王太子の後悔 おまけ 1話
番外編の王太子の後悔のもしもの話です。
殿下が魔法を使わなかったらどうなったか。
2話から各々のお話に別れます。
レティシア視点
誰かに呼ばれた声がして目をあけると見慣れた自室の天井。
右手が暖かく視線をむけるとエドワードが手を握って眠っている。
なにか掛け物をかけないと、起こした方がいいかしら。
エドワードが私の部屋で居眠りなんて初めてかしら?
体を起こそうとすると体が重い。ゆっくりと起き上がり眠っているエドワードを見るとあどけない顔にそっと銀髪の柔らかい髪に手を伸ばす。あどけない寝顔の弟はどんどん立派になり姉として誇らしいわ。ルーンの嫡男として申し分ない弟に思わず笑みが溢れますわ。
エドワードの頭が揺れて、ゆっくりと起き上がりました。久しぶりに頭を撫でたから起こしてしまいましたか?
「あねうえ?」
「どうしました?」
「姉上!!」
エドワードが私の手を握って放心しています。いつも冷静なのに珍しい。私が久しぶりに頭を撫でたからでしょうか。それとも、お母様に怒られたのかしら?
「姉上」
「どうしました?お母様に怒られました?」
エドワードが私の顔が凝視しています。瞳がどんどん濡れる弟は
しっかりしててもまだ子供ですものね。お母様のお説教はいくつになっても怖いですわ。幼い弟が泣いても私は咎めませんよ。
「エドワード、おいで」
空いてる片手を広げると首を横に振って拒否されました。もう抱っこの歳じゃないですね。
「姉上、お体は大丈夫ですか?」
「体?ちょっと重たいけど大丈夫よ」
エドワードが呼び鈴を鳴らすとシエルが来ましたわ。
いつも穏やかな顔のシエルが目を丸くして、瞳を潤ませていますがどうしました?
「お嬢様!!」
「シエル、父上と母上と医務官を」
「かしこまりました」
シエルがすごい勢いで出ていきました。いつも落ち着いているシエルの奇行が心配ですわ。
エドワードの顔を見ると少し顔色が悪い。
「エドワード、顔色が悪いけど大丈夫?」
「姉上は自分のことを心配してください」
エドワードの頬に触れると冷たい。魔法使おうかな。
頑固なんですよね。体調不良に気づいてないんでしょうか。
「姉上、治癒魔法はいりません。魔力も送らないで」
あれ?もしかして私、嫌われてます?エドワードに治癒魔法を使ったことはありませんが、私もきちんと使えますよ。初めての弟からの明らかな拒絶は心に響くものがありますわ。これが夫人達を悩ませる反抗期というものでしょうか?
慌ただしい音に視線を向けるとドアが乱暴に開きお父様とお母様が慌てて駆けこんできました。見間違いかと目を擦っても見える光景は変わりませんね。
「レティシア!!」
お母様に強く抱きしめられてますが、何事でしょうか?何か怒られるようなことしました?
「お母様?」
「よかった。あなた」
「レティ、体は大事ないか?」
「お父様、私は大丈夫なんですがエドワードが」
「姉上、僕の事は大丈夫です」
お母様が聞いたことのない弱ったお声を出しています。
「お母様?」
「ローゼ、気持ちはわかるが離れなさい。医務官に見せないと」
「レティ、目覚めてよかった」
「お父様、状況がわからないんですが」
「今日は医務官に診察を受けて、食事をして休みなさい。また明日来るよ」
様子のおかしいのお母様と違いお父様はいつもと変わりません。お父様はお忙しい方なので今日はもう時間はないのでしょう。お母様が心配で私の部屋まで来たんですよね。エドワードにゆっくり休むように伝えて医務官の診察を受け、スープを食べて休みました。シエルに抱きしめられて号泣されたのは驚きでしたわ。お母様もシエルもエドワードもどうしたんでしょうか。考えるのは後にして、体が重いので休息が優先ですわね。
朝、目が覚めると見慣れた天井。
ベットから起き上がると体が重い。ゆっくりとベットから降りると体がふらつき、膝を折るとシエルの手に支えられました。
体に力が入りにくく、シエルの手を借りて立ち上がり身支度を整えるために鏡の前に立つと目を丸くしました。鏡に映る姿はやせ細っていますが、どうしてこんなにやつれてますの?このお顔をアリア様に見られたら恐ろしい…。平凡な外見の私でも保たなければいけない最低ラインはありますのよ。
シエルが過剰に心配しているのでベッドに戻りました。ベットの上で朝食のスープと果物を食べました。食欲はありませんが残すのお母様に怒られますので…。食事を終えてお茶を飲んでいるとお父様が来ました。
立ち上がろうとすると制され、お父様はベッドの傍の椅子に座られました。
「体は大丈夫か」
「体に力が入りません。お父様、なにがあったのでしょうか?」
静かな目で見つめられます。珍しく眉間に皺があるので嫌な予感がしますわ。
「もう少し、元気になってから話そうと思っていたんだが、聞きたいか?」
これは楽しい話ではありません。
「お父様のお時間が許せばお願い致します」
「つらい話になるが大丈夫か?」
お父様がこんなにためらわれるのは初めてです。
「はい。よろしくお願いします」
私はレオ殿下との不貞を疑われてクロード殿下との婚約破棄。意識不明で半年近く眠っていたそうですわ。
お父様の話が終わると頭の中に浮かんだ光景…。思い出した。私、レオ殿下に監禁されて……。震える手を布団の中に隠し目を閉じる。嫌な光景ではなく思考を巡らせ、ルーン公爵令嬢としての答えを導き笑顔を纏う。
「お父様、ご迷惑をおかけして申しわけありません。修道院に送ってください」
「レティシア?」
「それがルーン公爵家にとって一番ですわ。レオ殿下との間に何もありませんが、世間の目は違いますもの」
「お前を修道院に送ったらクロード殿下が気にされる」
「もしルーン公爵家にとって利がある縁談があるならお父様にお任せします。ですがルーン公爵家として不利益になるなら切り捨ててください。自害が必要でしたら従いますわ」
「レティシア、落ち着きなさい。ただの噂だ。お前はルーン公爵令嬢として恥じる行動などしてないだろう?」
「策にはめられましたわ」
「お前は貴族として、恥じる行動などしてないんだろう?」
「はい」
「なら構わない。次は気をつけなさい。まだ目が覚めたことは公表しない。縁談話もきているが今はゆっくり休みなさい」
「はい。ありがとうございます」
お父様様が哀愁漂う雰囲気で去っていきましたが大丈夫でしょうか?醜態を晒したのに、お咎めがないことに驚きますが一番大事なことを忘れてましたわ。
「シエル、シエル!!」
「お嬢様、どうされました?」
「シエル、あなた体は、大丈夫なの?」
「私は大丈夫です。眠らされていただけですので」
良かった。生きてて。ひどいことされなくて。でも、
「守れなくてごめんなさい」
「泣かないでください」
「ごめんね。無事でよかったわ」
「お嬢様、お嬢様がどんな決断をされてもシエルはお嬢様の味方です。修道院でもどこでもお伴しますわ」
「これは私の失態よ。貴方まで巻き込めないわ」
「私の主はお嬢様だけですわ。どこにいってもお世話します」
「私のせいで危険な目に合ったのに・・」
「今度こそお守りします」
「ありがとう」
「今日はゆっくり休んでくださいね」
シエルが無事でよかった。色々考えなければいけませんがそれだけが救いですわ。




