レティシアの片思い 2話 エイベル編
レティシアの片思い1の続きです。
レティシア視点
1週間ほど隣国から留学生がきています。
うちのクラスにもお一人侯爵令息が見えています。
私の好きなリオ兄様は生徒会で留学生の接待で忙しいそうです。
令嬢やお姫様たちと一緒にいるのを見ると胸が痛くなりますがお仕事なので邪魔はしていけません。
「ルーン嬢!!」
留学生の勢いに令嬢の仮面が剥がれおちそうになりました。
慌てて社交用の笑みを浮かべます。
「どうされました?」
「まだ婚約者がいないって本当ですか」
「ええ」
手を握られます。勢いが。机をはさんでますが詰め寄らないでくださいませ。
「でしたら、私の婚約者になってもらえませんか?」
「お戯れを」
穏やかに微笑んで手を引き抜こうとするもぬけない。
「本気です。その美しさに聡明さ、私の妻に相応しい。外国語も堪能とはすばらしい。貴方の周りに見る目のない男ばかりだったのが幸運です」
「申しわけありません。お恥ずかしながら私はそんなに優秀ではありませんので」
「ご謙遜を」
怖い。目がギラギラしてる。
どうしよう。
「申し訳ありません。俺の友人が怯えているのでその手を離してくれますか?」
クラム様!!
クラム様が手を解放してくれました。
「レティシアは男に免疫がなくて。もし本気で縁談を申し込まれるならルーン公爵に相談してください。彼女には選択肢はありませんので」
「我が国は婚姻にはお互いの気持ちが優先される」
「フラン王国は家長の命令第一です。彼女はフラン王国の公爵令嬢です。縁談は公爵が決めます。俺たちはここで。レティシア、行こう。」
「失礼しますわ」
クラム様に促され移動します。
「クラム様ありがとうございます。クラム様が貴族らしくて驚きましたわ」
「一応俺も侯爵家の人間だからな。俺もあの勢いには驚いたよ」
「怖かったです。あと5日もいらっしゃるんですね・・」
「リオ様に相談しないのか?」
「まさか。しませんわ。どうにもならなかったら助けてくださいませ」
「友達だからな。連れ攫われないようにだけ気をつけろ」
「ええ」
クラム様に感謝ですわ。その後も付きまとわれましたがクラム様やセリアのおかげでなんとかなりましたわ。隣国の方々怖いですわ。
教室で授業の準備をしていると
「ルーン様」
彼女も留学生の侯爵令嬢。呼ばれたのでドアに向かいます。
「どうされました」
「私、ご挨拶に参りましたの」
挨拶?歓迎の席で挨拶はしてますわ。
「リオ様の従妹ですよね?」
「ええ。」
「リオ様は卒業後我が侯爵家を継いでくださることになりました。春には親戚になりますのでご挨拶に」
彼女は2年生。まだ成人しないのでは。
「婚姻は成人後では?」
「リオ様が一緒にいたいと望んでくださいましたので私の卒業次第ですわ。お待たせするのが申しわけないんですが」
リオ、そっか。決めたんだ。
優雅な微笑みを纏います。
「ご婚約おめでとうございます。正式に公表されたらお祝いを送らせていただきますね。リオ兄様をよろしくお願いしますね」
「ルーン様も祝福してくださいますか?」
「もちろん。従兄妹としてリオ兄様達のお幸せをお祈り申し上げますわ」
「よかったわ。それだけ言いたかったの。失礼しますわ」
侯爵令嬢は去っていかれました。
そのあと留学生に捕まり、リオ達の様子を聞かされました。
本当は立ち去りたい。リオとの馴れ初めなんて聞きたくない。この方は先ほどの令嬢のお兄様だったそうです。胸が痛い。耳を塞ぎたいけど許されません。大事な外交・・。公爵令嬢として穏やかな顔で聞き流す。
区切りがついたかな。新たな話題になる前に言葉をはさみます。
「幸せになってほしいですわね。私このあと用事があるので失礼しますね」
追いかけてこられないように急いで立ち上がる。
ついてこられそうなのでエイベルの部屋を目指す。
鍵が開いてるのでそのまま入る。
「匿ってくださいませ」
「は?」
「厄介な方に付きまとわれてまして。仕事手伝いますのでここに置いて」
「ああ。好きにしろ」
「ありがとう」
エイベルはいつも部屋にいさせてくれる。
本当に優しい。
お茶を入れて、飲む。落ち着くな。
「これやるよ」
お菓子?
