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追憶令嬢の徒然日記 小話  作者: 夕鈴


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レティシアの片思い 4話 エイベル編

シエル視点


私のお仕えするビアード公爵夫人レティシア様は男の子を出産されました。

レティシア様は出産のあと倒れてしまいました。医務官は体力が回復すれば目覚めるという見立てです。

レティシア様のもとにエドワード様が連日見舞いに来られてます。

エドワード様が体力回復の魔法をかけてくださってます。

ビアード家の医務官よりエドワード様の治癒魔法の腕が上だそうです。さすがエドワード様ですわ。


レティシア様がうなってます。これは、もうすぐ、やっぱり目を開けられました。よかった。


「姉様!!」

「エディ?」

「気分は悪くありませんか?」

「ええ。子供は!?」


レティシア様が慌てて起き上がるのをエドワード様が支えます。

この姉弟は昔から仲が良いです。


「おめでとうございます。元気な男の子でした。姉様、もしここにいるのが辛ければ帰って来てください。家には姉様達も養うだけの余裕もありますので。覚えておいてください。僕達はいつでも姉様も甥も歓迎します。」

「エディ?」

「姉様、おめでとうございます」

「ありがとう。シエル、」

「お連れしますので、お待ちください。」


お嬢様の視線を感じて退室します。

私は執事長にレティシア様が目覚められたと報告をして、レティシア様の子アルベルト様をお連れしました。

アルベルト様はお可愛らしいです。ただエドワード様が心配されていることがあります。


「レティシア様、お待たせしました。アルベルト様です」

「アルベルト?」

「大旦那様がつけてくださいました」


レティシア様がアルベルト様を抱いてます。

アルベルト様を見つめて、微笑みました。


「産まれてきてくれてありがとう。大丈夫。何があっても私が守りますわ。」


エドワード様が心配そうにお二人を見ています。


「姉様」


レティシア様がエドワード様を見つめました。


「エディ、頼ってもいいかな」


ドアが乱暴に開きました。これは旦那様ですね。

旦那様はいつも慌ただしいです。

レティシア様の側に旦那様が駆け寄りました。

医務官の言葉を聞いても心配で旦那様は珍しくお休みをとってレティシア様が目覚めるのを屋敷で待っていましたものね。

レティシア様が知ったら怒りそうですね。


「レティシア、体は大丈夫か?」

「ええ。ご心配おかけしました。」

「よかった。よくやった。」


レティシア様が目を伏せてます。決意を固めてますね。昔から我慢する時の癖です。自分の本音を隠して令嬢らしく微笑みました。


「エイベル、今までありがとうございました」


目覚めたレティシア様に安堵していたお顔の旦那様が固まりました。

レティシア様、やっぱり・・・。


「は?」

「アルベルトはルーン公爵家で育てます。エディ、私達帰ってもいいですか?」

「姉様が決められたなら構いませんよ。姉様の部屋もそのままにしてあります」

「ありがとう」


旦那様が恐る恐るレティシア様を見ています。


「里帰り?」


レティシア様は社交用の笑顔をまとっています。

昔からいつも社交用の笑顔をまとって本音を隠します。


「ビアード公爵今までお世話になりました。離縁の咎はルーン公爵家で引き受けますわ。」

「俺は離縁する気はないし、アルベルトはうちで育てる」


レティシア様は旦那様の言葉が予想外なのか、令嬢の仮面が外れました。たぶん混乱されてるんだと思います。

悲しそうな顔でアルベルト様を見ています。


「だってアルベルトは」

「お前の容姿にそっくりだな。ルーン公爵家の青い瞳と銀髪」

「不貞なんてしてませんわ」

「知ってるよ。魔力がなくても水属性だろうと俺達の子供には変わりない。」

「ごめんなさい」

「お前と子供が無事ならいいよ。次は俺の魔力で染める」

「風属性の方と」

「エドワード、世話をかけた。悪いけど今日は帰ってくれ。離縁はしないし、うちで育てるから。」

