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追憶令嬢の徒然日記 小話  作者: 夕鈴


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58/92

レティシア19歳  結婚前夜

セリア視点


逃げようとするリオ様を魔法で足止めして、レティと再会をした。

そして私の提案に喜んだレティはリオ様にお願いをしている。リオ様はレティからの無邪気なお願いに一瞬固まったけどレティは気づいていない。


「セリアのお部屋に泊まってもいいですか?」

「本気?」

「はい。セリアが一緒に寝ようって」

「眠れなかったら遅くてもいいから帰ってこいよ」


リオ様はいくつになってもレティのお願いに弱い。

レティが嬉しそうに笑って、リオ様に背を向け私の方に帰ってきた。

ここで一番夜景が綺麗に見える高価な部屋を手配したリオ様。

レティの好物を用意して、ムードを作り恋人として最後の夜を楽しむつもりだったリオ様はレティのお願いに不服そうだけど気にしない。

相変わらずレティの前では取り繕っていけすかない男を演じているのねぇ。

レティは鈍いし、思い込み激しいから気付く様子は一切ないけど。


「セリア、行こう」

「ええ。それでは」


リオ様に礼をして立ち去ろうとすると私にとっては昔から見慣れた忌々しそうに睨んでくる顔に微笑み返す。

レティにとってリオ様は特別。でも私もレティにとって特別なの。

心が狭い男が成長することはあるのかしら?

レティがリオ様の心の狭さに気付いたら怯えるかもしれませんよ?