令嬢達の贈り物か・・。
「机に置かれたから。ただ甘い物嫌いだから捨てるよりはお前に食われる方がいいだろ?」
捨てないから優しいよね。エイベルは直接渡すのは断るから余計に令嬢達が置いていく。
無碍にはされないのを知っているから。受け取ってもらえるだけで幸せだから。
エイベルのお菓子を食べる。美味しい。
沈んだ心が元気になっていく。
わかっていたけどつらいな。
お父様の選んだ縁談を受けようかと思ったけど隣国の貴族は怖い。
でもリオを好きと公言していた私を選ぶ国内の貴族は少ないと思う。
リオのことは諦めるから次に進まなきゃいけない。
エイベルは自分を好きな令嬢は選ばない。
「ねぇ、エイベル、仕事手伝うからさ抱きしめて」
「は?」
「お願い」
苦笑して立ち上がったエイベルに抱きつく。
いつもの腕と違う。でも他の殿方に触られるように怖くないし不快な気持ちもおきない。安心するな。
「何かあった?」
「失恋しました。リオは他の方を選んだのでゲームオーバーですわ」
うん。幸せな気持ちもおきないし、大丈夫。
「大丈夫か?」
「私はルーン公爵令嬢ですもの」
「そっか」
「仕事手伝いますし欲しい情報も集めます。だから立ち直るまで時々助けてください」
「しかたないな。」
「頭、もう少し優しく撫でて」
「わがままだな」
「今更ですわ」
リオの腕じゃないけど、大丈夫。もう自立します。さよならリオ兄様。
文句をいいながらも頭を優しく撫でてくれるエイベルに甘えます。
満足したので離れて仕事を手伝います。帰りは寮まで送ってくれました。
寮に帰ったらセリアの部屋を突撃して泣かせてもらいました。
「セリアは誰に賭けてた?」
「賭けてないわよ。レティ以外が対象ならともかく。あんな不謹慎なこと趣味が悪いわ」
「ありがとう。」
「リオ様は諦めたの?」
「うん。リオが私、以外の人を選んだら諦めるって決めてたから。」
「リオ様が来たら私が追い払ってあげるわ」
「リオが会いにくるなんてありえない。でも気持ちは嬉しい。ありがとう」
セリアは複雑な顔で私を見たけど最後は綺麗に笑ってくれた。
セリアみたいに綺麗に笑えればリオは選んでくれたのかな。だめです。気持ちを切り替えないと。
まさか留学生が帰って平穏になると思ったら殿方に追いかけられるとは思いませんでした。
私の失恋も有名ですからね。
気分転換にエイミー様の楽譜を借りてバイオリンを練習します。
難しい曲を練習するのは集中できて丁度いいです。
演奏室にも殿方が来るので最近はエイベルの部屋で練習してます。
さすがにエイベルの部屋まで追いかけてくる人はいないので。
リオとは全く会いません。追いかけなければこんなに会わないものなんですね。
エイミー様に会いに行くときに見かけますがリオは私に見向きもしません。
叶わぬ恋なので仕方ありませんね。
最近は放課後はずっとエイベルの部屋で過ごします。
エイベルは出かけるときもありますが、私を部屋にいれてから出かけます。
不器用なやさしさが心にしみます。
エイベルの膝を枕にして本を読んでます。
兵法は難しいです。
「エイベル、ここよくわかんない」
「ん?いや無理だろう。なんで上級編読んでんの?」
「エイベルの部屋にあったから」
「兵法なんて必要ないだろ?」
「せっかくだからビアード公爵夫人を目指そうかと」
「本気?」
「うん。留学生を見て隣国に嫁ぐのは怖いからエイベルがよければ」
「マールは?」
「諦めました。エイベルは私が貴方を好きじゃない方が安心するんでしょ?」
「まあな」
「愛人は作ってもいいけどたまには構ってね」
エイベルの手が頭に降りてきます。
撫で方が優しくなりました。文句いいながらも言う通りにしてくれるんですよね。
「作らないから」
「子供に魔力ない子が産まれたらごめんね」
「子供?」
「作らないの?」
「いや、それは」
目をそらした。照れてる。
「だってお前は」
気まずい顔はやめてほしい。
エイベルにまで私の失恋を気にされると調子が狂う。
起き上がってエイベルの頬に手を当ててそっと唇を重ねる。
目を見開いて、面白い。お顔が赤いですわね。
「リオが好きでも口づけは簡単にできますわ。子供はエイベル次第、試してみる?」
悪戯っぽく微笑みます。
子供の作り方も知ってます。私の幼い体にエイベルが満足するかはわからないけど。まぁ薬を使ってもいいですしね。
動かないな。押し倒したほうがいい?