「わかりました。うちはいつでも迎えいれますので。姉様また来ますね」


エドワード様はレティシア様を見つめて帰られていきました。

エドワード様も立派になりましたわ。

昔でしたらレティシア様のお側を離れず、喜んでルーン公爵家に連れて帰りましたわ。

旦那様に任せるなんて絶対にしませんでしたよね。


「俺はお前としか子供は作らない。お前以外の妻はいらない」

「でも」

「家のためじゃない。俺のためだ。間違っても出てったり自決するなよ」

「なんで」


旦那様、だんだんレティシア様のことをわかってきましたね。

レティシア様は思い詰めるとなんでもやります。


「俺にはお前が必要なんだよ。ビアード公爵夫人としてじゃなく俺の妻として。」

「でも第二夫人も愛人も嫌。こんなのいけないのに」


昔からレティシア様は意地っ張りです。普段は素直なのに肝心なときに素直になりません。


「お嬢様、素直になってください。エイベル様は大丈夫ですわ。」


レティシア様が泣き出しました。アルベルト様はこんなに騒いでもレティシア様の腕の中でご機嫌です。

旦那様は驚いてますね。旦那様の前では泣いたことないんでしょうか。

昔からレティシア様はよく泣きますのに。リオ様に失恋したときも号泣してましたわ。


「一緒にいたい。傍にいたいの。でも迷惑だから。好きになっちゃいけなかったのに。」

「お嬢様」

「シエル、私は駄目だね。」


レティシア様が泣き笑いされてます。大きくなっても変わりませんね。

旦那様の視線を感じて、アルベルト様をレティシア様の腕から抱き上げます。レティシア様がきょとんされています。旦那様しっかりしてくださいね。


「レティシア」

「ごめんなさい」


旦那様がレティシア様の手を握りました。


「俺も傍にいてほしい。」


旦那様、もうひと頑張りです。


「愛してるから。俺の傍にいて。お前が待ってるなら俺は絶対に帰ってくるから。」

「エイベル・・・」


レティシア様がゆっくりと顔をあげました。

旦那様がレティシア様の涙を指で拭われてます。


「二人の時はビアード公爵夫人やルーン公爵令嬢じゃなくていい。俺だけのレティシアでいて」

「エイベル?」

「お前は我儘言って甘えてればいい」

「邪魔」

「邪魔じゃない。あのころと違って俺はお前を愛してる。愛しいお前の願いは喜んでかなえるよ。マールといた頃みたいに無理して笑わなくていい。我慢もしなくていい。俺はどんなお前も受け止めるし愛せる自信があるから」


レティシア様、素直に受けいれてください。リオ様に思いが届かなくても、エイベル様には届いてますよ。エイベル様は隣を歩いてくれます。いつもリオ様のあとを追いかけてたレティシア様。リオ様を追うことをやめても隣にエイベル様がいたから道を失わずに前を向けたって。そんなエイベル様の役にたちたいってルーン公爵に話してましたよね。



「しっかりしないと駄目なのに。アルベルトに情けないとこ見せちゃ駄目なのに」

「俺とお前の子供だから大丈夫だよ。」

「エイベル、好きなんです。リオの時とは違う。たぶん貴方がいないと」

「俺はいなくならないから。マールより俺が好き?」

「はい。エイベルはニ番です」


レティシア様!?

空気読んでください。


「ニ番?」

「一番はアルベルトです」

「意地っ張り。俺は心が広いからお前を一番にしてやるよ」


旦那様、成長しましたね。

言い争いが始まるのかと危惧してすみませんでした。

旦那様顔が笑ってますね。

実はリオ様のことを気にされていたんでしょうか。


「偉そうに。短気だし細かいことが苦手なのに」

「俺の苦手は愛しい妻が補うからいいんだよ。何があっても守ってやるからお前は傍にいればいい」


レティシア様が嬉しそうに笑われました。これで大丈夫ですね。


「なにがあっても離れないので覚悟してください」

「やっとか。レティシア、アルのことは心配はいらないよ」

「え?」

「お前にそっくりなことにうちの門下はお祝いしてる。俺に似なくて良かったって。あいつら失礼すぎる。父上もアルの訓練は任せろって意気込んでるし母上もアルの服を仕立てまくってる。騎士たちは誰が護衛騎士に選ばれるか牽制しあってる。アルが産まれてからうちはお祭り騒ぎだ。」