私とリオ様の無言のやり取りにレティがクスクス笑い出した。


「セリアとリオは相変わらず仲良しですね」


私とリオ様が仲がいいと思っているのはレティだけ。


「レティは変わらないわね」

「会えると思えなかったから嬉しい」


再会したときは怯えて無意識に令嬢モードで取り繕っていたのが嘘のように無邪気に笑うレティ。

誰もレティを責めないのにおバカなんだから。

でも過去のことから目を背けるように関心を反らせ、自分一人で独占できるように誘導した男が悪いか。

弱腰のレティを連れ去って逃げられないように仕組んだ甲斐があったわ。


「そう?ちゃんとレティの花嫁姿は見届けるつもりだったわ。都合をつけられなかったルーン公爵夫妻が残念がってたけど」


フラン王国では明日は陛下の生誕祭。

宰相夫妻が抜けるわけにはいかない。

ここに集まったのは私以外参加を義務付けられている者ばかり。

ほとんどが仮病で欠席。グランド様だけは護衛という役回りで同行したけど。

リオ様がこの日を選んだのは絶対に偶然じゃない。

砂の国とフラン王国は暦が違うからレティは気付いていないけど…。

まぁ伝えてもレティがうじうじ悩むだけで、婚儀を見届けるまで帰国する者はいないでしょう。

シスコンのエドワード様は特に。


「お父様がですか!?リオとの結婚を勝手に決めましたが大丈夫でしょうか…」

「エドワード様が祝福してるんだからそれが答えよ。ルーン公爵家は大丈夫。いつか会いにいってあげなさいよ」


もともとルーン公爵はリオ様を認めていた。

認めていなかったのはルーン公爵夫人とエドワード様。

アルクからのレティの幸せそうな報告を聞くうちにルーン公爵夫人も認めた。

エドワード様は認めたくないけど、レティがいつか帰国するにはリオ様という存在が必要だとわかっているから二人の結婚を許した。

意地っ張りのレティが一人だったら絶対にフラン王国には関わらない道を進む。でもリオ様のためなら答えを変える。

マール公爵家を仲のいい家族と勘違いしているレティはリオ様をマール公爵家から永遠に引き離すことは望まないから。


自分の欲には従わない意地っ張りのレティが私の話を聞いて無理やり口角を上げて微笑んでいる。

レティの令嬢モードの美しいと讃えられていた微笑みはレティが心の中を隠すためにも使われる。


「先の話よ。長い人生なにがあるかわからないでしょ?たまには後先考えず素直になるのもいいと思うわ」


微笑みかけるとレティは唇を結んで下を向いた。

昔なら令嬢モードで微笑み返しただろうレティの素直な反応。

成長しているかはわからないけど、変化はあるのかもしれない。


エドワード様はレティを連れ帰りたいだろうけど、今のフラン王国への帰国はまだ早い。

レティシアのお話は色んな意味で話題を集めている。

エイミー様の試みを知ったら絶叫して絶対帰ってこない。吟遊詩人がレティとリオ様の話を詩っているなんて。


悩んでいるレティの前にお茶を置くとゆっくりと顔を上げた。


「セリアのお茶、」

「何も入れてないわよ」


被験者にされないか警戒したレティのために先にお茶に口をつけると頷いてゆっくりとお茶を飲み始めた。

お茶を飲みふわりと笑う顔は見覚えのあるもの。


「懐かしい」


他愛もない話をしながら、カップのお茶が空になるとレティは空のカップの底を見つめて動きを止めた。

先程までの楽し気な様子が嘘のように静かになったレティ。


「セリア」


ゆっくりと顔を上げたレティに真剣な顔で見つめられたけど、突拍子もないことを考えてないといいけど…。


「あのね、私、リオが追いかけてくるなんて思わなかったんです。このままでいいのかな」


学生時代の演技の時よりも弱々しく話すレティ。

リオ様、なにやってんの…。

二人が再会してから結構な時間が経ったわよ。


「リオは…。傍にいてくれるって、でもリオは優秀で殿下の覚えもめでたい、あのマール公爵家三男…。いなくなったら誰もが悲しむのに。殿下だってリオにわざわざ会いに来られるくらいなのに」


リオ様が傍にいてくれる?

