レティシア18歳 ギルドのとある1日 その2
ある冒険者視点
俺は森の国のギルド長である親父の命令で各国のギルドをまわっている。
将来、ギルド長を目指すなら冒険者として経験を積んでこいと。
ついでに見聞を広げてこいと追い出された。
俺は丁度探したい人物もいたから親父の命令はありがたかったけど。
俺は砂の国の辺境の村のギルドについた。
このギルドは小さいわりに難易度の高い依頼をこなすと評価が高い。
それに、俺の探し人は砂の国の言葉を勉強していたから、もしかしたらいるかもしれない。
ギルドに入ると特に変わった感じはない。
砂の国の首都ギルドでAランク認定を受けたけど、試しにここでもAランク認定試験を受けた。
危なげなく試験を通過できた。
Sランクは化物クラスなので、まだ俺には荷が重い。
このギルドはAランク冒険者は今は二人だけらしい。
辺境地にあるギルドは冒険者が集まりにくいから仕方ないか。
うちのギルドは大きいから、各ランクそれなりに人数を抱えている。
入り口が騒がしいな。
小柄なローブを来た冒険者が入ってきた。
周りの冒険者からお帰りと話しかけられている。
どこのギルドにも冒険者間で人気のあるやつはいるよな…。
俺の探し人も人気があったよな…。
「レラ姉様、ただいま帰りました。薬草をお願いします」
「お疲れ様。今日は大量ね」
「はい。たくさん取れました。」
「ありがとう。助かるわ。」
どこのギルドも薬草採集は報酬が少ないから人気がない。
だから、受けてくれる冒険者はありがたい。
俺、この声に聞き覚えがあるんだけど…。
手続きをしている二人に目を向ける。
「趣味ですから。」
「今日はどうする?」
「帰ってくるからここで待ってます」
「そうよね。きっと泊まらずに帰ってくるわね。ローブ脱いだら?」
「忘れてました。」
ローブを脱いだ冒険者の銀髪を見て、俺は自分の運の良さを感謝した。
髪が伸びてるけど、間違いない。
「ルリ!!」
俺の声に振り返ったルリに近づいて顔をのぞきこむと、記憶にある瞳の色と違うけど間違いない。
「無事でよかった。突然消えるから心配したよ。もう貴族は追ってこないから帰ってこいよ」
ルリが不思議そうに俺を見ている。
ルリは森の国の貴族に見初められていた。
ギルド長に
自分は死んだことにしてください。
お世話になりました。
と手紙を残して、旅立った。
冒険者は出会いと別れの繰り返し。
ただ親父はルリが気に入っていたから、本人が望むなら連れて帰ってこいと。
うちのギルドで男装の美少女は唯一の華だったしな。
「全部片付いたから。もう大丈夫だ。部屋も用意するし、うちにきてもいい。皆、ルリに会いたがってるよ」
「事情はわからないけど、その手を離そうか。」
認定試験相手のアルクがルリの肩に置いていた俺の手を掴んだ。
俺とルリの間に割り込んだアルクはルリを見た。
俺としてはルリとの再会を邪魔しないでほしい。
「アルク?」
「ルリ、状況をわかっている?」
ルリが首を横にふった。
「彼は森の国出身の冒険者。森の国のギルドにいたことは?」
ルリが何度か瞬きをして目を大きくあけた。
可愛い。普段は無表情なのに時々表情豊かになるんだよな。
髪も伸ばしてとうとう男装をやめたんだな。
ルリがアルクの後から顔を出して、頭をさげた。
「ご迷惑をおかけしました」
「気にするな。ルリ、言葉はどうした?」
ルリの話し方が前よりも丁寧になっている。ルリが困った顔をした。
年上には言葉づかいは丁寧にしろとこのギルドで言われたのか?
