
肩に暖かい手が置かれている。恐る恐る目を開けると目の前に見える顔を見た途端に泣きたくなる。
「どうして?」
「具合悪い?人を呼ぶか?」
首を横に振る。
幼いときはいつも苦しい時に傍にいてくれた。
頭に置かれる手が懐かしくてたまらない。この声だけは怖くない。
「叔父上から連絡が来た。会いに来てくれって」
「リオ、二人はだめ、醜聞」
「学園じゃないから気にするな。叔父上の許可もある。一応結界で覆った。おいで」
結界があるなら大丈夫かな。
リオの広げる腕に甘えて抱きつく。幼いときからこの腕だけが安心できた。
お説教しても何を言っても怒らないリオになら何でも話せた。
頑張ったって褒めてくれるのはリオだけだった。
王妃教育はなんでもできて当たり前。教えたことをできないのは恥と甘えという世界。
懐かしい背中を叩く手に涙がこらえきれない。
「りお、私、じゃまなんだって。こんなにうとまれていたんだね。がんばったけどだめだったみたい」
「よくがんばったな」
「もうどうすればいいのかわからない」
「リオ兄様はお前に生きてほしいよ」
「邪魔だし、醜聞まみれだし、ルーン公爵家の恥」
「そんなことないよ。シアが目を醒ましたって公表されたら縁談まみれだよ」
「ルーン公爵家を取り込むためだもの。ルーン公爵家への利は見つけにくいですわ」
「わかってないな。お前の今までの努力は無駄じゃなかった。立派に務めを果たしていたシアを求める奴は多いよ」
「私、かわいげないし、お高くとまってるし、素直じゃない。優しくないし、きついし」
「やめろ。そんなことないよ。俺の従兄妹は容姿端麗、品行方正で令嬢達の憧れの的だろう?町や外国では麗しの王太子の婚約者だろ?」
リオの見慣れた銀の瞳に覗きこまれ笑顔を向けられると力がぬけます。
ついつい昔のように甘え癖がでてしまいます。
「社交辞令ですわ」
「頑固だな」
「リオ、内緒にしてくれる?」
「ああ、」
「怖いんです。ルーン公爵令嬢なのに。駄目なのわかってるけど、縁談が怖い。また邪魔だ、いらないって言われたらどうしよう。必死に頑張っても駄目でした。醜聞つきの私を娶る家なんて…。また、閉じ込められて…。怖い。殿下もエイベルも会いたくない。もしレオ殿下との縁談がきたらもう…」
「じゃあ俺が娶ってやるよ」
「ばかですの?リオには選択肢いっぱいあります。わざわざ傷物を選ぶ必要はありません。待って、第二夫人ですか?」
「まさか。正妻だよ。王族じゃないから一夫一妻だから」
「尚更ちゃんとしたご令嬢を。お気持ちだけで充分ですわ」
「俺としてはシアが一番適任なんだけど?」
「適任?」
「外国語に優れて、諸外国の内情にも明るくて、外交もできる。茶会や晩餐の主催もお手の物。贈り物選びも情報収集も魔法の腕も申し分ない。船酔いもしないし、治癒魔法も使えて水流操作も得意。お前の水魔法と俺の風魔法があれば確実に安全な船旅だ」
魔法以外は王太子の婚約者のお役目でしたもの。
できて当然ですわ。力が抜けて笑えてきましたわ。
「リオ、欲しいのは妻ではなく部下ですか?」
「両方。俺は三男だからマール公爵家の社交は兄上達に任せればいい。諸外国を飛び回る仕事を回してもらえば王宮に顔をださなくても問題ない。殿下とビアードにも会わないだろう?利害の一致だろ?」
私とリオの利害の一致だけですわよ。
「お互いの家の利がありませんわ」
「シアが外交官として活躍しながらルーン公爵家のパイプを広げればいい。他国は王国と違って女性外交官もいるだろ?もちろん俺も協力するよ」
「マール公爵家は?」
リオが意地悪な笑みを浮かべていますわ。
「シアに申しわけないんだけど、殿下との婚約破棄が公表されたとき家ではお祝いだったよ」
「え?」
「母上は苦笑してたけど、兄上と父上がな」
うちと同派閥なのに。
マール公爵家には殿下と年の近い令嬢はいませんよね。
もしかして、私は嫌われてましたの…。
「そんな不安な顔するなよ。逆だよ。好かれすぎてんの。利用できるもの総動員してシアを口説いてこいってさ」
「リオ、それはどうかと思いますよ。傷物令嬢を。冷静にお話したほうがいいと思います。社交に優れる方々もたくさんいますし」
「俺が望むのは社交じゃなくて外交能力。兄上達はシアは家にいて話し相手さえしてくれれば社交はいらないってさ。俺としては一緒についてきてくれれば助かるけど」
信じられません。これは本気で言ってるようですが大丈夫ですの?