リオ様がレティに纏わり付いているのよ。

殿下が会いたいのはレティ。

でも思い込みの激しいレティは私が言っても絶対に信じない。

たぶんリオ様もこの勘違いを助長させるようなことしている。

レティを殿下に会わせたくないものねぇ…。

殿下にとってレティが特別なことも気づかせたくない…、心が狭く余裕のないリオ様のどこがいいのかしら。


「リオと一緒にいられるのは幸せ、でもいいのかなって思うんです」


昔からレティがリオ様のことを調べることはほとんどない。

レティが子供のような口調で話すのは不安な時や弱っている時。

レティのことに敏感なリオ様だけど、レティがリオ様に向けるものには鈍い。

敵の排除と外堀を埋めるのはうまいのに、レティの本音を引き出すのは下手。

レティを落ち着かせたり安心させたりするのはうまいのに、肝心なところで役立たず。

レティが怖いものや煩わしいものに気付かないようにするのが守ってると思ってるなんて勘違いよねぇ。


「リオ様がいなくても何も揺るがないわよ。殿下の側近の打診も断ってたし」

「打診?」

「リオ様には公的には2度殿下の側近候補の打診があったけど、興味がありませんって断ってたのよ」


豊富な魔力を持ち優秀なリオ様を王国に留めておきたい陛下からの打診も公の場で断った。

幼い頃は友人、学生時代は側近として。

殿下の統治する生徒会でも個人の仕事しかしなかったリオ様の殿下との不仲説がやっかみとして囁かれたけど、真実と知るのは極一部の者だけ。


「知りませんでした。二、二度って大丈夫なんですか!?」

「リオ様以外も側近候補はいたもの。それに本人の意思が一番でしょ?」


驚いているレティ。

王族の側近への打診を断る者はごく僅か。

リオ様以上に断り続けている者のことには気づいてないのかしら。

レティは自分が殿下からの誘いを断り続けていた過去は忘れているのかもしれない。


「そうですが…」


弱々しく呟くレティ。

身長は伸びても、視野は狭いままか。


「リオ様はレティが逃げてもまた追いかけてくるわよ。素直に甘えればいいんじゃないの?まぁリオ様が嫌になったら私が養ってあげるわ」

「リオは優しいから。リオを嫌になるなんてありえません。それにセリアの旦那様に迷惑です」


即答するレティ。

レティはどうしたいかわかっているのに、その道を進むことに躊躇っている。

自分のことよりも他人を思いやるレティの長所は短所でもある。

レティなりの思いやりはレティの身近な人になればなるほど迷惑なものが多い。


「私は結婚しないもの。だからレティを養うくらい余裕よ」

「気持ちだけありがたく、ん?え!?縁談の申し出はあるんでしょう?」

「まぁね。でも結婚したら気ままに研究できないもの。男なんて邪魔なだけ」

「さすがシオン一族。セリアは変わらないね」

「リオ様にとってレティは私の研究みたいなものなのよ」

「それも複雑…私、」


レティは寂しがりやで意地っ張り。

弱そうだけど、本当は強い。

リオ様が傍にいなくても、いずれ新たな道を見つけて幸せになれる。

でもリオ様は違う。

レティのいない世界を受け入れられないリオ様の末路を知ればレティは傷つき引きづる。

見当違いのことで悩み、憂い顔になっているレティの言葉を遮ることにした。


「マール公爵家も快くリオ様を送り出したみたいだし、大丈夫よ。リオ様に話してみなさいよ」

「リオは傍にいるって。遺書も書いてあるし爵位も返上したから大丈夫って。でも昔からあんなにお仕事してたのに。リオは、何になりたかったのかな…」


真剣に悩んでいるレティの問の答えは簡単。

リオ様のしたいことは一つだけ。

レティさえ手に入れば後はどうでもよかったのよ。


「リオ様は自分の欲望に忠実な方。レティが気にしなくて大丈夫よ」


レティがきょとんと首を傾げた。

私はリオ様ほど自分の欲望に忠実な人を知らない。私よりも絶対にリオ様の方が上よ。

リオ様はお前が言うなって言いそうだけど。

意味がわからない顔のままのレティ。

今日はリオ様への嫌がらせも含めてレティと過ごすつもりだったけど変更ね。

リオ様はどうでもいいけど、レティのためなら仕方ない。

お茶を片付けてレティの手を引いて部屋を出る。


不思議そうな顔のレティを連れてリオ様のいる部屋をノックするとすぐにドアが開いた。

リオ様の私に向ける邪魔するなという視線は無視する。


「リオ様、レティがリオ様一人で国に帰ってほしいですって」

「は?シア!?」

「リオ様は王国に必要な人間だから、レティの側にいるべきじゃないって。ステラに譲ります?」

「ありえない。シア、どうした?」

「セリア!?」


心配そうにレティを見つめるリオ様。

レティが私を睨んでいるけど気にしない。

今だからこそどんな道も選べる。レティが心から選んだ道なら私は応援する。

厄介な男を敵に回しても。

リオ様ではなく私を無言で睨み続けるレティの好きな笑みで微笑み背中を軽く叩く。


「悩んでるならちゃんと言いなさい。レティ、時には素直になることも大事よ」

「シア、お前まだそんなことを」


背中を叩かれたことに驚いたレティの肩が一瞬上がり、両手をぎゅっと握った。

レティの握られた拳を解こうと近づくリオ様の足を思いっきり踏みつける。


「リオ様もまずはレティの話を最後まで聞いてください。途中でうやむやにするから、レティが余計に悩むんです。レティ、言ってみなさいよ。リオ様は私が黙らせるし、嫌になったら引き取ってあげるから」

「セリア!?お前、」


低い声音で不満そうにつぶやくリオ様。

レティの耳には聞こえていなくても、面倒くさい男である。


「リオ様、うるさいです」

「は!?」


私にはリオ様の良さは魔力と人脈の広さくらいしか思いつかない。


「リオは帰ったほうがいいのかなって」


リオ様と不毛なやりとりをしていると、ようやく小さな声で零したレティ。

レティがやっと音にした貴重な言葉を最後まで聞かず、言葉を重ねようとするリオ様の足を今度はさらに力を込めて踏みながら最後まで聞けと睨む。


ゆっくりと顔を上げて、令嬢モードの微笑みを浮かべたレティの瞳は先ほどまでの弱々しさが嘘のように強さを宿している。


「リオは優秀ですし、殿下や伯父様達に必要とされているでしょう?それに昔からずっとお仕事頑張ってました。グランド様とも離れ離れですし、リオにとって大事なものはフラン王国にあるものばかり」