あれ?肩を押さえられます。
「待て、離れろ、わかったから。お前、自分のしてることわかってんの?」
「うん。私のお役目は家を守って後継者をつくることでしょ?」
「成人してからだ。」
「エイベル、顔、真っ赤ですわ」
笑いがこらえられない。だめだ。お腹を抱えて笑うなんてはしたないです。我慢できません。本当に純情ですわね。リオならこんなことにはなりませんわ。
「お前、笑いすぎだ」
「こんなに真っ赤なエイベルはじめて見ました。お腹痛い」
「あんまりふざけると本当に押し倒すぞ」
「どうぞ」
「お前は、決めたら頑固だよな」
顔を赤くして頭を抱えるエイベルが愉快ですわ。
「私と子供作れそうですか?」
「結婚したらな。
なぁ、自棄になってるわけじゃないの?本当に俺に娶られたいの?」
顔が赤いのに真剣な顔をしているエイベルに微笑みます。
「エイベルと過ごすのは楽しいですわ。どうぞ私を利用してくださいませ」
貴族の令嬢なんてそんなものです。
利用価値を高めてこそです。
「マールが卒業しても気が変わらなかったらな」
「信用されてませんね」
「お前、マールに誘われたら行くだろ?」
「行きませんわ。初恋は終わりました。」
「なんでそんなに急いでんの?」
「私に相手がいるほうが安心して旅立てるでしょう?」
「わかった。お前がマールに俺とのことを告げて祝福されたらルーン公爵に申し込むよ」
「それ必要ですの?」
「俺は婚約破棄なんてされたくないから。婚約したら破棄させないし結婚したら離婚もしない。お前が覚悟を決めてケジメつけてくれないと信用できない。」
「意地悪ですわ。」
「今更だろ」
「約束ですわよ」
「ああ」
エイベル酷いですわ。でもリオの卒業まであと一か月。
安心させてあげるためには仕方ありませんわ。
翌朝、リオの教室に向かいました。廊下で待ってると来ましたね。
令嬢モードの仮面を被ります。
礼をします。
「おはようございます。リオ兄様」
「おはよう。久しぶりだな」
「お元気そうでなによりですわ。お祝いが遅れて申しわけありません。ご婚約おめでとうございます。」
「は?」
「隣国にはいつ旅立たれるんですか?もしお時間ありましたらうちでお祝いをさせてくださいませね」
「俺の赴任先まだ決まってないし、外交官になるのなんて当然すぎてお祝いなんていらないよ。気持ちだけで充分だ」
「確かにお祝いするよりお相手の方と過ごしたいですものね。配慮が足りずに申しわけありませんでしたわ」
「シア?」
「リオ兄様、私ももう少しで婚約が整いそうですの。今までご迷惑をおかけしました。レティシアはリオ兄様の幸せを祈っておりますわ。では失礼しますね」
「待って、婚約って、誰と・・」
「ビアード様ですわ。私の能力を見込んでビアード公爵夫人にとお誘いいただきました。嫁ぎましても従兄妹には変わりありません。御用の際は遠慮なくお声をかけてください」
「ビアードなんて、大丈夫なのか?お前…」
魔力のないことを心配してるんですかね。
よく言いがかりからも庇ってくれましたもの。
「リオ兄様、今まで守ってくださりありがとうございました。ビアード様はああ見えて優しいので、ご心配無用ですわ。」
「お前は望んで嫁ぐのか?」
ひどい人。察しが悪いですわ。従妹を心配してるんですよね。
優雅な笑みを浮かべる。
「ええ。私を望んでくださるなら精一杯努めてみせますわ。誰かに必要とされるのは嬉しいものだと初めて知りましたの。」
リオは黙ったままですが授業が始まるので教室に向かいました。
視線を集めていたのできっとお昼には噂になってますよね。
私の恋は叶わないに賭けたので掛け金いくら入るかな。
リオには幸せになってほしい。
リオに想いを受けとってもらえなかった私はエイベルの優しさと言葉に救われましたもの。
嫉妬に狂わず令嬢モードでリオと向き合えるのはエイベルのおかげです。
失恋の痛みと嫉妬でリオに詰め寄らことにならなくて良かったですわ。
エイベルは恋愛には疎いのに見抜かれるな。まだリオへの想いを捨てきれてないことを。本能的に鋭いし直感も優れているのになぜか鈍感で空気が読めない人なのに。
エイベル視点
レティシアはビアード夫人になると言いだした。
たぶん本気なんだろうな。
マールのことは本当にいいんだろうか。
俺はマールがレティシアを想ってないようには思えないんだけど。
ほら、やっぱり。
「ビアード、どういうことだ?」
「なにが?」
「レティシアと婚約するって」
「いや、まだ打診してないよ。」
「騙してるのか?」
「まさか。お前には関係ないだろ?」
「俺はあいつの」
「なに?」
「保護者だから」
うん。これは駄目だ。レティシア、お前の初恋はお前が諦めた時点で終わりだな。恋愛とか駆け引きは苦手でもさすがの俺でもわかる。
「なぁ、いいの?俺、婚約したら破棄しないし離婚もしないよ」
「俺が口出しできることじゃない」
ならなんでここに来たんだよ。
事実確認する必要ある?