「伯母様は?」
「俺の判断に任せるって。うちは能力重視だから醜聞なんて気にしないってさ」
「伯父様は?」
「父上はシアにお父様って呼ばれたいからしくじるなって。昔からシアには甘かったろ?」
「伯父様……」
「うちはシアが欲しいんだけどどう?邪魔になんて思わないし、やりすぎるなら俺が止めるよ」
「いずれリオにも好きな人ができれば邪魔になりますよ」
「ないよ。俺はシアより興味がひかれる令嬢は見たことないし、俺の従妹が一番可愛いと公言できる」
興味ってどういう意味ですの?
可愛いは身内の欲目ですわね。
私を可愛いって言うのはリオくらいですもの。
「ルメラ様よりも?」
「ああ。あれに落ちた奴らには医務官を紹介したいくらいだよ。趣味が悪い」
「邪魔ならすぐに離縁してくれますか?監禁しません?暴力もふるいませんか?」
「信用ないな。約束する」
「マール公爵家にかかる迷惑は覚悟の上ですか?」
「ああ。なぁ、もしシアの誤解が解けたら殿下の後宮に入りたい?」
「いいえ。殿下には私のことは忘れて幸せになってほしいです。もう二度と邪魔はしたくありません。殿下が罪悪感を持たれないように許されるならお会いしたくありません」
困惑した顔で見られてますね。
優しい。私の中ではクロード殿下とは終わったことですもの。
一度砕けた信頼の修復の仕方なんて知りませんわ。役立たずの婚約者なんていりませんし、殿下はルメラ様と私に遠慮することなく一緒にいればいいんですよ。
「もし殿下がシアに傍にいてほしいって願ったら?」
「ありえません。立場的にも許されません」
「それでいいの?」
「ええ。すべては殿下の治世ために。臣下として努めることに変わりはありません」
「変わらないな。俺とのこと前向きに考えてくれる?」
「リオには敵いませんもの。お任せしますわ」
「とりあえず、毎日通うから勉強と体力作りな」
「はい?」
「俺は卒業試験突破してあるから、3か月で頑張ろうか」
リオがお母様の恐怖のスパルタコースの時と同じ顔をしています。寒気がしてきましたわ。
「私、3年生の予習はすんでますわ」
「俺と一緒に卒業しよう。卒業すれば成人とみなされるから婚姻もできる」
「リオ?私、そんなに頭がよくないですわ」
「もう公務もないから大丈夫。ちゃんと卒業させてやるよ」
令嬢達が見惚れて悲鳴をあげそうな笑顔で怖いこと言わないでくださいませ。
「待って、なんで?」
「俺に任せるって言ったろ?」
「落ち着いてください。まだお父様の許可がありません」
「叔父上の許可はもらってある」
「え?」
「お前の面倒は俺しか見れないって」
「お父様、どーゆーことですの!?」
「修道院と自害発言が堪えたって。叔父上から至急の呼び出しに驚いたよ。内容聞いて納得したけど」
「私、本気で」
「だからだよ。勝手に自害したり抜け出さないか心配だって。思い詰めたら突き進むから」
「お父様が縁談って」
「縁談の申し出はいくつもあって、叔父上も色々悩んでいたみたいだけど、俺が一番適任だって。エドワードは反対してたけどな。姉上の面倒は生涯自分が見るって」
「本当に優しい子ですわね。私はエドワードになんにもしてあげてないのに」
「あいつはシスコンだからな。覚悟は決まった?」
「覚悟?」
「シアが寝すぎたから仕方ないよ。魔力が足りなくなればいくらでもやる。病み上がりのところ申しわけないけど時間がないから頑張ろうな。ちゃんとご褒美に蜂蜜も用意したよ」
「リオ、手加減してくださいませ」
「俺はシアの世話をやくのが特技だから安心して任せて」
「現実の変化に心が追いつきません。学園は普通に卒業しますわ」
「別に現実を受け入れなくていいよ。シアは俺の言うことをこなしてくれれば。卒業して結婚して、引っ越し。三つしかないから簡単だろ?」
「三つ。それなら、いえ、騙されませんわ。そんなスパルタは嫌です。やっぱりお嫁に行かずに修道院に行きます」
「縁談はお父様の判断に従います?」
「傷心の従妹にひどいですわ」
「引っ越しすんだらいくらでも慰めてやるから今はやることをやろう。時間は有限だよ。レティシア」
私は抱き上げられ勉強机に座らされ過去問を解いてます。
この状況おかしいですわ。
お父様、ひどいです。
本当は怒ってるんですの!?
殿下との婚約破棄・・。
リオは毎日通って勉強を見てくれました。訓練にと馬の乗り方を教えてくれました。
一人で馬に乗るのは楽しいことだとはじめて知りましたわ。
忙しさのおかげで気付いたら卒業し婚姻を結び海の皇国に旅立つ船の中です。
シエルはもちろんついてきてます。
水流操作をしながら船に揺られてます。
私、流されるままにここに来たけどいいんでしょうか?
まぁ国を離れれば邪魔することもできないしクロード殿下も安心しますかね。
殿下、お幸せに。私は私なりに殿下のお手伝いができるように頑張りますわ。