「エイベルは?」

「嬉しいよ。お前の愛しい瞳を受け継いでる。子供がこんなに可愛いなんて知らなかった。俺に似たら厳しくしつけたけど、アルには難しいよな。つい甘やかしたくなりそうだ」


レティシア様の顔が赤く染まりました。

嬉しくて笑いたいのを我慢して優雅な笑みを浮かべようとしてますね。

旦那様もそんなレティシア様を甘い瞳で見てますわ。

二人っきりにしたほうがいいでしょうか・・。



「まぁ!?もう骨抜きにされてるんですね。」

「ああ。うちはみんなアルに骨抜きだ。だから大丈夫だよ。」

「シエル、アルベルトを」


お嬢様がアルベルト様を抱くと笑ってますね。

アルベルト様はいつもご機嫌です。

騎士や、大旦那様に抱かれても泣かない。将来が楽しみですわ。


「アル、お父様は貴方に骨抜きですって。いっぱい我儘言って困らせていいそうですよ」

「ちゃんと素直に育とうな。母親みたいに暴走するなよ」

「エイベル、ひどい」




穏やかな笑みを浮かべた執事長が隣にきました。

「やっとですか」

「執事長」

「長かったですね。これでビアード夫妻は落ち着きますかね」

「どうでしょう。ただ私はレティシア様がエイベル様を選んで良かったと思います」

「シエルが私情を言うのは初めてですね。理由を聞いても?」

「意地っ張りなお嬢様を素直にできるのはエイベル様だけです。リオ様の前では泣いたり憎まれ口を叩いたりしません。いつも笑顔でお仕えしたでしょうね。」

「奥様の旦那様への態度は甘えなんですね」

「うちのお嬢様がすみません。」

「わかってますよ。奥様がああなるのは私的な場所だけですから。それに坊ちゃんもそんな奥様を可愛くて仕方がないみたいです。」

「いつまでたっても手がかかりますね。」

「お互い苦労しますね」


アルベルト様は両親が抜けているせいかしっかり者に育ちました。

レティシア様はエドワード様に似たのかしらと笑ってます。

ビアード門下に溺愛されていたので我儘な性格に育ったらと危惧してましたが、そんなことはありませんでした。

理不尽な我儘を許すほどビアード夫妻は甘くないですよね・・。

アルベルト様は水属性でした。

儀式の後にアルベルト様が「母上の魔法を貰ったんですね。」と誇らしげに笑う姿にレティシア様は泣き崩れてしまいました。旦那様が慌てて抱き上げて慰めてましたが。

いつになってもお二人が仲睦まじいです。


第二子は旦那様に似た女の子を出産されました。旦那様が危惧した離縁騒ぎはおきませんでした。

ルーン公爵がアイリーン様と名付けられました。

アイリーン様はアルベルト様を慕っています。

昔のエドワード様を思い出します。

風属性の認定を受けたアイリーン様が「私が婿を迎えて世継ぎを産みます。なのでお兄様を嫡男に」という言葉にレティシア様とアルベルト様が固まりました。

勝気な笑みを浮かべて


「お母様、ビアード公爵家の血も魔法も私が守ります。だから私の弟か妹もお母様似で構いませんわ」


旦那様は笑ってたずねました。


「アルベルト、どうしたい?」

「俺はビアード公爵家のためになるなら婿にいってもいずれ産まれる弟を支えても構いません」


家のことを第一に考えるのはレティシア様にそっくりです。


「私はお兄様が他家に行くなど許しません。私はお兄様のお傍を離れませんわ」

「エイベル、私が傍にいたいって言ったのがいけなかったの?」

「レティシア、根本的に違うから。俺たちは夫婦。あいつらは兄妹だ。」


混乱しているレティシア様を旦那様が宥めています。

旦那様が成長してくださってよかったです。


「お父様、私はお兄様の邪魔をしない武術に優れた婿をとりますわ。」

「アイリーン、跡取りでもないのに家にずっといるのは認められません。公爵令嬢は家のために嫁ぐものよ」

「私はお兄様の護衛騎士になります。夫もお兄様を守れる方を探して教育致しますわ」

「アイリ、俺はお前に幸せになってほしいんだ。家のことも俺のことも気にしないで」

「お兄様、そのお気持ちだけで充分ですわ。アイリーンは生涯お兄様のために生きますわ」


いつも笑顔のアルベルト様が苦笑されてます。


「エイベル、どうしよう。リオ兄様呼んだほうがいいかな」

「レティシア、混乱する気持ちはわかるけど落ち着け。」

「誰に似たのかしら。」

「エドワードじゃないか?」

「アルはエディに似てるけど」

「アルよりアイリの方が似てるだろ」

「次はエイベル似の男の子をエイベルがしっかりした感じに育てられるかな」

「もうアルを嫡男に決めるか。アイリが傍にいて次の子供が兄を差し置いて嫡男を目指すとは思えない」

「ビアード公爵がルーンの色でいいの?」

「時代は変わっていくんだ。風属性はアイリが守るし、うちの門下はアルを溺愛している。アルのためならいくらでも働くだろ」

「ビアード公爵の判断なら従いますけど子供可愛さに判断を鈍らせてませんか?」

「さあな。跡取りの指名は先の話だ。もっと大きくなってから考えればいい。教育だけはしておく」

「次の子もエイベルの魔力で染めてください」

「俺はもういいかと、わかったよ。染めるから。」



旦那様は御立派です。

レティシア様は幸せそうです。レティシア様が旦那様に甘える姿に安心します。

レティシア様は旦那様のお蔭で倒れることも減りました。

旦那様はレティシア様とのかかわり方をしっかり身に付けたみたいです。

優秀なお子様にも恵まれてます。

私はお嬢様の幸せのために今日もお仕えしますわ。



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