感情を隠した瞳だけど、レティが強がっているのにリオ様も気付いてレティ専用の優しい微笑みを浮かべた。

いつの間にか踏んでいた足がなくなり、レティに近づいている。


「俺にとって大事なものはシアだけだよ。俺は殿下にもマール公爵家にも、サイラスにも一切の興味はないんだけど」

「はい!?」


驚いて令嬢モードが剥がれ落ちたレティ。

レティ以外はみんな知っていることだけど、いまだに自覚を持てないレティを見れば見るほどこの男に託していいか不安を覚える。

レティの握り拳を開かせ傷がないことを確認しはじめたリオ様にレティは気付いていない。


「マール公爵家三男の地位はルーン公爵令嬢の婚約者になるためにはありがたかった。それ以外に思い入れはないよ。シアと国外逃亡するための資金を稼ぐために昔から仕事はしてたけど、王家のためでもマールのためでもない。シアと一緒にいるために動いていただけ」


レティの手の傷の確認を終えたリオ様が顔を上げてレティを見つめ、レティ専用の声音で話している。今までのレティならリオ様の色気にあてられ顔を真っ赤にしていたけど、今のレティからは戸惑いしか感じない。


「リオ?」

「父上達も知ってたよ。俺はシアが殿下の婚約者になったら連れて逃げるって言ってたし、兄上達も俺のことを頼りにしてない」

「はい?」

「シアのやりたいことはなんでも手伝うって言ってたろ?」

「セリア、リオがおかしい」


リオ様からのアプローチに気付かなかった昔のレティを思い出す。

リオ様は甘い雰囲気でレティを酔わせて二人の時間を楽しみたいだろうに、レティはそれどころじゃない。

理解したいのに、どんなに考えてもレティにはリオ様の言葉の意味が理解できない。

まぁ模範的な貴族令嬢のルーン公爵令嬢には難しいわよね。自由奔放な公爵家の三男の考えなんて。


「レティ、リオ様は昔から変わらないわ」

「はい?」

「レティ以外に興味なかったもの。ですよね?」

「ああ」

「セリアとリオは仲良しですよね?」

「こんな性悪男とはレティがいなければ話すことはなかったわ」

「シアのお友達じゃなければこんな危険人物ごめんだよ」


レティが私とリオ様を交互に見つめて、意味がわからないという顔をしている。


「俺はマールの三男だからマールの利になる人間としか付き合わない。ただレティシアは特別。だからシアの関係者はマールに関係なく優遇していたよ」

「昔、円滑な人間関係をって」

「ああ。築いているよ。貴族として必要な関係を」

「セリア、どうしよう。訳がわからない」

「わからないならそれでいい。シアの苦手は俺が補うよ。シアに覚えてほしいのは二つだけ。一つは俺はシアにしか興味がないこと。もう一つは何があっても俺がシアの側を離れることがないこと。二つだけなら簡単だろう?理解できないことは忘れて必要なことだけ覚えるのはシアは得意だろう」

「リオ?」

「そろそろ休むか。今日は興奮して疲れただろう?セリア、またな…邪魔するなよ」


困惑しているレティを抱き上げてリオ様が部屋に入っていく。

あの二人、本当に二人で大丈夫かしら…。

言葉は通じ合わなくても、レティはリオ様の手を拒まなかった。

欲に消極的なレティと欲に忠実なリオ様。

リオ様はなにを犠牲にしてもレティだけは守る。

レティのうっかり癖もトラブル吸引体質も変わってないなら番犬は必要よね。

物足りなさを感じても今はリオ様が一番適任なのよね…。

寂しがりやで素直になれないレティには無理矢理でも側にいて愛情を注ぐだろうリオ様が丁度いいのかしら…。

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