ギルドによっては礼儀が厳しい場所もある。
うちのギルドはゆるいけど、ここも厳しい感じはしないけど。
いじめられたりしている感じもない。
「とりあえず、自分の命が大事ならルリに近づくのはやめろ。うちのギルドの常識だ」
「ルリ、ここでも目をつけられたのか!?」
「間違ってはいないけど」
さっきからルリが困った顔をしてるのは、ここのギルドで不自由をさせられているのか…。
ルリが人気があるのと、本人がどう思うかは別だしな。
「ルリ、うちのギルドに帰ろう。もう大丈夫だ。うちのギルドはそれなりに大きいから」
「ルリには保護者がいるから。」
アルクが俺の言葉を遮る。
ルリは身寄りがないはずだが…。
ルリの唯一の家族は
「ルリにはディーネだけだろ?」
「色々あったんだよ」
「ルリ、脅されてるのか!?」
それなら、このギルドから連れ出す。
ルリに届く前に伸ばした俺の腕が掴まれた。
「何の権利があって、俺のシアに触れようとしてんの?」
聞き覚えのある声に視線を向けると、会いたくなかった奴がいた。
一時期うちのギルドに所属していた少年と若い男の冒険者のコンビの片割れ。
銀髪の少女を探していたから、うちはルリのことを隠した。
恐ろしいほど強い二人組。確かうちのギルドに半年程いたよな。
「リオ!?」
「まさか、会うとは思わなかったよ。」
「リオ達が探してたのって、やっぱり」
「ルリは俺のだから。」
リオがルリの肩を抱き寄せた。
「リオ、お帰りなさい。知り合いですか?」
「ただいま。気にしないで。帰ろうか」
「待て、リオ、俺はルリに用があるんだよ」
「ルリはお前に用がない。」
リオがルリの顔を見て頷いた。
「ルリ、お前のことは覚えてないから。」
「は?嘘だろ?俺、ギルドで親父の次に懐かれてたけど」
「森のギルド…。思い出しました。見覚えがある気がしましたが、」
「シア、忘れてただろう?」
「はい。あの時はお世話になりました。リオ、森の国のギルドでお世話になった方です。」
リオの言葉に頷く様子に、忘れられてた?
嘘だろ!?
「ルリ、本当?俺に懐いてたよな」
「それはお前の勘違い。」
「よくわかりませんが、森のギルドに帰るつもりはありませんので、家はいりません」
「シア、どういうこと?」
「私、森の国のギルドにいた時に、貴族に目をつけられて逃げたんです。ただもう大丈夫だから森のギルドにおいでって。あのギルドにも魔道士はいるのに、」
リオの笑顔に寒気がした。
リオが笑うとろくでもないことが起きる…。
うちのギルドではロキとリオの笑顔は危険が常識だった。
「お前、やっぱり。いいや。なぁ、シア、こいつのこと好き?」
「特に。なんとも。」
「俺は?」
リオの顔を見て、顔を真っ赤に染めるルリ。
リオがルリの頬に口づけると、ルリはリオの胸に顔を埋めた。
「ルリは俺のだから。昔から。手を出すならいつでも相手になってやるよ。」
リオは放っておいて、
「ルリはリオといたいの?」
「はい。ギルドの皆様には私は大丈夫だと伝えてください。」
顔を赤くしながらも幸せそうに笑うルリを見て、かなわないと思った。
俺はこんな顔をさせてやれない。
「わかったよ。何かあればうちのギルドにこいよ。これからも、もっと力をつけるから」
「あそこのギルドは誰にでも優しいですね。きっとこれからもたくさんの冒険者を惹きつけますわ」
「うちのギルドはルリにとってよかった?」
「はい。皆様優しくて居心地が良かったです」
ふんわり笑うルリが可愛い。
俺のことを忘れても、ギルドでのことはちゃんと覚えているのか。
「シア、もう帰ろう。俺は家で休みたい。ご飯作ってよ」
「わかりました。私はこれで。」
ルリが礼をして、リオと一緒に去っていくのを見送る。
ルリの相手はリオだったのか…。
アルクに肩を叩かれた。
「一杯やろうか。お前の仲間がいるから今度紹介してやるよ」
アルクの誘いにのるか…。
ルリの様子も知りたい。
俺はいずれルリがうちのギルドに寄った時に、誇れるように力をつけよう。
俺はリオには敵わないからルリのことを諦めた。
アルクに紹介されたシオンはルリのことを諦めないらしい。
若さゆえの無謀か、根気強さなのか、シオンが冒険者として優秀かは怪しい。
ただリオに何度叩きのめされても諦めないシオンを見ると、こいつはもしかしたら化けるかもしれないとも思う。
しばらくはこのギルドで過ごすか。
リオはアルクの予想通り、ルリと一緒に長期任務に出かけた。
男として、好きな女を独占したい気持ちはわかるから仕方ない。
ルリが幸せなら俺は構わないから。
親父にもルリの話をしたら喜ぶだろう。