「家を守って子供を作るってさ。役不足かどうか試してもいいって」
「お前、まさか」
その俺を睨みつける目って、保護者としてなのか。
「さすがに成人前に俺は手を出さない。お前を安心して送り出したいんだと。お前には本当に健気だよな。面倒だけど俺が引き受けてやるから達者で暮らせ」
「俺、婚約するつもりないんだが」
「俺に言われても。初恋は諦めたらしい。お前が引き取るなら好きにしていいけど、中途半端はやめろよ。あいつ宥めるの面倒だから。」
本当に面倒。ずっと抱きついて離れないのは邪魔。
しかもなんにも言わないし。
あんな弱った顔したあいつを放っておけないから好きにさせるけど。
まぁ気がすめば離れて仕事を手伝ってくれるからいいけどさ。
結局マールは動かなかった。
マールは卒業して外交官として働いている。
俺はレティシアと結婚した。
レティシアはマールにまだ気があるみたいで王宮で会うと切なそうに見つめている。
マールも結婚する気がないみたいだから尚更複雑なんだろうな。
マールを見かけた後は、相変わらず甘えが激しくなる。
レティシアを甘やかすのには慣れてるし、見目麗しいレティシアを可愛がるのは中々愉快だ。
最初は赤面させられてばかりだったけど今は立場が逆転して楽しい。自分から口づける分には照れないのに俺からすると赤面して震えるのには笑いがこらえられなかった。
「エイベル」
「何?」
抱きついてくるレティシアを抱きしめて額に口づける。
赤くなったな。愉快だな。
「やっぱり愛人も許しません。」
バカだよな。お前一人で手一杯だよ。
「俺にはお前だけだよ。約束する」
「私もエイベルだけですわ」
「マールは」
「もう終ったことです。今日は離れませんから覚悟してくださいませ」
意地っ張り。まぁお前が誰を想おうと別にいいけどな。
傍にいたいと選ばれたのは俺だしな。
「風呂も?」
「それは…」
照れて視線を落とす妻の唇を塞ぐ。久々すぎて思わず深く口づけすぎた。赤面して潤んだ瞳で見つめてぷるぷる震える妻を抱き上げる。
今日は甘やかしてやるかな。俺の首に腕をまわしてご満悦みたいだしな。マール、いくら後悔しても、もう渡さないけどな。
レティシアはよく尽くしてくれる。
俺が苦手なところに手を回してしっかり家を守ってくれてる。
学園の優秀な生徒も何人も引き抜いてきたしな。
最初は冴えないのに鍛えると見違える奴が多い。あとレティシアへの忠誠心が凄い。
ビアード公爵夫人として予想以上に働いてくれている。
遠征から帰ると嬉しそうに迎えてくれる。
土産を渡すと喜ぶしな。
時々蜂蜜が食べたいと強請るから常備してやったら贅沢だと怒られた。
時々機嫌とりに渡してやることにした。時々なら喜ぶらしい。
女はよくわからない。
意地っ張りだから、寂しいとは絶対に言わない。
ただ遠征の前夜は俺の腕から離れたがらない。
面倒だと思ってたけど中々良いもんだな。
甘えん坊な、我妻を、俺なりに大事にしようと思う。
最近、情が湧いてきたのかいざってときに家のためにレティシアを切り捨てられるか怪しい。
俺が迷ってる間に自害しそうだけどな。
ただ俺の腕で眠る妻とこのままずっと一緒にいれればいいと思う。




